はたけカカシは高潔な人間である。忠義を重んじ、仲間の命を尊重する。礼節もわきまえ、配慮も欠かさない。
少なくともカカシ自身は、己のことをそう評していた。
そうでなくては、火影などという面倒な役職を引き受けるはずが無いであろう。
目の前に山積みとなった書類を見上げ、カカシはふ、と筆を置いた。署名すべき契約書、辞令、目を通すべき陳情の類はいくら処理してもきりがなく運ばれてくる。
火影に休日など不要と考えるカカシだ。最後にこの執務室を丸一日空けたのは他里へ視察に赴いた、ふた月前のことだった。それ以来一日のほぼすべてをこの部屋で過ごしている。
体力面で問題は無いが、知らず疲労が溜まっているのか、近頃おかしな夢を見る。
この日もそうだった。
夢の中で、カカシはいつも布団へ横になっている。上掛けはなく、何故か全裸だ。顔の半分を覆う口布すらも外していた。
しばらく仰向けの状態で天井を見上げていると、カカシの側へ一人の男がやってくる。初めは女かと思った。長い髪をうなじでゆるく束ね、ほとんど透けて意味のない、桃色の薄衣を羽織っているのだから。
しかし、がっしりとした骨格に均整の取れた筋肉、何よりはだけた股間にぶら下がるものでそれが男だとすぐに気づいた。
黒々とした下生えに、男が歩くたび力なく揺れるやや小ぶりの陰茎。亀頭が半分皮を被っているが、男はまぎれもなく成人男性だった。
いや、ただの男と呼ぶには多少他人行儀すぎるだろう。なにせ、彼はカカシのよく知る人物なのだ。
「イルカ、先生」
夢の中のカカシは非常に声が細かった。かすれてもいた。もしかしたら現実でも寝言として発声しているのかもしれない。
カカシがどうにか発した言葉に、その人物、うみのイルカは満足げに微笑んでみせた。そうして、おもむろにカカシの体を跨ぎ、四つ這いとなった。
といってもカカシに向けられたのは彼の臀部である。頭部は、カカシの股間に向け伏せられていた。
いきなり目の前に現れた尻に驚いたのは最初だけで、同じ夢を何度も見るうちにカカシはこの展開にも慣れてきた。
今夜も、男にしては丸みのある、どっしりと肉の詰まった尻がカカシの視界を埋めている。礼節のれの字も無い行為だが、仕方がない。これはカカシの夢である。
普段のイルカは言うべくもなく、立派な教職者だ。頼りになる中忍でもある。実際、カカシは彼の実力を見込んでアカデミーの次期教頭へ推薦しようとしていた。それとなく話をしてみたが、イルカも乗り気であるようだった。現実の彼は今頃、昇格試験に向けて夜ふかししているのかもしれない。
真面目で闊達、社交的で他里との交渉でも思わぬ助けとなることがあるイルカを、歴代の火影と同様にカカシもあらゆる場面で重用してきた。先日の視察へも同行させたほどだ。
そこで、ああ、と思い至る。
なぜこんな夢を見るのかという理由だ。
あの時、視察団は六名だった。カカシと補佐役のシカマル、警護につけたライドウとアオバ、ベテランの事務官一名、そしてイルカである。際立って排他的なきらいのあるその里において、過去に三代目の視察に同行した経験のあるライドウとイルカの助言や人脈は大いに役立った。
用意された宿泊所には川べりに風情豊かな露天風呂があり、夜は満天の星が楽しめた。混浴であったが人払いされていたため他に客は無く、また視察団も全員が男であったからカカシは久しぶりに温泉へ浸かることができた。
といっても大人が三人足を伸ばせばいっぱいになるような、小ぶりな浴槽だ。シカマルやライドウたちはともかく事務官が気を遣ってはいけないと、時間をずらし夜更けに入浴していたカカシは、浴槽のふちの岩へもたれぼうっと夜空を見上げていた。
と、その時だ。あれ、と声がして、イルカが露天へ出てきた。
彼はカカシを見るなりずいぶん恐縮し内風呂へ戻ろうとしたが、引き留めて共に湯船に浸かった。股間を隠すこともせず浴槽へ入ったイルカの股間には、確かに今こうして夢の中にいる彼と同じサイズの陽根がぶらさがっていた。特にコンプレックスではないらしい。
露天風呂の中、カカシは彼と共に夜空を見上げ、差し障りのない会話を楽しんだ。夕餉に供された名物料理の話、この地の子供らで流行っている以外な歌、最後は星座の話までせねばならなかった。
というのも、カカシには湯船から出られない訳があったのだ。平素より長風呂が得意な方ではない。温泉地でなければ冬でもシャワーで済ませる性質だのに、どうしても立ち上がることができなかった。
湯の中で、股間が見事に漲っていたのだ。しばらく艶事とは縁遠かったとはいえ、どうしてこのタイミングで、と思うのと同時に原因に思い至った。あまり認めたくはないが、隣にいる男の股間を見たせいだろう。
カカシは男色家ではない。だが、多少の経験はある。けれどそれはすべて任務のうえで必要にかられて行ったことであり、基本的には女の柔肌を揉みしだきたい部類の男だ。
イルカの外見と彼の息子とのギャップに知らず興奮してしまったのかもしれない。そういえば乳首も男にしては少し大ぶりなように見えた。
イルカは人物として好ましくはあるが、決してそういう目で見たことは無いはずなのに、どうしたことだろう。ご無沙汰すぎるのも考えものだ。
それでもまだ、カカシには理性があった。性欲を抑えるための呼吸術も習得していた。理性と技術さえあれば乗り越えられないものはない。
深い呼吸を繰り返し、チャクラの流れを均一化し、股間へ集中した血液を全身へ還元していく。あと少しで通常時に戻せるというところで、
じゃあ、お先に失礼しますね
そう言ってイルカが先に立ち上がった。ほっとしたのもつかの間、次の瞬間、カカシはとんでもない記憶を脳に埋め込まれてしまう。
うわっ
とイルカが言った。まさか、と思った。
忍びたるもの、いくら滑りがよくとも浴槽の中でバランスを崩し転倒するなどありえない行為だからだ。
しかし、それは起こった。しかもある意味最悪であり、ある意味最高の形でだ。
んぶっ
そう言ったのはカカシだった。正確には呻いたという方が正しい。
よろけたイルカの尻が顔面に激突し、割れ目に鼻を挟み込まれたのだ。
闇をつんざくようなイルカの叫び声を聞きつけ駆けつけたライドウは、石畳の上で鼻を押さえてうずくまるカカシと、その前で土下座をするイルカを見て一瞬状況が把握できなかったと後で語っていた。
ともかく、カカシはあの瞬間、見てしまったのだ。イルカの丸い尻を。自分に向かって一直線に落ちてくる、肉の詰まった重そうな尻を。
「うーん」
カカシが唸ると、股間のあたりでイルカが「どうしました?」とこちらを振り向いた。その表情はぼんやりしている。尻はこんなにくっきりはっきり見えているのに。
おそらく自分がイルカ自身というよりも彼の尻へ興味を持っているからだろう。彼がこの夢の内容を知ることは無いだろうが、何だかイルカに申し訳ない。まるで体目当てのようじゃないか。
不誠実な付き合いはしたくないが、自分が不誠実な付き合いしかできない性分であることを理解しているカカシは、これまで誰かと恋仲になったことがなかった。仕事抜きで女を抱くのももっぱら花街である。
そんな倫理観を持つカカシにとって、ちょっと気になった相手の体を、夢とはいえ良いように弄ぶのは気が引ける。
けれど、抗えないものは仕方がない。夢の中では自分がやや原始的で粗野な存在になることもまた、カカシは知っていた。
「なんでもなーいよ」
先程よりも少しはっきりとした声で言って、カカシは目の前の尻へ優しく触れた。声が出しやすくなったのは、夢に馴染んできたからかもしれない。
これなら、いつも通りにできるだろう。
その「いつも通り」をすべく、カカシは薄衣越しにイルカの臀部を撫で回した。
絹に似た素材は肌触りが良くすべらかで、カカシの手に合わせて伸び、縮む。桃色のそれとイルカの浅黒い肌の色が合っていないのが絶妙にいやらしく、撫で回しているだけで己の股間がぴくぴくと反応するのが分かった。
無論、視界の影響のみで兆しているわけではない。カカシの股間へ顔を近づけたイルカが、無骨な手で陰茎を包み、ちろちろと舐め回しているからだ。
正直、上手くはない。これも自分の彼へのイメージなのだろうか。あまりに舌技が上手くともそれはそれで失礼だが、こうも下手だと何だかひどいことをしたくなる。イルカが熱心で、ひたむきなのもいけない。
自分の中に僅かな嗜虐願望があることをカカシは知っているが、それはとっくに飼い慣らせているはずだった。だが、イルカの――あくまで夢の中の、に限るが、イルカの前ではその願望が今にも鎖を引きちぎろうと唸っている感じがする。
物足りない口淫をそのままに、カカシは目の前の尻へ意識を集中した。夢の中ではどうも意識が散漫となっていけない。
イルカは着痩せをするタイプなのか、意外と肉付きが良い。カカシと違い、脂肪の混ざった弾力のある筋肉がついているのだろう。
腰回りは両手で掴んでもびくともしないほどがっしりとしているし、尻は女なら安産型と揶揄されるような大きく安定感のある桃型で、ほくろのひとつもない。
カカシの胸を跨いでいるから自然とその割れ目もうっすら覗いているが、尻穴の周囲には薄く恥毛が生えているようだった。薄衣越しにもやや色素沈着が見て取れるが、男なんてこんなものだろう。
臀部から腿にかけてを撫で回していると、こころなしか尻が揺れ始めた。刺激が物足りないのだろう。相変わらず児戯に似た舌使いの彼は快感に貪欲であるようだ。
――本物もそうなのだろうか。
頭によぎった疑問を追いやり、カカシは求めに応じて両手を彼の桃尻に添えた。ゆっくりと、指を肉に埋めるようにして力を込めていく。
そうしてぎゅう、と左右の肉を掴んでやると、自然と窄まりが露わになった。慎み深い蜜口が恥じらうようにきゅうきゅうと収縮している。とろりと垂れる粘液が卑猥だ。無論、現実の男がアヌスを濡らせるわけもなく、これが夢だと改めて思い知らされる。
布越しも良いが、そろそろ生の尻を愛でてやりたい。カカシが頭で念じると、イルカがまとっていた薄衣が一瞬で姿を消した。魔法じみた便利さだ。当のイルカは自分が突然全裸になったことを気にもせず、ちゅぱちゅぱとカカシの魔羅をしゃぶっている。
その無反応さを少し残念に思いながら、ついに目の当たりにした生の桃尻を掴んで揉みしだく。弾力があるとはいえ当然女のような柔さは無い。しかし張りがあり、カカシの手に吸い付くような瑞々しさがあった。
寄せて、広げて、もっと広げる。肉に引っ張られて彼の慎ましい窄まりが縦へ横へと下品に形を変えていく。とろとろと溢れる蜜は会陰を辿り、皺の伸びた膨らみにまで垂れていった。
そこへふっと息を吹きかけてやると、彼の腰がびくりと跳ねた。しかし、声は聞こえてこない。
夢の中でイルカはいつも、喘ぎ声というものを発しなかった。カカシがそのものを聞いたことが無いからだろうか。どんなにいやらしく触れてやっても、性感帯を弄っても、びくびくと震えるばかりで聞こえるのは粘着質な音ばかりだ。
「……物足りないな」
無意識に、気持ちが音となって漏れていた。
あ、と思った時にはもう遅い。イルカの桃尻を掴んでいたはずの手には何もなく、カカシの魔羅を可愛らしく咥えていたはずの彼が上半身だけの姿となり、うらめしそうにこちらを見ていた。
それもすぐに霞となって消えてしまう。追いかけようにも体が動かない。
待ってくれ、待って、待っ
「……て」
視界に映るのは空を掻く己の右手と、見慣れた天井。
カカシは細いため息と共にその右手を額へ乗せた。執務室の隣へひっそり設けた仮眠部屋。壁に細工を施し入口を隠してあるここへ入れるのはカカシ一人だ。当然、イルカが忍び込み、ましてベッドへ上がれるはずもない。
今日もまた、すべて夢だったというわけだ。分かっていても気が沈む。肩透かしにもほどがあるではないか。
カカシはのっそりと体を起こし、盛り上がった股間を見てまたため息をついた。
あの奇妙な夢を見始めて十日近くになる。初めは挿入まで至っていた。夢の中で射精もしたし、実際起きたら下着が汚れていた。だのに、ここ二、三日はどうもうまくいかない。
途中で妙に物足りなくなって、ふと不満をつぶやくとそこで試合終了とばかりに夢が終わってしまうのだ。
かといって自分で処理をする気にもならず、悶々と日々を過ごす羽目に陥っている。肉体の反応は放っておけば自然と収まるが、性的欲求は燻るばかりだ。
こんなことならさっさと挿れておけばよかった。どうせ夢なのだし。そう思う一方で、夢とはいえ痛い思いをさせたら可哀想だとも思う。彼の快楽に歪む顔は見たいが、苦しむところはあまり見たくないなと思った。
「これはもう、そういうことなのかねぇ」
ひとりごち、カカシは静かに目を瞑った。ひとまず、この元気な子息を鎮めてやらねばならない。呼吸を集中するうち、窓の外で雀が鳴いた。
イルカを執務室へ呼び出したのはその日の夜だった。喫緊の仕事をでっち上げ、もとい探し出し、結果を報告に上がらせた次第だ。
優秀な側近であるところのシカマルが何か言いたげにしていたが、たまには早く帰ってやれと追い出してある。
「急に頼んで悪かったね」
執務机越しにカカシが言うと、床に跪いたままイルカが短く返事をした。
「まあ楽にしてよ」
カカシの言葉に立ち上がるが、彼は両手を背後で組み、畏まった表情を崩さない。
簡潔にまとめられた報告書へ目を通し、判を押す。本来ならばイルカの仕事はここで終わりだ。
カカシは椅子からゆっくりと立ち上がり、木の葉の全景を背に一歩ずつイルカの元へ近づいた。普段ならこんなことはしない。カカシの様子が違うことにイルカも気付いたようだが、彼はその場から微動だにしなかった。
「イルカ先生、疲れているみたいですね」
肩に触れる。やはり彼はぴくりともしない。
「いえ、そんなことは」
「でもほら、隈ができていますよ」
頬に触れる。眉が若干持ち上がった。
「六代目……カカシ様」
「いやだな、様はやめてって言ってるじゃない」
「カ、カカシ、さん。報告書が問題なければ、私は失礼を」
「どうして? 誰か待っている人でもいますか」
「おりません、そんな人は」
知っている。彼がずいぶん長く独り身であること。それどころか恋人の居た気配も無いことは。調べさせたからだ。教頭に推薦するには身辺調査が欠かせないだろう。
だからカカシは知っている。イルカがこの十日の間に仕事で初歩的なミスをしたことを。酒の誘いも断って夜な夜な家へ籠もり、熱い吐息を零していることを。
「ねえ、心配しているんです。あなたは教師だ。里の礎だ。あなたに元気がないと、子どもたちも不安になるでしょう。俺だって、頼りにしているんです。さあほら、話してみてください。何か、変わったことがあったのでは?」
言いながら唇をなぞる。明らかに職務を逸脱したカカシの行いにも、イルカは反発を見せなかった。それどころか頬を赤らめ、じわじわと発汗してもいた。
「さ、最近、おかしな夢を見るんです」
ついにイルカが口を割った。カカシは自然と持ち上がる口角をそのままに、彼の顔を覗き込んだ。
「へえ、というと」
「私の夢の話など些末なことですから」
「いいから、言ってごらん。それとも命令してあげようか」
唇が触れそうな距離で言う。イルカはそれでも後ろに組んだ手を解かず、目を泳がせて唇を震わせた。
「そんな……た、大したことでは無いんです。その、私が六代目をマッサージ、するという夢でして」
「ふうん? 奇遇だね。俺も最近そんな夢を見るんですよ。でも少し違うなぁ……俺は、あなたとヤリまくる夢なんだけど」
「なっ」
そこで初めて身じろいだイルカだが、間近でカカシが首を傾げると口ごもった。
「違う?」
「ち、が……わない、です」
「どうして隠したの。恥ずかしかった?」
背後できつく組まれた両手を解いてやり、イルカの指を絡め取る。指の付け根を擦りながら緩く握ってやると、彼は分かりやすく体を震わせた。
「当然じゃないですか、あんな、あんな……」
「俺があなたのケツを舐め回して穴をほじって、ぐちょぐちょに濡れたアンタを――」
「や、やめてくださいっ」
息のかかる距離で囁けば、イルカが首を振った。頬は赤く、吐き出す息は熱い。今すぐその吐息を呑み込んでやりたいと思いながら、カカシは指を絡ませたまま、イルカから体を離した。
「ごめーんね。つい調子に乗っちゃった」
片目を瞑って言うと、イルカが目に見えてほっとした表情を浮かべた。しかしカカシは気づいている。無意識だろう膝を擦り寄せる彼の、股間がいやらしく膨らんでいることを。
本当にこのまま帰れるとでも思っているのだろうか。いや、帰りたいと思っているのだろうか。今夜もまた生殺しにされるとわかっていて、夢に飛び込むと言うのか。
イルカの濡れた目がカカシを見つめる。取って喰ってくれと、その目が言う。
抑え込んだ嗜虐心が舌なめずりをして獲物を掴んだ。カカシは強く握り直したイルカの手を取り、壁面へ隠した仮眠室の入口を顕現させる。
「二人の初めてが、こんな所じゃ嫌だよね。おいで。ベッドで話そう」
カカシの言葉にイルカの喉が上下した。くっきりと張り出した、男の喉仏だ。どこから見ても逞しく無骨な男を今からこの手で暴き、乱してやろう。もう無理だと懇願するまで焦らし、浅黒い尻肉に紅葉の跡を散らしてやろう。
そうして入れてもらうのだ、彼の柔らかな場所へ。
甘美な想像がカカシを満たす。二人を閉じ込めた扉は、音もなく姿を消した。
おわり
少なくともカカシ自身は、己のことをそう評していた。
そうでなくては、火影などという面倒な役職を引き受けるはずが無いであろう。
目の前に山積みとなった書類を見上げ、カカシはふ、と筆を置いた。署名すべき契約書、辞令、目を通すべき陳情の類はいくら処理してもきりがなく運ばれてくる。
火影に休日など不要と考えるカカシだ。最後にこの執務室を丸一日空けたのは他里へ視察に赴いた、ふた月前のことだった。それ以来一日のほぼすべてをこの部屋で過ごしている。
体力面で問題は無いが、知らず疲労が溜まっているのか、近頃おかしな夢を見る。
この日もそうだった。
夢の中で、カカシはいつも布団へ横になっている。上掛けはなく、何故か全裸だ。顔の半分を覆う口布すらも外していた。
しばらく仰向けの状態で天井を見上げていると、カカシの側へ一人の男がやってくる。初めは女かと思った。長い髪をうなじでゆるく束ね、ほとんど透けて意味のない、桃色の薄衣を羽織っているのだから。
しかし、がっしりとした骨格に均整の取れた筋肉、何よりはだけた股間にぶら下がるものでそれが男だとすぐに気づいた。
黒々とした下生えに、男が歩くたび力なく揺れるやや小ぶりの陰茎。亀頭が半分皮を被っているが、男はまぎれもなく成人男性だった。
いや、ただの男と呼ぶには多少他人行儀すぎるだろう。なにせ、彼はカカシのよく知る人物なのだ。
「イルカ、先生」
夢の中のカカシは非常に声が細かった。かすれてもいた。もしかしたら現実でも寝言として発声しているのかもしれない。
カカシがどうにか発した言葉に、その人物、うみのイルカは満足げに微笑んでみせた。そうして、おもむろにカカシの体を跨ぎ、四つ這いとなった。
といってもカカシに向けられたのは彼の臀部である。頭部は、カカシの股間に向け伏せられていた。
いきなり目の前に現れた尻に驚いたのは最初だけで、同じ夢を何度も見るうちにカカシはこの展開にも慣れてきた。
今夜も、男にしては丸みのある、どっしりと肉の詰まった尻がカカシの視界を埋めている。礼節のれの字も無い行為だが、仕方がない。これはカカシの夢である。
普段のイルカは言うべくもなく、立派な教職者だ。頼りになる中忍でもある。実際、カカシは彼の実力を見込んでアカデミーの次期教頭へ推薦しようとしていた。それとなく話をしてみたが、イルカも乗り気であるようだった。現実の彼は今頃、昇格試験に向けて夜ふかししているのかもしれない。
真面目で闊達、社交的で他里との交渉でも思わぬ助けとなることがあるイルカを、歴代の火影と同様にカカシもあらゆる場面で重用してきた。先日の視察へも同行させたほどだ。
そこで、ああ、と思い至る。
なぜこんな夢を見るのかという理由だ。
あの時、視察団は六名だった。カカシと補佐役のシカマル、警護につけたライドウとアオバ、ベテランの事務官一名、そしてイルカである。際立って排他的なきらいのあるその里において、過去に三代目の視察に同行した経験のあるライドウとイルカの助言や人脈は大いに役立った。
用意された宿泊所には川べりに風情豊かな露天風呂があり、夜は満天の星が楽しめた。混浴であったが人払いされていたため他に客は無く、また視察団も全員が男であったからカカシは久しぶりに温泉へ浸かることができた。
といっても大人が三人足を伸ばせばいっぱいになるような、小ぶりな浴槽だ。シカマルやライドウたちはともかく事務官が気を遣ってはいけないと、時間をずらし夜更けに入浴していたカカシは、浴槽のふちの岩へもたれぼうっと夜空を見上げていた。
と、その時だ。あれ、と声がして、イルカが露天へ出てきた。
彼はカカシを見るなりずいぶん恐縮し内風呂へ戻ろうとしたが、引き留めて共に湯船に浸かった。股間を隠すこともせず浴槽へ入ったイルカの股間には、確かに今こうして夢の中にいる彼と同じサイズの陽根がぶらさがっていた。特にコンプレックスではないらしい。
露天風呂の中、カカシは彼と共に夜空を見上げ、差し障りのない会話を楽しんだ。夕餉に供された名物料理の話、この地の子供らで流行っている以外な歌、最後は星座の話までせねばならなかった。
というのも、カカシには湯船から出られない訳があったのだ。平素より長風呂が得意な方ではない。温泉地でなければ冬でもシャワーで済ませる性質だのに、どうしても立ち上がることができなかった。
湯の中で、股間が見事に漲っていたのだ。しばらく艶事とは縁遠かったとはいえ、どうしてこのタイミングで、と思うのと同時に原因に思い至った。あまり認めたくはないが、隣にいる男の股間を見たせいだろう。
カカシは男色家ではない。だが、多少の経験はある。けれどそれはすべて任務のうえで必要にかられて行ったことであり、基本的には女の柔肌を揉みしだきたい部類の男だ。
イルカの外見と彼の息子とのギャップに知らず興奮してしまったのかもしれない。そういえば乳首も男にしては少し大ぶりなように見えた。
イルカは人物として好ましくはあるが、決してそういう目で見たことは無いはずなのに、どうしたことだろう。ご無沙汰すぎるのも考えものだ。
それでもまだ、カカシには理性があった。性欲を抑えるための呼吸術も習得していた。理性と技術さえあれば乗り越えられないものはない。
深い呼吸を繰り返し、チャクラの流れを均一化し、股間へ集中した血液を全身へ還元していく。あと少しで通常時に戻せるというところで、
じゃあ、お先に失礼しますね
そう言ってイルカが先に立ち上がった。ほっとしたのもつかの間、次の瞬間、カカシはとんでもない記憶を脳に埋め込まれてしまう。
うわっ
とイルカが言った。まさか、と思った。
忍びたるもの、いくら滑りがよくとも浴槽の中でバランスを崩し転倒するなどありえない行為だからだ。
しかし、それは起こった。しかもある意味最悪であり、ある意味最高の形でだ。
んぶっ
そう言ったのはカカシだった。正確には呻いたという方が正しい。
よろけたイルカの尻が顔面に激突し、割れ目に鼻を挟み込まれたのだ。
闇をつんざくようなイルカの叫び声を聞きつけ駆けつけたライドウは、石畳の上で鼻を押さえてうずくまるカカシと、その前で土下座をするイルカを見て一瞬状況が把握できなかったと後で語っていた。
ともかく、カカシはあの瞬間、見てしまったのだ。イルカの丸い尻を。自分に向かって一直線に落ちてくる、肉の詰まった重そうな尻を。
「うーん」
カカシが唸ると、股間のあたりでイルカが「どうしました?」とこちらを振り向いた。その表情はぼんやりしている。尻はこんなにくっきりはっきり見えているのに。
おそらく自分がイルカ自身というよりも彼の尻へ興味を持っているからだろう。彼がこの夢の内容を知ることは無いだろうが、何だかイルカに申し訳ない。まるで体目当てのようじゃないか。
不誠実な付き合いはしたくないが、自分が不誠実な付き合いしかできない性分であることを理解しているカカシは、これまで誰かと恋仲になったことがなかった。仕事抜きで女を抱くのももっぱら花街である。
そんな倫理観を持つカカシにとって、ちょっと気になった相手の体を、夢とはいえ良いように弄ぶのは気が引ける。
けれど、抗えないものは仕方がない。夢の中では自分がやや原始的で粗野な存在になることもまた、カカシは知っていた。
「なんでもなーいよ」
先程よりも少しはっきりとした声で言って、カカシは目の前の尻へ優しく触れた。声が出しやすくなったのは、夢に馴染んできたからかもしれない。
これなら、いつも通りにできるだろう。
その「いつも通り」をすべく、カカシは薄衣越しにイルカの臀部を撫で回した。
絹に似た素材は肌触りが良くすべらかで、カカシの手に合わせて伸び、縮む。桃色のそれとイルカの浅黒い肌の色が合っていないのが絶妙にいやらしく、撫で回しているだけで己の股間がぴくぴくと反応するのが分かった。
無論、視界の影響のみで兆しているわけではない。カカシの股間へ顔を近づけたイルカが、無骨な手で陰茎を包み、ちろちろと舐め回しているからだ。
正直、上手くはない。これも自分の彼へのイメージなのだろうか。あまりに舌技が上手くともそれはそれで失礼だが、こうも下手だと何だかひどいことをしたくなる。イルカが熱心で、ひたむきなのもいけない。
自分の中に僅かな嗜虐願望があることをカカシは知っているが、それはとっくに飼い慣らせているはずだった。だが、イルカの――あくまで夢の中の、に限るが、イルカの前ではその願望が今にも鎖を引きちぎろうと唸っている感じがする。
物足りない口淫をそのままに、カカシは目の前の尻へ意識を集中した。夢の中ではどうも意識が散漫となっていけない。
イルカは着痩せをするタイプなのか、意外と肉付きが良い。カカシと違い、脂肪の混ざった弾力のある筋肉がついているのだろう。
腰回りは両手で掴んでもびくともしないほどがっしりとしているし、尻は女なら安産型と揶揄されるような大きく安定感のある桃型で、ほくろのひとつもない。
カカシの胸を跨いでいるから自然とその割れ目もうっすら覗いているが、尻穴の周囲には薄く恥毛が生えているようだった。薄衣越しにもやや色素沈着が見て取れるが、男なんてこんなものだろう。
臀部から腿にかけてを撫で回していると、こころなしか尻が揺れ始めた。刺激が物足りないのだろう。相変わらず児戯に似た舌使いの彼は快感に貪欲であるようだ。
――本物もそうなのだろうか。
頭によぎった疑問を追いやり、カカシは求めに応じて両手を彼の桃尻に添えた。ゆっくりと、指を肉に埋めるようにして力を込めていく。
そうしてぎゅう、と左右の肉を掴んでやると、自然と窄まりが露わになった。慎み深い蜜口が恥じらうようにきゅうきゅうと収縮している。とろりと垂れる粘液が卑猥だ。無論、現実の男がアヌスを濡らせるわけもなく、これが夢だと改めて思い知らされる。
布越しも良いが、そろそろ生の尻を愛でてやりたい。カカシが頭で念じると、イルカがまとっていた薄衣が一瞬で姿を消した。魔法じみた便利さだ。当のイルカは自分が突然全裸になったことを気にもせず、ちゅぱちゅぱとカカシの魔羅をしゃぶっている。
その無反応さを少し残念に思いながら、ついに目の当たりにした生の桃尻を掴んで揉みしだく。弾力があるとはいえ当然女のような柔さは無い。しかし張りがあり、カカシの手に吸い付くような瑞々しさがあった。
寄せて、広げて、もっと広げる。肉に引っ張られて彼の慎ましい窄まりが縦へ横へと下品に形を変えていく。とろとろと溢れる蜜は会陰を辿り、皺の伸びた膨らみにまで垂れていった。
そこへふっと息を吹きかけてやると、彼の腰がびくりと跳ねた。しかし、声は聞こえてこない。
夢の中でイルカはいつも、喘ぎ声というものを発しなかった。カカシがそのものを聞いたことが無いからだろうか。どんなにいやらしく触れてやっても、性感帯を弄っても、びくびくと震えるばかりで聞こえるのは粘着質な音ばかりだ。
「……物足りないな」
無意識に、気持ちが音となって漏れていた。
あ、と思った時にはもう遅い。イルカの桃尻を掴んでいたはずの手には何もなく、カカシの魔羅を可愛らしく咥えていたはずの彼が上半身だけの姿となり、うらめしそうにこちらを見ていた。
それもすぐに霞となって消えてしまう。追いかけようにも体が動かない。
待ってくれ、待って、待っ
「……て」
視界に映るのは空を掻く己の右手と、見慣れた天井。
カカシは細いため息と共にその右手を額へ乗せた。執務室の隣へひっそり設けた仮眠部屋。壁に細工を施し入口を隠してあるここへ入れるのはカカシ一人だ。当然、イルカが忍び込み、ましてベッドへ上がれるはずもない。
今日もまた、すべて夢だったというわけだ。分かっていても気が沈む。肩透かしにもほどがあるではないか。
カカシはのっそりと体を起こし、盛り上がった股間を見てまたため息をついた。
あの奇妙な夢を見始めて十日近くになる。初めは挿入まで至っていた。夢の中で射精もしたし、実際起きたら下着が汚れていた。だのに、ここ二、三日はどうもうまくいかない。
途中で妙に物足りなくなって、ふと不満をつぶやくとそこで試合終了とばかりに夢が終わってしまうのだ。
かといって自分で処理をする気にもならず、悶々と日々を過ごす羽目に陥っている。肉体の反応は放っておけば自然と収まるが、性的欲求は燻るばかりだ。
こんなことならさっさと挿れておけばよかった。どうせ夢なのだし。そう思う一方で、夢とはいえ痛い思いをさせたら可哀想だとも思う。彼の快楽に歪む顔は見たいが、苦しむところはあまり見たくないなと思った。
「これはもう、そういうことなのかねぇ」
ひとりごち、カカシは静かに目を瞑った。ひとまず、この元気な子息を鎮めてやらねばならない。呼吸を集中するうち、窓の外で雀が鳴いた。
イルカを執務室へ呼び出したのはその日の夜だった。喫緊の仕事をでっち上げ、もとい探し出し、結果を報告に上がらせた次第だ。
優秀な側近であるところのシカマルが何か言いたげにしていたが、たまには早く帰ってやれと追い出してある。
「急に頼んで悪かったね」
執務机越しにカカシが言うと、床に跪いたままイルカが短く返事をした。
「まあ楽にしてよ」
カカシの言葉に立ち上がるが、彼は両手を背後で組み、畏まった表情を崩さない。
簡潔にまとめられた報告書へ目を通し、判を押す。本来ならばイルカの仕事はここで終わりだ。
カカシは椅子からゆっくりと立ち上がり、木の葉の全景を背に一歩ずつイルカの元へ近づいた。普段ならこんなことはしない。カカシの様子が違うことにイルカも気付いたようだが、彼はその場から微動だにしなかった。
「イルカ先生、疲れているみたいですね」
肩に触れる。やはり彼はぴくりともしない。
「いえ、そんなことは」
「でもほら、隈ができていますよ」
頬に触れる。眉が若干持ち上がった。
「六代目……カカシ様」
「いやだな、様はやめてって言ってるじゃない」
「カ、カカシ、さん。報告書が問題なければ、私は失礼を」
「どうして? 誰か待っている人でもいますか」
「おりません、そんな人は」
知っている。彼がずいぶん長く独り身であること。それどころか恋人の居た気配も無いことは。調べさせたからだ。教頭に推薦するには身辺調査が欠かせないだろう。
だからカカシは知っている。イルカがこの十日の間に仕事で初歩的なミスをしたことを。酒の誘いも断って夜な夜な家へ籠もり、熱い吐息を零していることを。
「ねえ、心配しているんです。あなたは教師だ。里の礎だ。あなたに元気がないと、子どもたちも不安になるでしょう。俺だって、頼りにしているんです。さあほら、話してみてください。何か、変わったことがあったのでは?」
言いながら唇をなぞる。明らかに職務を逸脱したカカシの行いにも、イルカは反発を見せなかった。それどころか頬を赤らめ、じわじわと発汗してもいた。
「さ、最近、おかしな夢を見るんです」
ついにイルカが口を割った。カカシは自然と持ち上がる口角をそのままに、彼の顔を覗き込んだ。
「へえ、というと」
「私の夢の話など些末なことですから」
「いいから、言ってごらん。それとも命令してあげようか」
唇が触れそうな距離で言う。イルカはそれでも後ろに組んだ手を解かず、目を泳がせて唇を震わせた。
「そんな……た、大したことでは無いんです。その、私が六代目をマッサージ、するという夢でして」
「ふうん? 奇遇だね。俺も最近そんな夢を見るんですよ。でも少し違うなぁ……俺は、あなたとヤリまくる夢なんだけど」
「なっ」
そこで初めて身じろいだイルカだが、間近でカカシが首を傾げると口ごもった。
「違う?」
「ち、が……わない、です」
「どうして隠したの。恥ずかしかった?」
背後できつく組まれた両手を解いてやり、イルカの指を絡め取る。指の付け根を擦りながら緩く握ってやると、彼は分かりやすく体を震わせた。
「当然じゃないですか、あんな、あんな……」
「俺があなたのケツを舐め回して穴をほじって、ぐちょぐちょに濡れたアンタを――」
「や、やめてくださいっ」
息のかかる距離で囁けば、イルカが首を振った。頬は赤く、吐き出す息は熱い。今すぐその吐息を呑み込んでやりたいと思いながら、カカシは指を絡ませたまま、イルカから体を離した。
「ごめーんね。つい調子に乗っちゃった」
片目を瞑って言うと、イルカが目に見えてほっとした表情を浮かべた。しかしカカシは気づいている。無意識だろう膝を擦り寄せる彼の、股間がいやらしく膨らんでいることを。
本当にこのまま帰れるとでも思っているのだろうか。いや、帰りたいと思っているのだろうか。今夜もまた生殺しにされるとわかっていて、夢に飛び込むと言うのか。
イルカの濡れた目がカカシを見つめる。取って喰ってくれと、その目が言う。
抑え込んだ嗜虐心が舌なめずりをして獲物を掴んだ。カカシは強く握り直したイルカの手を取り、壁面へ隠した仮眠室の入口を顕現させる。
「二人の初めてが、こんな所じゃ嫌だよね。おいで。ベッドで話そう」
カカシの言葉にイルカの喉が上下した。くっきりと張り出した、男の喉仏だ。どこから見ても逞しく無骨な男を今からこの手で暴き、乱してやろう。もう無理だと懇願するまで焦らし、浅黒い尻肉に紅葉の跡を散らしてやろう。
そうして入れてもらうのだ、彼の柔らかな場所へ。
甘美な想像がカカシを満たす。二人を閉じ込めた扉は、音もなく姿を消した。
おわり