B!


「媚薬というものはね、大抵が無味無臭なんですよ」
濁り酒をぐい、とあおったカカシが、空になった器をことりと置いた。
「へえ、そうなんですか」
イルカは焼き魚を箸でつつきながら、彼の器をちらりと見る。陶器でできたそれに並々注がれていたはずの酒は、すっかり彼の喉に流し込まれたらしい。
忍が集う居酒屋の、狭い個室に二人は居た。
イルカが誘えば十回に一回のペースでカカシは誘いに乗ってくれる。今日はその、貴重な一回だ。
彼を酒に誘うにあたって、他の奴らに素顔を見られるのが嫌だからと断られないように、個室を押さえておくのは重要なことだった。遠くにわいわいとした喧騒を聞きながら、イルカは二人の時間を噛み締めていた。
何度カカシに好意をぶつけても断られてばかりだが、どうにも諦めきれない。
せめて酒だけでも、口ではそう誘っているが、イルカはあわよくばその先を狙っていた。
とりわけ今夜は特別だ。日付が変わるまであと二時間と少し。
黒い布の下で上下に動く彼の喉を見るともなしに見てしまう。
「訓練したでしょ、下忍だかなんだかの時に。……え? 座学だった? ああそう。でも中にはありますよ、色や香りのあるものもね。そういうのは飲む側もそうと分かっていて、気分を盛り上げるために服用するわけですから、むしろピンク色だとか苺味だとか、いかにも媚薬然としたものの方が喜ばれるんです」
「そういうものなんですねぇ」
カカシの講釈にふうんと頷いて、自分の器を傾ける。彼が空にしたのと同じ銘柄の酒は、まだ半分ほど残っていた。
確かに媚薬の知識はあるが、耐性訓練で少量摂取して以来、実物はほとんど見ていない。
「ええ、まあ俺にはどれも無意味ですけどね。効かないんで。あなたがこの酒に入れたものも俺には水と一緒です。分かりますか? イルカ先生」
じろり、と音がしそうなほどの湿った視線をカカシが寄こした。
「やや、お気づきでしたか」
からりと笑ってみせたイルカに、呆れたように彼がため息をつく。
「お気づきでしたか、じゃ無いでしょ。わざと俺に見えるように入れておいてよくそんなこと言いますね。こんな強い薬どこから持ってきたか知らないけど、俺相手じゃなかったら犯罪ですよ」
「いやあ、ワンチャンあるかなと思いまして」
てへ、と舌を出して肩を竦める。若い女性がやれば様になる仕草だろうが、二十代も半ばに差し掛かるイルカがやっても痛々しいだけのようだ。その証拠にカカシは眉間に皺を寄せ、ふん、と鼻を鳴らした。
「無いでしょ。どう考えても無いでしょ。何回も言うようだけどさ、男同士だよ?」
「あーあ、カカシさんガード硬ぇな~」
「聞いてる?」
「聞いてますよ。いつまでも男同士がどうのこうのって……意外と古風ですよね」
「あのねぇ」
「カカシさん、好きです! 付き合ってください!」
唐突にがばりと頭を下げ片手を差し出すが、その手は常の如く空を掻くばかりだ。
「ごめーんね」
「出た、『ごめーんね』。その台詞聞きすぎて耳タコですよ。他のこと言えないんですか?」
「いい加減にしなさいよ」
銀色の髪の合間から、鋭い目がイルカを睨みつけた。しかしこれも、イルカにとっては慣れたものだ。
「あ、そうやって睨めば俺が怖気づくと思って。もう慣れましたよ。それに、怒ってても良い男だなって思うだけだから無駄です、無駄」
ひらひらと手を振ったのを無視して、カカシは短い伝票を片手に立ち上がろうとする。
「そろそろ出ましょうか」
「いやいや来たばっかりじゃないですか。まだ一杯しか飲んでないのに何言ってるんですか。個室取ってるのに一杯だけで帰ったらブーイングですよ。店も俺も」
「あなた、酔ってもないのによくもそうべらべら喋れますね」
「カカシさんこそ今日は結構喋ってくれますよね。もしやちょっとは効いて……?」
「ない!」
「ですよねぇ。ま、かんぱーい!」
中途半端に酒の入った器を掲げると、カカシが目の前でがくりと項垂れた。


◇◇◇


今夜もこの人のペースに乗せられてしまった。
カカシは追加した酒を煽りながら、目の前の男をそれとなく眺めた。正面から見ると調子に乗るので、あくまでさりげなく、だ。
黒い目、黒い髪。浅黒い肌は日に焼けたせいだけではなく、生まれ持ったものらしい。
一見目つきの悪く見える一重の瞼はよく見ると奥二重で、酒が過ぎると少し腫れぼったくなるようだった。やや張り出た頬骨などは武骨な男そのものだが、鼻の上を横切る傷が彼に愛嬌を添えていた。
頭の高いところで結わえた髪が、彼が喋る度にひょこひょこと揺れている。にこにこと、貼り付けたような笑みを浮かべてカカシに話しかける内容は大抵いつも同じようなものだ。アカデミーで起こったハプニング、同僚の笑い話、そして、今は里に居ない教え子の思い出。少しだけ声を潜めて語られる子供たちの話は、カカシにとっても耳に優しい。話の最後に「だから、俺と付き合って下さい」と言われて思わず頷きかけるほどに。
「付き合いません」
「ああ~」
「ああ~じゃないんですよ。何回やるのこの話」
呆れて枝豆を投げてやれば、イルカは難なくキャッチして緑の皮を唇に押し当てた。
「ああ、この枝豆がカカシさんならいいのに……」
「やめてよ、もう枝豆食べられなくなっちゃうじゃない。段々変態っぽくなってますよあなた」
「誰のせいだと思ってるんですか」
俺のせいなのか、と睨みつけると、また大げさに肩を竦められた。大体、彼は終始この調子なのだ。付き合えだの何だの、どこまで本気なのか分かったものではない。
ただの、子供を挟んだ元教師と上忍師というだけの間柄だったはずだ。
それが子供たちの道が分かれた途端、いきなり告白された。今夜の様に、何の変哲もない居酒屋で。
そんな素振りも無かったのに、付き合って欲しいなどと手を差し出されても握り返せる訳もないだろう。あっさりと断って、それで済むと思ったのに彼はしつこかった。最初に断って一年経った今もなお、こうして自分を誘ってくるほどに。
害の無さそうな笑みを浮かべて冗談ぽく接してくることがほとんどだが、時折どきりとするような熱いまなざしを向けてくることもある。それを加味しても嫌悪を覚えるものでは無かったから、カカシとしても気の向いた時には彼の誘いを受けているのだ。
しかし、今夜はいただけない。
酒に媚薬を仕込むなど、初めてのことだ。
イルカがついに強硬手段に出たことは少し意外で、それ以上に残念だった。彼も、自分の血筋や地位を狙う他の人間と同じなのかと思わされる。この男だけは自分を物として扱わないのだと、どこかで信用していたらしい。
指先の僅かな動きから彼の企みに気づいていたカカシは、意趣返しにイルカの酒にも媚薬を混ぜていた。カカシが盛られたものとは違い、遅効性で効き目も緩いものだ。
それでも男なら己の身の変化に感じるところはあるはずで、彼が狼狽する様を見て笑ってやろうかと思っていた。そして、この関係も終わりにするのだ。
勿体ないような気もする。
イルカとの会話は気楽で、このままもうしばらく同じ関係を続いていても良いと思っていた。
それにイルカにはああ言ったものの、実はカカシは男も対象にできる。だが何となく、彼とは一線を越えたくないと感じていたのだ。
明るくて、少し抜けている、清廉潔白なイルカ先生。この男にはそれが似合いに思えた。
今夜の仕打ちに懲りたら、カカシのことなど忘れて普通の幸せとやらを手に入れられるだろう。
彼の話を聞きながら、酒をちびちびと舐める。
卓上の肴がすべて片付いた頃に、その時は訪れた。
急に、イルカがもぞもぞと身体を捩り出したのだ。顔に赤みが増し、額にぷつりと浮いた汗がこめかみへ流れていく。はぁ、と吐いた息の熱さまで目に見えるようだった。
「どうしました?」
何も気付かないふりで言えば、イルカは弾かれたように顔を上げた。そして、いえ、と小さく首を振る。
あれ、と思った。
想像していたような、大声で騒いだり慌てて見せる様子が無い。
むしろ、こちらに気付かれまいと懸命に堪えているようだった。唇をきゅ、と引き結んで、目線を外して。
目尻を赤くし、俯き加減につぶらな瞳を潤ませるイルカの姿にあらぬところがぴくりと反応しかけてしまい、カカシは心の中で大きく頭を振った。いやいや、そんな訳ないだろう。
「具合が悪そうですね、大丈夫ですか」
計画変更だ。
おかしなことになる前にとっとと帰してしまおうと、彼へ手を伸ばす。
立たせてやろうとしたその親切心は、弱々しい手によって押し戻された。熱く、少し湿った手のひらに拒絶される。
「平気です、少し酔ったみたいで……休んだら帰りますから、先に出られてください」
心なしか、その声にも力が無い。それどころか、熱が籠って普段よりも艶のある響きだった。
「いや、反則でしょ」
思わず口に出た本音に、イルカが何のことか分からないといった顔でカカシを見上げた。
潤んだ瞳。睫毛まで濡れている。目尻は桃色に染まり、閉じきれない口から覗いた舌は震える程紅かった。
カカシはずい、と身を乗り出し、机を押しのけてイルカに近寄った。口布を外しているから、鼻息が荒いのが丸わかりだろう。
だがイルカはそれどころでは無いらしく、カカシが近寄るのとは逆にずりずりと尻をついて後ろへ下がっていく。普段の彼ならば喜んで飛びついてきそうなところだ。
「だ、だめです、来ないで」
「どうしてです」
「いいから、こっち来んなよ……っ」
ぶんぶんと、それでも力無く手を振り回す彼に苦笑する。さっきまでの威勢はどこへ行ったのだろう。
「何よそれ」
「だめなんですよ、勘弁して下さい……」
首まで赤くして、カカシと決して目を合わせようとしないイルカの姿がいとけなく見えてひどく煽られた。
ふざけてばかりいると思っていたのに、こんな一面意外もいいところだ。
膝を立てた彼が、内腿をすりすりと擦り合わせている。布の下で催しているのだろう、その様子を隠したいのか、必死にカカシの胸を両手で押していた。だが、彼の手には大して力も入っていない。
賑やかな居酒屋の奥で、大の男が無言で追いかけっこをしているなどと誰が思うだろう。
あと一歩のところまで近づいたとき、カカシの腕が机にぶつかり、中身の残っていた器がごとりと倒れた。滴り落ちる酒が、座布団を濡らしていく。
まったくの不注意だ、この俺としたことが――。
カカシは内心愕然としながら、しかしこれを好機と捉える。
小さく戸を開け、店員を呼びつける。詫びに、と飲み代の数倍になると思しき金を置いて、カカシは店員に見えないよう背中に庇ったイルカごと印を組んだ。
一瞬の後に、周囲を見慣れた家具で囲まれる。
背中で固まっていたイルカは自分の置かれた場所に気付いたのだろう、カカシの背を蹴るようにして離れた。
「あ、あれだけ入れてくれって言っても駄目だったのに……っ」
詰る声に、何度も自宅前で待ち伏せされたことを思い出す。ある時は偶然を装って、ある時は酒を手土産に。
そのどれもすげなく断られた彼からすれば、突然自宅に連れ込まれ声を荒げるのも無理はない。
だが、潤んだ目で睨みつけられても今のカカシにとっては情欲を煽られるばかりで逆効果だった。
「それはそれ、これはこれです」
「何だよそれ……んっ」
文句の形に開いた唇にむしゃぶりつく。
彼の唇は想像以上に弾力があった。少しかさついた表面を舌で舐めあげればびくりと震え、無意識にだろう、こちらの肩へすがりついてくる。
開いた歯の間から舌を差し込み、酒臭い咥内をねぶってやる。彼が身を引こうとしたところ、片手で首の後ろを抑えてやれば舌に軽く歯が立てられた。
やるならやってみれば。挑発を込めて上顎を擽ると、鼻から抜けるような声と共に舌が自由になる。
居酒屋での様子からも感じたことだが、彼はずいぶん物慣れない。カカシに媚薬を盛った男と同一人物だろうかと思えるほどだ。さながら初めて他人と唇を合わせるような――
そこまで考えてはっとする。
カカシは咄嗟に口を離し、正面からイルカの顔を見た。
唇を赤く濡らし、半開きのそこからたらりと唾液を零している彼の瞳はこれまで見たことのないほど潤み、蕩けきっている。
「あんた、まさか初めてじゃないでしょうね」
疑念を口に乗せれば、イルカは目に見えて顔を赤くした。急に我に返ったようにきょろきょろと視線を泳がせ、しまいにはきつくカカシを睨みつける。
「……だったら、何だって言うんです」
「経験無いのに俺に媚薬なんか盛っちゃったわけ?」
「いけませんか」
「だめでしょ」
間髪入れず答えれば、イルカはぐっと言葉に詰まってしまった。
ちぐはぐな態度に、ここで彼を帰すべきではないかと頭の中で自分が言う。
元から関係を持つつもりでは無かったのだ。ちょっと初心な仕草にくらりときて攫ってきてしまったけれど。
だが、カカシの目は彼の、てらてらと光る唇に釘付けだ。意外に柔らかくぷるんとして、美味かった。
ごくりと喉が鳴る。
瞬きも忘れて唇に見入るカカシの様子を恐れたのか、イルカが腕の中で逃げの体勢をとったのがわかった。
そうはさせるか。
考えるより先に身体が動いた。イルカの首を引き寄せ、股の間に片足を入れて壁に押し付ける。ダン、と派手な音がした。
イルカもイルカで危機を覚えたのか咄嗟に暗器へ手を伸ばしていたから中々侮れない。もちろん、彼の手が触れた先からは既に物騒なものは抜き去っておいたのだが。
「カ、カシさ……っ」
文句を言いたげに開いた口は塞いでやる。その間に覗く、柔らかな舌をじゅるりと吸い上げながら太腿で股間を押してやると、わかりやすくびくりと震えた。
無骨に見えて、感じやすい身体をしている。カカシは口づけながら内心舌を巻いた。
衣服の上から身体の線をなぞる動きにもいちいち反応し、耳を、頬を赤く染めている。普段の彼との落差にどこか滾るものがあった。明るく、日の下が似合う青年である、彼がこんな風に愛撫に震えるとは。
「ま、待って」
「無理でしょ」
口づけの合間、ようやくイルカのあげた制止の声を一笑に付し、カカシは目の前の身体を横抱きに掬い上げると真っ直ぐベッドへと向かった。
開け放ったままのカーテンからは満月の明かりが降り注いでいる。
おあつらえ向けのようなロマンチックな情景にも、ベッドへ投げ出されたイルカは怯えたようにカカシを見上げてきた。その目には普段カカシにモーションをしかけてくる時の、どこか斜に構えた色はどこにも無い。敵を前に怯える敗者の目でもまた無かった。強いて言うならば、根底に期待を孕んだ、雄に食われるのを待つ雌のそれだ。
「俺と、したかったんでしょ」
あえてからかいを声音に乗せれば、イルカが唇をきりりと噛んだ。伏せた目の端が夜目にも赤らんで見え、下腹部に重ったるい熱が集まるのを感じる。
背丈もそう変わらない男だ。骨格はがしりとしていて、鍛えぬけばむしろカカシよりも大柄になるだろう。
長い髪も決して女性的ではないというのに、どうしてだろう、額にはらりと落ちる一筋がどうにも艶めいて見える。
問いに答えないイルカに、カカシもまた黙ったままにじり寄る。
ベストのジッパーに手をかけても、彼はびくりと肩を跳ねさせただけで抵抗をしなかった。
ぽいぽいと衣服をはぎ取り、剥き出しの肩に月の光が白く映るのに欲情して歯を立てた。痛い、と小さく呟いたイルカは、けれどそれでもカカシを押しのけはしない。
下着一枚になってやっと、羞恥心を思い出したかのように両手で股間を隠し始めた。
その手を難なく外して股の間を見れば、下着の中心にじわじわと広がる染みがある。布地を押し上げるように形を変えたものから滲んでしまったのだろう。媚薬の効果は続いているようだ。
屈み、そこへ顔を寄せようとしたカカシの肩を彼が掴んだ。ちら、と見上げれば、唇を噛み締め、困ったように眉を寄せたイルカがふるふると首を振った。
「やっぱり、だめです」
「どうして? あなたから誘ったんじゃない」
「でも」
恥ずかしい、と消え入りそうな声で言う。
脛に毛を生やした男が何を言う、と思う気持ちと比例して、そんな男が恥じらっていることにどうしようもなく興奮した。
自分にこんな性癖があろうとは思いもしない。男を相手にしたことはあるが、積極的に挑んだことは無かった。それなのに、彼にはどうして手を出しているのだろう。だめだと、言われてしまったのに。
もじ、とイルカが膝を寄せる。カカシはその動きを逆手にとって、彼の下着を一気に引き抜いた。
「わっ」
はずみで後ろに倒れたイルカに間髪入れず覆い被さるが、さすがと言おうかイルカもまたこの一瞬の間にカカシに背を向ける形でうつ伏せに身体を丸めていた。
急所を守るように小さくなる彼の背の、ちょうど中央にはいびつに縫われた大きな傷跡が残っている。
いつか話に聞いた、ナルトを守った時のものだろう。それ以外にも大小の古傷はあるが、この傷の存在感には敵わない。
カカシは身体を起こし、身に着けていた一切を脱ぎ捨てた。イルカの衣服に重ねるようにベッドの下へすべて落としてしまう。
一糸まとわぬ姿で再び彼へ覆い被されば、素肌が直接触れる感覚にびりりと痺れるものがあった。イルカもまた、カカシの下で驚いたように頭を振っている。
ぱたぱたと揺れる一括りの髪の根元、薄い色の髪紐をしゅるりと解く。はらりと落ちる黒髪がうなじから肩先にかかり、カカシはそこへ顔を埋めた。
「怖がんないでよ、酷いことなんかしやしないよ」
酒と汗の匂いを嗅ぎながら囁けば、彼は小さく呻くような声を出した。ぼそぼそと、声が、とか、エロい、とか聞こえてくるが拒絶のそれでは無さそうだ。
カカシはイルカの肩口をちゅうと吸いながら徐々に背を辿っていく。若く張りのある筋肉、火照った肌。舌先に感じるしょっぱさに息が荒くなる。
大きな傷跡をべろりと舐め上げた時、ついにイルカが背中をしならせた。
「んっ、あ、あ……っ」
普段、耳に心地く響くテノールが、今は甘く弾んでいる。
薄い皮膚をべろべろとなぞる度に彼は固い腹をひくひくと震わせ、無意識にだろう、腰を浮かせていた。
その反応に胸を擽られながら肌を辿り、引き締まった尻に行き着いた時だ。
手のひらで汗ばんだそこをむにゅりと掴めば、イルカが焦ったようにカカシの手を掴んできた。
それを片手でいなしながら尻の合間、深い谷間を人差し指ですう、と上から下に撫でていく。軽く触れているだけだというのに、イルカは唸りながら腰を震わせた。
「うっ、ふぅ……っ」
吐息を漏らす彼の背には、薄っすらと汗が浮かんでいる。鼓動も呼気も次第に速さを増し、四つ這いに突っ張っていた腕がぐにゃりと崩れていた。
そういえば媚薬を飲ませていたな、と今更ながらに思い出す。カカシには水と同じとはいえ、耐性が低い者であればかなり辛い濃度だろう。
前に手を回してみれば、そそり立った若茎からは漏らしたようにぼとぼとと先走りが零れていた。
「ああっ、あ、さわ、ら、ないで」
「でも辛いでしょ? ごめんね、気付かなくて」
「いい、から……っあ、だめ、だめ……っ」
茎を擦ったのは二、三度だ。それなのにイルカはびくんと大きく身体を震わせ、勢いよく精を吐き出してしまった。
若いから、といってもこれは早すぎる。薬の効き易い体質なのだろうか。耐性訓練をすべきではと思う反面、手にかかった飛沫の熱さ、粘ついた感触に下腹がずんと重くなる。
「う……あ、は……」
べしゃりとシーツに倒れる身体を眼下に見ながら、荒くなる息を抑えることができない。
「イルカ、せんせ」
肩を掴み、身体を返す。彼は力の抜けた上半身を先に、そうして次には白濁にまみれた下半身をカカシに晒した。
吐き出したばかりの濃い精は彼の性器周辺をぬらぬらと濡らしている。濃く繁った黒い下生えに白が飛び散っているのが何とも生々しい。
はあはあと息を吐き出す口元は緩み、頬は薔薇色だ。鍛えられ、緩く盛り上がった胸の両端ではささやかな粒がぴん、と存在を主張していた。
「あうっ」
吸い寄せられるように胸へ手を伸ばしたカカシが粒を弾いてやれば、イルカは大げさなほど身体を跳ねさせた。カカシがいつも使っている枕を、彼の指先がきつく握り締めている。
自分の日常にイルカが居るのだ。夜の相手を自宅に連れ込んだことなどこれまで無い。最初の一人が彼になるなど、自分でも未だに信じられなかった。
短く切りそろえられた爪が、枕を掴んで白く染まっている。ぞくぞくと這い上がる興奮に促されるまま、カカシはイルカの足を大きく開き、その間に身体を収めた。
「やっ、ちょ、ちょっと……」
イルカの声に焦りが滲む。弱弱しい抵抗を無視して覆い被されば、観念したように唇を引き結び、瞳を閉じてしまった。
鼻を横切る傷をまじまじと見ながら、汗の滲む頬をべろりと舐めた。ん、と小さく鳴いた彼の唇もまた、ぺろぺろと舌先で味見する。
ぷるん、と弾力のある唇はカカシの誘いに容易く開き、その舌を招き入れた。熱を持った咥内に唾液を流し込み、彼の喉が上下するのを指先で確認する。まだ閉じたままの瞼はふるふると戦慄き、困ったように眉尻を下げていた。
可愛いじゃないか。
おもむろにそう思ってしまい、カカシは内心動揺する。ほんの一時前には迷惑にも感じていた相手だというのに。
俺も意外と現金だったということか。自嘲しながらも、彼の身体をまさぐる手は止まらない。首筋を擽り、鎖骨をなぞりながら胸元へ手を這わせる。
健気に存在を主張する粒の周りをくるくると撫でてやると、繋がったままの咥内でイルカの舌がでたらめに動いた。
「んっ、んぅ……んふっ、んっ、う……」
胸の快感は下半身へ直結していると聞く。その証拠に、イルカはカカシの下でもじもじと脚を動かし始めた。間に居座るカカシに膝を擦り付ける形になってはいるが。
反応の良さに気をよくし、散々嬲った唇を解放してやる。
互いの唾液に濡れた唇をてらてらと輝かせながら放心している姿は普段の彼から想像もつかないもので、股間がずきりと痛んだ。
この姿を見るのは自分が初めてだということに、知らず気分が高揚する。
目尻に唇を寄せ、浮いた涙を吸い取る。
驚いたようにこちらを見上げる彼に苦笑を返して、太い筋の浮く首筋へ唇を落とした。舌先に伝わる脈拍の速さに興奮しながら舐め、吸い上げる。
痛い、という声を聞きながら吸い続ければ、浅黒い肌に濃い色のうっ血が残った。支給服の襟元で隠れるか隠れないかといった具合だ。明日、どれほどの人数が気付くだろうかと考え、口元がいびつに歪む。
じわりと汗の浮かぶ肌に躊躇いなく舌を這わせ、緩く盛り上がった胸筋を手のひらで揉む。
ん、ん、と恥ずかしそうに上がる声をもっと聞きたくて、尖り切った乳首をれろりと舐めた。
「あんっ! あっ、や、だ、だめです……っあ、あっ」
女のものと比べささやかな粒は舌で転がすだけではすぐに逃げてしまう。唇をすぼめてちゅうと吸ってやると、イルカはひと際大きな声をあげて身体を固くした。
媚薬が効いているにしても感じすぎではないだろうか。初めてだと言ったのは真実に思えるが――
「イルカせんせ、あなた自分でここ弄ってるでしょ」
ここ、と言いながら、指先で乳首をきゅうと抓り上げた。ひん、とイルカが泣き声をあげる。
「し、してない、してないですそんなこと……っ」
顔を真っ赤にして潤んだ瞳を向けてくる彼は、嘘が苦手なようだ。
カカシは「うそつき」と一蹴し、固く尖ったそこを唇と指で執拗に愛撫した。
「やっ、あぁっ、だめです、だめですってば……ん、んぅっ」
「違うでしょ、もっと触ってって言うんだよ」
「そんな……あ、む、むり……うあ、あっ」
強情さを楽しむ余裕も、あとどれほど持つだろう。イルカを組み敷きながら、カカシの陰茎は痛いほど勃起していた。
熟れ切った胸元から、割れた腹を伝い、濃く繁る下生えまで降りていく。
両足をがばりと肩に抱え上げれば、彼がじたばたと暴れ出した。一度達してあるというのに、しとどに先走りを漏らす陰茎を見られるのが恥ずかしいのだろうか。それとも、その後ろでひくひくと蠢く孔に、早くねじ込んで欲しいのだろうか。
血管を浮かせる茎を二本指で上から下に擦ってやる。それだけで、鈴口にはぷくぅと透明な球が浮かんだ。
「あっ、ああ、カカシさん、見ないで、おねがい……」
「どこを? このはしたないペニス? それとも、エッチな孔かな」
言いながら後孔の周囲を指でぐるりと撫でれば、そこはカカシの指に喜んだようにきゅうきゅうと収縮した。
「うあぁっ、だ、だめ、汚いから」
「こんなの、汚いうちに入らないでしょ」
「や、だめ、あ、ひ……ひぃ……っ」
ずぶりと、中指を挿し入れる。初めて、だというそこは思った以上に柔軟にカカシの指を吞み込んだ。
「初めてだって聞いてなかったら随分遊んでるなって思うとこですよ。ねえ、一人遊び、好きなの?」
潤滑油も何もないまま、浅いところを抜き差しする。イルカは首を振り否定するが、勃起したままの陰茎はぴくぴくと震えて彼を裏切っていた。
離しがたいというかのように吸い付いてくる肉壺から、にゅぽんと指を引き抜く。
体液でぬらりと光る指を、彼によく見えるようにくん、と嗅いだ。うそ、と呟いたイルカはしかし、次第にその顔色を変えていく。
薄く開いた唇から零れる吐息が、甘ったるく熱を孕む。潤んだ瞳はカカシにじっとりとした視線を向け、シーツを掴んでいた指先が、おずおずとカカシの指に絡んだ。体液でぬるついた中指を彼の指が撫でる。
その指をくい、と引けば、イルカがゆっくりと身体を起こした。足を開いたままの彼を正面から膝に乗せる。
「こんなに、やらしい人だなんて思いませんでした」
鼻先を擦り付けながらイルカが言う。
「それはあなたでしょ」
引き締まった、しかしむにゅりと指の沈む尻を両手で掴む。互いの陰茎を擦り合うようにゆさゆさと揺すってやれば、彼が甘い吐息と共にカカシの肩に顔を埋めた。
間近にある桃色の耳に口を寄せ、耳朶を食む。
「気持ちいい?」
「いい、です」
「ふふ、素直。……ねぇ、もっと気持ち良いことしようか」
吐息と共に流し込めば、彼ははっきりと頷いた。



「ふっ……ん、ふぅ……」
快感に蕩けた声を遠くに聞きながら、カカシは形の良い尻の合間、いやらしくぬるんだ窄まりへ指を埋めていた。
尻をカカシの顔に向ける形で身体を跨いでいるイルカは、最初こそいきり勃った陰茎を舐めしゃぶっていたものの、次第に力が抜けたように上半身をべしゃりと倒してしまった。今はカカシの竿に頬を擦り付けながら、はぁはぁと荒い息を吐くばかりのようだ。
柔らかく解けた孔はもう指を三本咥えている。かろうじて自宅に残っていたジェルを塗り込めたそこはぬらぬらと光り、とても排泄腔とは思えなかった。
くぱりと左右に開いてやると、真っ赤な内側がひくひくと蠢いているのも丸見えだ。
「カ、カシ、さん、も、もう……っ」
「もう、何?」
言いながら彼の弱い場所、感触の違う場所をとんとんと叩いてやる。ちょうどペニスの裏側だ。
あ、あ、という声を聞きながら薄っすら膨らんだ会陰を同時に揉みこめば、イルカの腰が大きく跳ねた。
「あっ、あっ、だめ、あぁっ」
指がぎゅうぎゅうと締め付けられる。ぴゅるっと飛んだ白濁がカカシの腹に散った。
もう何度目だろう。媚薬の効果も薄れてきたのでは、と思うのに、イルカの身体は発情したように未だ、どこもかしこも熱かった。
「ひ……う、うぅ……もう、だめだぁ……」
涙声の彼が、ねだるように腰を振る。熱い手のひらがカカシの陰茎を握り、ちろちろと筋を舐められた。
「欲しいの?」
「ほ、しい……ください、カカシさんの」
「俺の、何」
「わかってるくせに……くそ、もう……っ」
カカシの上から降りたイルカが、這うようにして隣に横たわった。両側から頬を挟まれ、涙と鼻水にまみれた顔が近づいてくるのを、薄っすらと笑みを浮かべたままで見つめる。
ちゅう、と乱暴に唇を吸われたかと思うと、潤んだ瞳の彼が悔しそうに口を開いた。
「カカシさんの、……ち、ちんぽ、俺にください」
カカシを睨みつける表情とは逆に、彼の手は望んだ陰茎をすりすりと撫で擦っている。
従順なのか反抗的なのかわからないような仕草が愛らしい。そう、愛らしいのだ。ここにきてはもう自覚するしかなかった。
自宅へ連れて来た。裸に向いて、組み敷いた。そうして今は可愛いとまで思っている。
この感情が夜を越えても持続するかは分からないが、後から考えれば良い話だ。今はこの限界寸前のものを、求められた通り彼に捧げてしまいたい。
「よく言えたね」
こめかみに口づけを落とし、イルカの手の上から自身の陰茎を扱きながら起き上がる。
意外に細い足首を掴み大きく股を開いても、もう彼は抵抗しなかった。
腰の下に枕を差し込み、折り曲げた両足の間に膝を進める。
彼の陰茎はくたりと萎えていたけれど、先ほどまで指をしゃぶっていた後孔はジェルをとろとろと漏らしながら、卑猥に収縮していた。
「あ……」
陰茎の先をひたりと押し当てる。ぐに、ぐにと皺を伸ばしながら弾力を味わっていると、イルカが焦れたように腰を揺らした。
「カカシ、さん」
「ん?」
上目に見たイルカは目を蕩けさせ、片手の指を緩く噛んでいた。そうして、躊躇うように唇が震える。
「す、すき……」
細い声だった。普段生徒を叱りつける彼のものとは思えないほど。
どきりと心臓が弾む。自分でも驚くほど鼓動が早鳴り、余裕のはずだった表情が崩れていくのが分かった。竿が一回り大きくなったような気さえする。
「っ……そりゃ、どーも」
「あ、あっ、あっ」
「うっ……くそ、何だこれ……っ」
ずぐりと先端を挿入する。それだけで溶かされてしまいそうなほど彼の中は熱く、蕩けていた。指で感じていた以上のうねりでもって、カカシを導くように奥へ、奥へと誘ってくる。
「あっ、すご、すごい、カカシさん……っ」
躊躇いがちにカカシの腕へ伸びてきたイルカの手を掴み、指を絡め合う。
「あ、あ、どうしよう、あんっ、いい、いいっ」
カカシの熱心な愛撫のおかげか薬のせいか、それとも彼の資質だろうか。イルカは初めてにしては深く感じ入っているようだった。
自分にしてもそうだ。挿入した時点でこれほど快感を得るなど、普段の性交では無いことだ。
気を抜けば自分も喘いでしまいそうで、カカシはきつく唇を引き結んだままイルカの身体を味わうことに熱中した。
浅いところをぐちゅぐちゅと掻き混ぜるだけでも瞼の裏がちかちかとするほど快感が立ち上る。イルカはひっきりなしに嬌声を上げ、カカシと結んだ手にぎゅうぎゅうと力を入れていた。痛いほどのその力に、ますます興奮が煽られる。
暴発の無様を晒さないよう慎重に奥へと進めば、根元まで埋め込んだところで下腹が彼の股間へ当たった。
「うあぁ……っ」
仰け反った彼の喉元がやけに白く見えて、吸い寄せられるように唇を寄せた。ますます深くなる挿入にイルカは身体を緊張させたが、張り出した喉をべろりと舐めれば、びしゃ、と股間で濡れた音がした。
「う……あ、は、あぁ……」
手でまさぐれば、彼の萎えた陰茎の周りにさらりとした汁が散っていた。男でも潮を吹くのだと知ってはいたが、実際目にする時が来るとは。
ゆるゆると腰を動かしながら彼の肌に触れていく。擽るように胸を撫でていると、イルカがカカシの髪をそっと引っ張った。
「そ、そこ触って……お、おっぱい、弄って、くりくりって……あ、あ……んっ」
要望通り舌と指先で嬲ってやれば、そこはすぐに芯を持った。舌先で転がすたびに肉壁がきゅうきゅうとカカシのものを締め付ける。
握ったままの右手で、彼の指先が甘えるようにカカシの甲を撫でた。
「き……もち、い……カカシさん、すき、すきだぁ……っ」
まただ。じわじわと顔に血が集まるのを感じ、カカシはわざと意地悪い声を出した。
「好きな相手に薬盛っちゃダメでしょ」
「ごめんな、さ、だって、だってぇ……」
「だってじゃなーいよ」
かり、と粒を噛んでやれば、ああん、と甲高い声と共に陰茎がまた締め付けられる。もう持ちそうもない。
カカシは名残惜しく胸から顔を離すと、身体を起こして彼の膝に片手をかけた。
雁首まで引き抜いて、ずん、と奥まで突き上げる。
「あうっ」
繋いだ手から彼の力が抜けかけるのに、今度はカカシの方から強く繋ぎ直す。腰を打ち付けるたびに肉のぶつかる生々しい音が響き、シーツに散る乱れた髪が目に焼き付いた。
「うれし、い、ほんとに、あっ、触ってもらえる、なんてっ」
揺さぶられながら、イルカが切れ切れの声を出す。
「ずっと、……っん、ひ、一人で、してたから……あっ、あんっ」
「はっ可愛くなっちゃって……あんた、俺のこと考えてオナニーしてたの?」
からかうつもりが、言いながらその痴態を想像し堪らなくなった。暗い部屋で一人、尻の穴を弄りながらカカシの名を呼ぶ彼の姿はどんなにかいやらしいだろう。
イルカは目を伏せこくりと頷き、カカシに向かって空いた手を伸ばしてきた。誘いのままに肌を寄せ、伸ばした舌で互いを味わう。
腰に、彼の両脚が絡んだ。逃がすまいとするかのようにぎゅうぎゅうと密着されるのに、負けじと腰を振る。
奥にぐり、と当たった感覚がした。悲鳴のような声を上げたイルカがまたカカシの腹を濡らす。
その間も彼の拘束は緩まず、カカシは避妊具をつけていないのも忘れイルカの中で自分を追い上げていった。うねる肉壁はカカシの雄を熱く甘やかし、引き抜いても突き上げても媚びるようにまとわりついてくる。
夢中で腰を振るカカシの唇をべろべろと舐めながら、イルカが泣きそうに目を潤ませた。
「すき、すきです、カカシさん、あ、あんなこともうしな……、から……んっ、きらいに、ならないで……っあ、あ、うそ、やっ、またいく、いっちゃう……っ」
「うっ……」
びくびく、とイルカの身体が痙攣する。ぎゅうぎゅうと一際きつく搾り上げられ、カカシもついに精を放った。管を精液が通り抜ける感覚さえわかるほど強烈な射精感に、ひとたまりもない。
「あ、あ、あ……」
わなわなと震える身体を押さえつけ、最後の一滴まで注ぎ込む。ふー、ふーと荒い息を吐くカカシを、呆けたような顔のイルカが見上げていた。
されるがままの彼からようやく竿を引き抜いた時、なまめかしい声と共にまた彼の雄からぷしゅっと透明の雫が弾けた。それがシーツへたらりと流れていく様を見て、出したばかりの雄にまた熱が集まり始める。
繋ぎっぱなしだった指をようやく解けば、じんじんと痺れて痛いほどだ。こんなに互いを求め合うような交わりは、ついぞ記憶になかった。
力の抜けた膝を抑え、ぐぽりと開いた孔が元の形へ収縮する様をまじまじと見つめる。やがてこぽりと白濁が溢れてくるのに喉が鳴った。カカシのものはまた、頭をもたげている。
ちらり、とイルカを見上げた。
ずっとカカシを見つめていたのか、彼ははにかむように笑い、また、こくりと頷いてくれた。


◇◇◇


「誕生日だから薬盛ってみた、ですって?」
険のある声に肩を竦めながら、イルカは隣でうつ伏せに寝そべる男にえへへ、と笑いかけた。
「だってぇ」
「だってじゃないでしょ、素直に言えば酒の一杯や二杯奢ってあげたのに」
「酒じゃだめなんですよ」
数度に及ぶ交わりでマットレスまで濡れてしまい、床に敷いた薄っぺらい布団に二人で収まっている。ひとつの上掛けを共有しているから、素肌が触れて何ともくすぐったい。
素面に戻ったイルカが一人で照れているのに対し、行為の後のカカシはまた憮然とした様子に戻ってしまった。媚薬を盛った理由を聞かれてからは尚のことだ。
それでもイルカは笑みを抑えることができない。
まさか、自分が誰かとこうして肌を合わせることがあるとは思わなかった。期待はしていても、だ。それが思いを寄せる相手になるなんて、未だに夢のような気がする。
「で、いくつになったんです」
ふいに、カカシがイルカの頬を突いた。
「え?」
「年ですよ、誕生日なんでしょ」
「25です」
「そんなに下なの?!」
がばりと顔を起こしたカカシに、こちらの方が仰天する。
「えっ知らなかったんですか? ちょっとカカシさん、俺にもっと興味持った方が良いですよ」
唇を尖らせ、すりすりと脛を擦り付けてみる。シャワーを浴びたからべたついてはいないが、互いのすね毛が絡まって少し痛い。この痛みも何だか嬉しく思えてしまうのだから、恋は不思議だ。
うっとりとした気持ちのまま口づけようとしたイルカだが、寸でのところでひらりとかわされてしまった。迷惑そうに眉間に皺を寄せたカカシがふわあ、とあくびをする。
「別に、そんなに興味は……」
「カカシさん!」
「ああ大変だ、もう寝ないと」
わざとらしく時計を指さしたカカシが再び布団に突っ伏した。確かにもう夜明けが近い。急に現実に引き戻されたような気になって、イルカも渋々上掛けを肩まで引き上げた。
「もう、覚えといてくださいよ」
「あなたが媚薬に耐性無いこと?」
「それじゃなくて!」
「ふふ、冗談だよ。イイとこも全部覚えてるから……安心しなよ」
小さく笑ったカカシが、イルカの髪に手を伸ばした。低く艶めいた声はまったく最中のそれと同じで、イルカはもう何も言えなくなってしまう。きっと、顔も赤くなっているだろう。
ほんの少し前まで、この声に高められ、この手に翻弄された。肌の下ではまだ生々しい感覚が燻っていて、少しでも煽られれば容易く火がついてしまいそうだ。
「なんか、思ってたより性質悪いんですね……」
うらめしさを滲ませ言えば、人の悪い笑みが返ってきた。
「でも好きなんでしょ?」
「はい……」
こめかみに、ちゅ、と唇が触れる。官能を高めるでもない、ただ親しみを込めただけのようなそれがひどく恥ずかしく、イルカはカカシにくるりと背を向けた。
「おやすみなさいっ」
「うん、おやすみ」
てっきりまたいたずらされるのかと思ったが、カカシはそれきりイルカに触れてこなかった。しばらくして、背中に落ち着いた寝息を感じる。こっちはどうにも寝付けそうにない。
こんな誕生日は後にも先にももう無いだろう。朝焼けに染まり始めた部屋の中、イルカは夢のようなひと時を噛み締めていた。



果たして、あの一夜は夢で終わらなかった。
後日会った際、カカシは誕生日プレゼントだと言って自宅の鍵を渡してくれたし、イルカにも自宅の鍵を要求した。
俺の誕生日は九月です、と言うから知ってます、と当然のように答えたらまた少し嫌な顔をされたけれど、どうやら晴れて恋人同士になれたようだ。
ただひとつの条件だと、媚薬耐性訓練を受けるよう言い渡されたのにも素直に従った。あんな薬よりもっと良くしてあげるから、と囁かれ、アカデミーの廊下で腰が砕けそうになったのは秘密だ。

ああ、いい誕生日だった!




おわり