ピチチチ…
小鳥のさえずりを目覚ましに、イルカはふわぁとひとつ、あくびをした。
時計を見れば朝7時。今日もいつも通りの一日が始まる。
食パンは残っていたっけ、コーヒーの粉は昨日買ったばかりだし、と頭の中で朝食のメニューを考えながらうんと伸びをした手の先、こつんと当たるものがあった。
「ん?」
首をひねって手繰り寄せたそれは、手のひらに収まる大きさの木箱だった。
角張って、新鮮なヒノキの良い香りがする。
念の為、印を結んで外術を試みるが、幻術や爆弾の類では無さそうだ。耳を押し当てても、中身はしんとしている。
真ん中あたりにある割れ目に爪をひっかけてぱかりと開けたイルカは、何だこれ、と眉を顰めた。
箱より二回りほど小さな銀色の土台に、つやつや光る真っ赤なボタンがどんと乗っている。
隅に挟まれていた紙を開けば、数行の忍文字が書かれていた。
~~~~~~~~~~
秘密の♡催眠スイッチ
これを押せば誰もが貴方の思いのまま!
但し効果は一度きり
秘密の願望を叶えてみてはい・か・が♡
~~~~~~~~~~
忍文字にハートマークなるものがあったのか、とイルカは驚いた。
いや、驚くべきはそこでは無いのだが、あまりの内容に頭が理解することを拒否している。
紙の下の方に小さく、「催眠をかけたい相手の目の前で使わないと効果はありません」と書かれている。そこは敬語なんだな、とまたどうでも良いことを思いながら、イルカはその紙をぱたりと閉じた。
木箱自体にも蓋をして、元通り枕元に置いてみる。
朝食を食べ終えてもそこに有るようなら、アカデミーに持っていって同僚に相談してみよう。
イルカは肩を回しながらベッドを降りた。大戦後に建て直された中忍用アパートの畳は一年経ってもまだ艶が残り、い草の匂いが鼻をつく。
以前とそう変わらない間取りの部屋を突っ切って、洗面所で顔を洗った。そうしてちらりと寝室を覗いても、木箱は変わらずそこにある。どうやら寝ぼけているのでもなさそうだ。
厄介事が増えたな、とひとりごちて、イルカは朝食の支度にとりかかった。
その日の夜、イルカの姿はアカデミーの廊下にあった。
結局枕元にそのままあった木箱を携え出勤し、同僚に相談しようとしたところで気が変わったのだ。
一生に一度だけなら、使ってみたい相手がいる。
ただのいたずらならそれで良い。
でも、もしあの紙に書かれていることが本当ならーー。
長い廊下の先には、本部棟への連絡通路が続いている。本来なら、その先へ行く時いつもイルカは手に大量の書類を抱えていた。決済待ちのものや、資料。そんな理由なしに、あの部屋へは近づいたことが無い。
それなのに、今のイルカは手ぶらだ。
言い訳ひとつ抱えずに訪れた火影の執務室の前、ぴたりと足を止めた。
両開きの扉を、3回ノックする。「どうぞ」と、扉越しにくぐもった声が聞こえてイルカは片側の扉を押した。
「失礼します」
「あれ、イルカ先生。こんな時間に珍しいですね」
書類の積み上がった机の向こうから、視線だけをちらりと寄越した六代目火影、カカシが言った。火影装束は羽織っておらず、イルカと同じ忍服にベスト姿だ。
普段なら側に仕えているシカマルの姿は無い。彼が普段控えている場所へ目線をやったイルカに気付いたのか、「ああ」とカカシがぼそりとした声を出した。疲れているらしい。
「シカマルに用でした?とっくに帰っちゃいましたよ」
俺はまだ帰れないのにねぇ、などと肩を落とすカカシに、イルカは一歩歩み寄った。
「いいえ、六代目にお話があって参りました」
「はぁ、何でしょう」
「できれば二人でお話したいので、人払いをお願いしても良いでしょうか」
「人払い?それはどういうーー」
意味で、と言いかけたカカシを見つめたまま、イルカはポケットに手を入れ、件の木箱のボタンを押した。
かちり、とイルカにだけ聞こえるような小さな音がして、確かに手応えはあったものの、光ったりだとか、空間が変わったりだとか、そういう目に見える変化は何もない。
やはり偽物かーー
そう思ったとき、カカシの口がぽかんと開いたままなのに気づいた。イルカを訝しげに見ていた眼差しも、どこか空を見るようにぼんやりとしている。
まさか。イルカの喉がごくりと鳴った。
試しに、と「立ち上がってください」と言えばカカシががたりと椅子を鳴らして立ち上がる。
本当に、催眠状態にあるらしい。
ぞくりと背中に震えが走った。こんなこと、あっていいのか。俺はとんでもないことをしているんじゃないのか。
それでも、目の前にぶら下がる魚をみすみす逃すことはしたくなかった。チャンスはもう、今夜だけなのだ。
「人払いを、してください」
「わかりました」
カカシが指を鳴らすと、天井裏から微かな声が聞こえた。それまで僅かな気配も感じなかったのに、だ。
「六代目、本当によろしいのですか」
「いいから」
ぼんやりと前を向いたままのカカシの口が、すらすらと動いた。暗部だろう気配は、短く返事を落とした後にぴたりと消えた。
夜の執務室に、二人きり。
カカシと顔を合わせることすら久しくなかったというのに、こうして二人きりになるなどいつぶりのことだろう。
アカデミーの教師と、その教え子の上忍師として出会ったあの日が随分昔に思える。
子どもたちを交えて囲んだ食卓。
偶然隣り合った居酒屋のカウンター。
たった一度、招かれた彼の自宅。
人生でただ一度、男に抱かれた夜だった。
それきり彼は戦場に発って、次に顔を見たのはイルカを死の淵から救った時で、その次は巨軍の大将になっていた。肌を合わせるほど近くに居た人が、ひどく遠かった。
大戦が終わってしまえば互いの立場はより違ってしまい、多忙を極める彼と仕事以外で話すことも無くなった。
寂しかった。悲しかった。
里が復興の一途を辿る嬉しさ、忌み子とまで呼ばれた教え子が立派に育ち里の英雄と呼ばれる喜び、それだけで充分だという思いと、彼を失った喪失感の狭間で長いこと苦しんだ。
最近になってやっと、諦められるようになったのだ。
彼の人生と自分のそれが交わったのは、あの夜だけなのだと。納得できるようになったのだ。
なのに、こんなものを手に入れてしまったから。
イルカはポケットから木箱を取り出し、執務机の端にそれを置いた。
「カカシさん、こちらへ来てください」
執務机を回って、カカシがイルカの前に立つ。
間近で見るカカシは、火影という名を背負ったからか、以前は隠していた左目を晒すようになったからか、以前より男ぶりが上がったように見える。
濃灰色の双眸が、ぼんやりとイルカを見下ろした。
そこに自分が映っているのを見て、ぐ、と胸に迫るものがあった。
会いたかった。もう一度、この瞳に映ることができるなら、何だってできると思ったのだ。
それが、こんな卑怯な手でなくても。
これで最後だ。本当に、ケリをつけよう。
「目を、瞑ってください」
カカシがゆっくりと、瞼を閉じた。左目の上に走る古い傷を指先でなぞり、その下端に唇を押し当てた。彼がぴくりと動くのを、頬に手を添えることで宥める。そうして口布を顎まで引き下げると、閉じられた薄い唇へ自分のそれをそっと、触れさせた。
久しく忘れていた感触に、じわりと顔が熱くなった。彼にたった一度抱かれてから、イルカは誰とも肌を合わせていない。
もう一度、ちゅ、と音を立てて唇を押し当てた。何度かそれを繰り返したあと、唇を触れさせたままで「口をあけてください」と囁くと、カカシが僅かに口を開ける。
少し開いた隙間に、舌を差し入れた。冷たい皮膚とは反対に熱を持った腔内を舌で探り、大人しく鎮座していた彼の舌を掬い上げる。ぬるりと絡めながら吸い上げると、頬に当たるカカシの呼吸が変化する。少しは感じてくれているらしい。
それに励まされるようにして、歯の裏、上顎と、いつか施された手管を思いながら舌を動かしていく。
たっぷり彼の中を味わってから、イルカは口を離した。
目を瞑ったままのカカシの、目尻が少し色づいていた。
黒の忍服に覆われた首に、手を回す。カカシが後ろに倒れないよう加減しながら、そっと抱きついた。ふわりと、彼の匂いが鼻腔をくすぐる。それだけで涙がこみ上げて、イルカは鼻をすすった。
「会いたかった…」
耳元で囁けば、カカシがぴくりと身をよじらせた。吐息がかかってくすぐったいのだろう。
身体を離し、正面からその姿を見ながら肩から指先までに手を滑らせる。彼が火影という職にありながらも鍛錬を怠っていないことが、少し触れただけで伝わった。
「目を開けて。ベストを脱いでください」
イルカの指示にカカシが従う。ぼとり、と落とされたベストを拾い、執務机の端に置いた。
「ソファに横になって」
執務机とドアの間にある応接セットを差せば、カカシがすたすたと迷いなく歩き、そこへ腰を降ろした。ごろりと仰向けに寝転んだ彼の、脇に屈む。
「そのまま力を抜いていてください」
何も答えないカカシの、上着の裾に指を滑らせた。そこに現れた、固く割れた腹筋を手のひらで撫でさすり、唇を滑らせる。鼻を押し当ててすん、と吸って、僅かな汗の匂いに興奮が高まるのを感じた。
胸元まで服をめくり、胸筋の上、慎ましい突起にもちゅうっと吸い付いた。
カカシがぴくりと反応する。少し不安になって顔を見るが、やはり空を見たままでそこには何の感情も窺えなかった。
大丈夫、今夜だけは。
自分にそう言い聞かせ、胸への愛撫を再開した。片方を舌で転がしながら、もう片方に手を伸ばし柔らかく揉むようにする。昔と変わらず白い肌に、ピンク色の乳輪が卑猥だった。
しばらくそうしていると、カカシの腰の中央が窮屈そうに布を押し上げ始める。
男の乳首が急所と繋がっているなんて、彼に抱かれるまでは知らなかった感覚だ。
確かにカカシが快感を得ていることに安心し、イルカはやっと逞しい胸から顔を上げた。そこはすっかり唾液で濡れそぼり、てらてらと光を反射している。
もう一度しゃぶりつきたい欲求に駆られながら、カカシの下履きに手を伸ばした。あまり時間をかけると、護衛の暗部が様子を見に戻ってくるかもしれない。
「腰、浮かせて」
素直に腰を浮かせたカカシのウエストに手をかけて、ズボンと下着を膝までずり下げた。腰を下ろすよう言って、眼前に半勃ちになったものを見つめる。
はぁ、とうっとりするような息が零れたのに自分で驚くと同時に、仕方がないとも思う。夢にまで何度も反芻した彼のものが、いま目の前にあるのだから。
イルカは半勃ちのままでも充分に大きい彼の陰茎に手を添え、先端にちゅうと吸い付いた。
べろりと舌を出し、先端から括れをちろちろと舐める。一日分、もしかしたらそれ以上の汚れを溜めたそこはむわりと雄の匂いを漂わせ、イルカを堪らない気持ちにさせた。
下着の中で、とうに勃起している自分のものがじゅわりと布地を濡らすのが分かった。
手のひらで竿を上下しながら、裏筋を舌でぐりぐりと押して濡らしていく。唾液の滑りを借りて、手の動きも次第にスムーズになっていった。カカシのものがぐんぐんと成長していく。ついに反り返ったのを確認し、先端からじゅぶりと呑み込んだ。
喉の奥に、長い雄のつるりとした表面が当たる。えづきそうになるのを我慢して、咀嚼の容量でもう少し奥まで彼を導いた。喉を大きく開いて、奥の輪っかに引っ掛けるようにすれば、カカシの足がびくりと震える。はぁ、と上擦った息が聞こえたのに目だけで顔を伺うが、顔が赤らんでいること以外変わりは無いようだった。
嘔吐反射が起こるのを堪えながら、鼻でゆっくりと息をする。ずるずるずる、と引き抜いてはまた奥の奥へ呑み込むのを繰り返し、その間も舌で裏筋をべろべろと舐めてやると、先走りが滲み出て腔内の塩っ気が強くなった。
イルカの目には涙が浮かぶ。鼻水も涎も零れてみっともない姿だが、彼の意に沿わないことを強制している負い目から、せめて気持ちがよくなってほしかった。
「ん…、う…ぐぉ……」
無理な挿入のせいで潰れたような声が漏れる。カカシの足を掴む手に力が入った。本能的にだろう、カカシが僅かに腰を突き上げる動作をするのが苦しさに拍車をかけていた。
ぎゅ、と目を瞑りながら抽挿のスピードを上げて、頬を限界まで窄める。酸素が足りなくなって瞼の裏がチカチカとした時、いきなり喉に熱いものが叩きつけられた。
「んーっ!」
内臓に直接流し込まれる勢いで奥を埋め尽くしたそれを、喉を鳴らして飲み込んだ。苦しくて苦しくて涙が溢れてくるのに、一滴たりとも零したくなかった。
尿道に残るものまで吸い取った後、もう一度根本からじゅるると吸い上げて口を離した。
はぁはぁと己の息がうるさい。汚れきった顔を袖口で拭って、彼の顔を見た。視線は相変わらず空を向いたままだが、ぽかりと開いた口から一筋涎が垂れているのが見え、ぞくりと震えた。
彼の唇を汚す透明な筋にべろりと舌を這わせ、そのまま口づけた。カカシの味を残したままで、嫌がらせに思うかもしれないが許して欲しい。
一方的に舌を絡めて彼の腔内を味わった後、イルカは身を起こした。
「脱がせて」
自分の声が掠れている。カカシは瞬きをし、それからイルカに視線を向けた。瞳孔が縮こまり何の感情も覗かせないそれは、彼が催眠にかかっているという手応えをイルカに与える。
のそり、と身体を起こしたカカシが、イルカを膝の間に挟みベストのジッパーに手をかけた。
じ、じ、とゆっくり開かれたそれを、イルカが肩から落とす。
「全部脱がせて。俺を裸にして」
声が段々小さく、細くなっていく。カカシはそれを聞きこぼさず、イルカの言う通り上着の裾に手をかけた。持ち上げられた衣服から、腕を抜き顔を抜く。親が子供にするような仕方で別の恥ずかしさがこみ上げるが、イルカはされるままにした。
ズボンを脱ぐときは立ち上がり、カカシのやりやすいようにしてやった。勃起したものが下着に引っかかり、ぷるんと顔を出したそれが彼の顔に当たりそうになった時にはさすがにすみません、と謝ってしまった。
カカシの前で全裸になったイルカを、中途半端に衣服を身に着けたカカシが見上げている。イルカはふぅふぅと息を荒げながら、きつく屹立したものをカカシの目の前に突き出した。
「ここに、唾垂らして」
カカシの視線がそこに集中する。それだけで背中が震え、血がそこへ集まっていく。
口を窄めた彼が、透明な唾液をつぅ、と垂らした。先端から根本にかけて、とろりと流れ落ちたそれは、黒々とした下生えでわだかまる。
「カカシさんが自分でマスかくときみたいに、触ってください」
言えば、両方から手が伸びた。
「あっ…」
左手で根本をきゅっと握られ、右手で先端をぐちゅりと包まれる。そのまま左手だけを動かされると、右の手のひらに先端がぴたりと吸い付いた。
「えっ、あ、なにこれっ」
初めての感覚に腰が引けそうになるのを、急所を掴まれていてはそうはいかない。先端がまるで吸引されているような強い快感が走り抜け、イルカはびくびくと腹を震わせた。
「あ、あ、だめ、これだめっ、すごすぎる…」
カカシが手を動かすのに合わせて、あ、あ、と上擦った声が口から溢れる。先走りのせいで更に手のひらと亀頭が密着して、強烈な射精感に襲われた。
「でる、でちゃう、おねがい離して…っ」
ぴたり、と動きが止まる。イルカはがくがくと足を震わせ、その場にへたり込んだ。
射精直前まで持っていかれた快感に、荒い息が止まらない。
どうにか彼を見上げると、何も映さない瞳の奥に、僅かな情欲が見え隠れする気がした。さっき出してやったはずのカカシの雄が、また勃起している。
イルカのものを愛撫しながら興奮してくれたのだろうか。そう思うと居ても立っても居られなくなって、イルカは震える足を叱咤して立ち上がり、カカシの隣に乗り上げた。そうしてソファの肘置きに頭を預け、カカシに向かってぱかりと足を開いて見せる。
「よく、見ていてください」
射精を止められ勃起したままの陰茎には触れず、イルカはその後ろに手を伸ばした。
きゅんと持ち上がった陰嚢の下、ふっくら弧を描く会陰の更に奥、暗い窄まりに指をひたりと押し当てる。
二本の指でぐに、とそこを左右に割り開けば、中からとろりとローションが零れてきた。予め仕込んできたものだ。まさか本当に彼の前で披露することになるとは思わなかったが。
カカシの両眼がイルカの秘部を食い入るように見つめている。命令に従っているようだ。
イルカは相手に見せつけるように、指をそこへ突き立てた。にゅぷり、と何の抵抗もなく二本、飲み込まれていく。
「あ…はぁ…」
一気に根本まで飲み込んだそこは、物足りなさそうにひくひくと蠢いた。ゆっくりと抽挿を開始するが、カカシに見られていると思うと尚の事興奮し、指の動きが大胆になった。
ぎりぎりまで引き抜いて、ずぶずぶと挿入していく。天井側にあるしこりを掠れば「あんっ」と大きな声が漏れてしまう。
イルカの陰茎からはしとどに先走りが零れ、我慢できずに白いものまで混ざり始めた。
「んっ、ああん、く……んっ」
三本に増やした指でじゅぽじゅぽとはしたない音を立てながら、後ろをほぐしていく。あまりに勢いをつけてしまったものだから、じぃ、とそこを見つめていたカカシの頬にローションの飛沫が飛び散った。
「あ、ごめ…」
ごめんなさい、と条件反射のように言いかけたイルカの前で、カカシがゆっくりとその頬を指で拭った。
え、俺命令してないよな。
そう思ったのと同時に、カカシがにやりと口の端を持ち上げた。
「で、次は何したらいいの?」
鋭い光を宿した双眸がイルカを正面から捉える。先程まで縮こまっていた瞳孔が開き、そこに確かな意志があることをイルカに知らせた。
え、と間抜けな声が落ちた。のぼせるようだった顔からは血の気が引いて、身体がカタカタと震え出す。
カカシが、まだ指を咥えたままのイルカの秘孔へ隆々と起ち上がった己のものをぴたりと押し当てた。
「これ、入れたらいいのかな」
「や、やめて」
「ここまできてそれは無いでしょ」
指を抜き、ずり上がろうとしたところで両手をひとまとめに掴まれた。
「手、頭の下で組んで」
有無を言わさぬ口調に、抗う気持ちが急激に萎んでいく。人を従える立場にある者が放つ絶対的な威圧感が、カカシの全身から滲み出ていた。
イルカはカカシに言われた通り、浮かせた頭の後ろに両腕を組んだ。全裸のまま、カカシにすべてを晒している。自慰の延長のような行為では感じなかった羞恥が急激にイルカを襲った。
「いい格好…」
べろりと指を舐めたカカシが、イルカの胸に手を伸ばした。ぴんと勃起した乳首を遠慮なく摘まれ、ひっと悲鳴を上げた。快感よりも痛みが勝り、恐ろしさに身体が竦む。開いていた足が急所を守るように閉じかけた時、カカシの手がぐい、と膝を掴んだ。
「だめでしょ。閉じて良いって言った?」
立場が完全に逆転している。催眠にかかっているわけでもないのに、カカシの言葉に逆らうことができない。
イルカは痛みに顔を顰めながら、カカシの前で大きく足を開いた。萎れてしまった雄も、卑しく濡れた孔も、すべて男から丸見えなのにも関わらず。
「ふふ…痛がる割にはひくついてるよ」
言われなくても、それが何を指しているのか分かった。期待している訳ではなくほとんど肉体の反射のように、呼吸に合わせて後ろがはくはくと口を開いたり閉じたりを繰り返している。
違う、違うと繰り返すイルカの頭のてっぺん、揺れる髪をカカシがぐい、と掴んだ。
「いたっ…」
間近に迫った彼の、瞳は何か面白いものでも見るようにイルカを捉える。
「入れてくださいって言ってごらん」
「そ、そんな…」
「逆らうとこのまま縛り上げて暗部に引き渡すことになるけど、いいの?」
さぁっと、血の気が引く音が聞こえたようだった。
卑怯な手で里長を騙し、操ろうとして返り討ちにあってしまったなど醜聞にも程がある。内々で済まされたとしても、教師を続けることは難しいだろう。よくて他里への移動、悪くて忍登録の抹消も考えられる。
今更ながらに自分がとんでもないことをしでかしたことを自覚し、イルカはカカシの下でがたがたと歯の根を震わせた。
「な、何でもしますから、それは…」
「じゃあ早く。手間取らせないでよね」
身体を起こしたカカシの、腰を両の腿で挟む。手を使うことができないから、腰を浮かせて彼の雄へと孔を擦りつけた。
「いれ、て、ください。俺のケツにカカシさんの大きいの、ぶっ刺して…っ」
「ははっ、やーらし」
蔑む声が落ちてくる。切っ先が、窄まりを押し広げながらぐぷりと埋められた。身の内に他人の臓器が侵入するえも言われぬ感覚に、声を抑えることができない。
「ああっ、ああぁっ」
「あー気持ちい…すっごいとろっとろじゃない。どうしたらこんな穴になるの?相当遊んでないとこうはならないでしょ」
「あ、遊んでなん…か…あぁんっ」
「ああんだって、かーわいい」
カカシの剛直は遠慮なくずぶずぶとイルカの奥を拓いてくる。指では到底届かない場所に圧倒的な質量を感じ、うぉ、と太い声が飛び出した。苦しい。喉の奥から何かが出てきそうですらある。
カカシはイルカを遊んでいると評したが、イルカにとっては数年ぶりのことなのだ。カカシに一度きり抱かれてから、誰とも肌を合わせていないのに。
いきなり奥まで挿入されはぁはぁと息を荒げるイルカの、尻にふさりとしたものが当たった。
それがカカシの下生えだと理解するより前に、抽挿が始まる。
「あっ、あああ、んぅっ」
ずるずる、と引き抜いてまた奥まで挿し入れられて、そのたびにわざと天井を擦って無理矢理に快感を引き出される。いつの間にか勃ち上がってしまった雄から、ぴゅ、ぴゅ、と透明な液体が腹まで飛んだ。
「悪い人だなぁ、人を操ってこんなことさせるなんて」
「あ、あんた、かかってなかったじゃないか…!」
「そりゃそうよ、腐っても火影ですよ?」
にやりと笑った彼を睨み返せば、生意気、と言ってペニスの根本をぎゅっと握られた。
「い、痛っ」
そのままカカシが腰を振り、内側から前立腺を刺激するのにイルカは仰け反った。張り詰めた男根はカカシの手の中でどくどくと拍動し、放出への道筋を封じられ熱ばかりを溜めていく。
「お仕置きだからね」
言った彼の額から、汗がつぅ、と落ちるのが見えた。
「火影に催眠かけようとしてこれで済むんだから、安いもんでしょ」
ぐ、と足の付け根を押され、狭いソファの上で膝が胸につくほど身体が折り曲げられる。真上からずん、と音が鳴りそうな勢いでねじ込まれ、一瞬息が止まった。遠慮のない動きに、内蔵が押しつぶされる錯覚に襲われる。
それでも身体は苦しさの中に快楽を見出して、カカシに中を擦られる度に雄茎をびたびたと振り回しながらイルカは淫らな声を上げた。
カカシの動きが激しくなる。身体の深いところ、暴いてはいけない程の奥に切っ先が当たった。
「や、あぁ、あっ、だめ、い、いっちゃ…っ」
びくびくびく、と全身が痙攣する。唇を噛み締め、細めた目の先で自分の雄が何も吐き出さないまま震えているのが見えた。腹筋と後ろがぎゅうぎゅうと締まり、中の雄の硬さをありありとイルカに伝えてくるのが堪らない。
「うーわ…っすっご…イッちゃったの?エロいね」
カカシが長く息を吐いた。持ってかれちゃいそうだった、なんて言いながら、腰をずるりと引いた。
「あ、や、やめて、イッたから、うごいちゃ嫌だ…っ」
「だから、お仕置きだって言ったでしょ?やめてなんて言う権利はイルカ先生に無ーいの」
「ひ、ひぃ…」
ぐじゅぐじゅと粘ついた音を立てながら、カカシが雄を前後させる。頭の下、律儀に組んだままの両手は麻痺したように感覚が無い。縋る場所も無く、イルカはカカシの動きに合わせて悲鳴を上げた。
抽挿が早くなる。やっと終わる、そう思ってカカシを見上げれば、濃灰の眼がイルカをじ、と見つめていた。先程までの酷薄そうな視線とは裏腹に、目尻を赤くして切なそうに眉を寄せたその表情が、いつか見た彼の姿と重なる。
名前を、呼ぼうとした時だった。
根本をぱっと離されて、刺すような快感と共にびゅっと精液が飛んだ。それは突かれるたびにびゅるびゅると勢いよく放たれて、イルカの胸にまでかかってしまう。
「おー出る出る。いっぱい溜めてたねぇ。もしかして俺とヤるためにオナ禁してたの?」
カカシが蔑んだ笑みを浮かべながら見下ろしてくる。さっき確かに見たはずの切ない影はどこかへ消えて、跡形もない。
「ご、ごめんなさ、カカ、シ、あっ、六代目、ゆ、ゆる、してっ」
「だーめ」
パンパンと肌のぶつかる音をひと際大きく立てて、カカシがイルカの中で動きを止めた。腹の奥がびしゃりと濡れた気がして、イルカはあ、あ、とうわ言のように喘ぎを零した。
ぶるり、と僅かに肩を震わせて、カカシが全て吐き出すようにイルカの深くへ雄を打ち付ける。やがてずるりとそれを抜くと、濡れそぼった雄をイルカの腿に擦りつけた。
熱い手のひらが、イルカの身体にかかった白濁を肌に塗り広げていく。ぬるりとした指に乳首を摘まれ、イルカは甘く鳴いた。
カカシが静かに口を開く。低く落ち着いた、甘い声で。
「ねぇ、本当は暗部の奴らも見てるって言ったらどうする?」
「い、やだ、やだぁ…っ」
「ふふ、イルカ先生子供みたいだなぁ…そんなんで本当に先生できるの?」
「う…」
熱が冷めないイルカにはその言葉がからかいの色を含んでいると気付けず、ぐずぐずとしゃくりあげてしまう。カカシの言う通り、その姿は子供のように頑是ない。
「あー泣いちゃった?ごめんね、冗談だよ冗談。泣かないでよ、ねぇ」
カカシが言葉だけで困ったようなふりをし、覆い被さってきた。頬を、濡れた手のひらがべとりと撫でる。
しばらくそうやってイルカを宥めた後、彼はぽつりと、小さな声で呟いた。
「こんなことしなくても、相手ならいつだってしたのに」
その声に、イルカはようやく目を開ける。涙で視界が潤んでいるが、眼前に捉えたカカシを真っ直ぐ見据えた。
「それじゃだめなんだ、あんたは、里の親だから」
そうだ。始めから一度きりのつもりだった。木の葉の里を背負う彼を、たった一夜の夢に縋って引き止めるような真似、できるはずが無い。
つっかえながらそう伝えるイルカに、カカシの顔色が変わっていく。
「何それ、そんなこと考えた結果がこれだっていうの?」
「それは…魔が差したというか……申し訳ありません…」
蔑むような表情が、イルカを非難するような血の通ったそれに移り変わっていく。それを不思議な思いで見つめながら、イルカは小さく頭を下げた。
はぁ、とカカシがため息をつく。その顔にはもう冷たい光は無く、昔と変わらない人間らしい彼の表情が浮かんでいた。
そしてふと気づいたように、イルカの頭の下から両手を引き出し、痺れる両碗を優しく撫で擦る。どうしてそんなことをするのか分からないまま見ていると、少しずつ感覚の戻ってきたイルカの手を、カカシがきゅっと握った。
「ね、お咎めなしにする代わりに俺と付き合っちゃいませんか?あなた放っといたらまた何するかわかんないし、俺もまんざらじゃないんだよね」
え、とイルカの口から間抜けな声が出る。カカシは拗ねたようにイルカから目を反らすが、その頬は桃色だ。
「お偉方も結婚しろ結婚しろってうるさいし、恋人がいるって言えたら楽なんですよ」
「でも、俺は男だし…」
「だからいいんじゃない。女は無理だってことにしたら納得するでしょう?…それとも、他に男がいるとか?ずいぶんこなれた穴だもんねぇ」
膝でぐ、と後ろを押され、あっと声が出た。誤解を解きたくて必死に首を振る。
「違う、俺はカカシさん以外…知らない、から…自分で、忘れられなくて…」
決死の告白を受け、カカシが目を見開いた。その表情が何故か怒っているようで、イルカは肩を竦める。
「本当に?自分でこんなにしちゃったの?なんて勿体ないことを…俺の馬鹿野郎…!」
ドン!とソファの背に彼の拳が落ちる。バキ、と木の折れる音がして、背もたれの一部が凹んだ。弁償しなければ、そういえば座面もかなり汚してしまった。ついそんなことを考えていたイルカの、眼前にカカシがずずいと顔を寄せる。
「じゃあ尚更さ、悪い話じゃないと思うんだけど、どう?」
ぎらぎらと輝く瞳に、イルカはおずおずと頷いた。
「お、俺は…願ってもない、ことで…」
「だったら決まりね。ってことだから、お前らも帰っていいよ」
「はっ」
天井裏から複数の声が聞こえた。イルカはぴたりと硬直する。カカシは反対に、やっと気が抜けましたとでも言うようにふーっと息を吐いた。
「やだねあいつら、出歯亀しちゃって」
「ほ、ほんとに…」
「見てるって言ったでしょう?」
「う、嘘だと思って…」
ぶるぶると身体が震える。カカシだけだと思って開いた身体の、一部始終を見られていたなんて。
「まーいいじゃない。見せつけてやったってことで」
「六代目…っ」
「カカシさんって呼んでくれないの?可愛かったのに」
「なっ…」
ふ、と笑ったカカシがぎゅうぎゅうと抱きついてきた。汗や色々な液体でぬるついた身体がぴったりと合わさる。ちゅ、と唇を啄まれて、イルカは今更ながらに赤面した。
「ね、もう一回しちゃおっか」
カカシが屈託なく笑う。
「溜まってたんだよね、どこ行っても誰かついてくるしさ。いいでしょ?」
小首を傾げてそんなことを言われれば、ぐぅと言葉に詰まってしまい、イルカはふっと身体の力を抜いて彼の首に手を回した。
◇◇◇
夜更けの里を、二つの影が飛んでいた。
「テンゾウさん、あれで良かったんですか?」
そのうちの一つ、動物を模した面を着けた細身の男が首を傾げながら言うのに、隣でフードを目深に被った影がこくりと頷いた。
「まぁいいんじゃないのかねぇ。先輩の願いは叶ったわけだし」
「でも、うみのさんが知ったら怒りませんか?全部六代目が仕込んだことなんて」
火影の護衛任務を担う暗部であるところの面の男が、心配というよりは面倒事を嫌がる素振りで肩を竦めた。
「お前が言わなけりゃ大丈夫だよ。それに、催眠スイッチなんて怪しいもの信じるくらいイルカさんも切羽詰まってたってことでしょ。お互い様だよ」
フードの男、テンゾウことヤマトは久しぶりに里へ帰還するなり押し付けられた仕事が終わり、胸を撫で下ろす気持ちであった。昨夜遅く里へ帰り着き、六代目火影へ大蛇丸の現状を報告したヤマトはやっと人間らしい寝床で休めると立ち去ろうとした。その彼に「テンゾウ」と昔の名前を持ち出し、個人的な頼みだが、と口を開いた里長の姿を思い出しげんなりとしてしまう。
カカシに言われるがまま、木遁忍術を使って小さな木箱を作り出し、中に細工を施し訳の分からない文言を書かされた。こんなことしなくても直接告白しちゃえばどうですか、との問いかけには無言を返され、その圧に彼がまだまだ現役であることを思い知ったヤマトは大人しく従う道を選んだのだった。
そうしてヤマトが作り上げた怪しい木箱を、イルカの枕元へ届けたのが隣の暗部だというわけだ。
「まぁこれで俺もうみのさんの監視させられなくて済むし、良かった〜」
呑気な声を出しながら伸びをする男に釘を刺すのも忘れない。
「それは分からないぞ。嫉妬深いのは変わんないだろうしなぁ。もっと酷くなったりして…」
「やめてくださいよぉ…」
「俺だってたまに里に帰ってきたと思ったら、こんな訳の分からないことに加担させられたんだからな」
それでも嫌と言えないあたり、自分もあの火影には弱いのだと思い知らされる。彼がずっと一人の男を想っていたのを、近しい人間で知らない者はいない。相手もその気であることは明らかなのに、互いに手をこまねいているから焦れったく感じていたのも事実だ。
まさか、こういう形で二人がくっつくことになるとは思ってもいなかったが。
真剣な顔で計画を打ち明けてきたカカシの顔を思い出し、ヤマトは大きな目を僅かに細めた。
隣の暗部の男も、ヤマトより数刻遅れて同じ計画を聞かされた被害者の一人だ。カカシがよっぽど信頼している相手なのか、ぼやきは多いが腕は確かなようだった。気配の消し方も見事で、天井裏で共に事態を見守っていたヤマトも舌を巻いたものだ。その男がひとつ、あくびをする。
「はぁ…俺もう帰って寝ます。あ、やっぱ女買いに行こうかな〜うみのさんエロかったしちょっと勃っちゃうかと思ったんすよね」
「お前…それ先輩に言ったら殺されるぞ」
「げっ、絶対言わないで下さいよ」
「どうかな〜」
「ちょっと〜!」
慌てる男を置いて、ヤマトは高く跳躍した。
数日すればまた里を発たねばならない。それまでにまた里長から呼び出しがかからないことを祈りつつ、埃の積もった我が家を目指した。
End
小鳥のさえずりを目覚ましに、イルカはふわぁとひとつ、あくびをした。
時計を見れば朝7時。今日もいつも通りの一日が始まる。
食パンは残っていたっけ、コーヒーの粉は昨日買ったばかりだし、と頭の中で朝食のメニューを考えながらうんと伸びをした手の先、こつんと当たるものがあった。
「ん?」
首をひねって手繰り寄せたそれは、手のひらに収まる大きさの木箱だった。
角張って、新鮮なヒノキの良い香りがする。
念の為、印を結んで外術を試みるが、幻術や爆弾の類では無さそうだ。耳を押し当てても、中身はしんとしている。
真ん中あたりにある割れ目に爪をひっかけてぱかりと開けたイルカは、何だこれ、と眉を顰めた。
箱より二回りほど小さな銀色の土台に、つやつや光る真っ赤なボタンがどんと乗っている。
隅に挟まれていた紙を開けば、数行の忍文字が書かれていた。
~~~~~~~~~~
秘密の♡催眠スイッチ
これを押せば誰もが貴方の思いのまま!
但し効果は一度きり
秘密の願望を叶えてみてはい・か・が♡
~~~~~~~~~~
忍文字にハートマークなるものがあったのか、とイルカは驚いた。
いや、驚くべきはそこでは無いのだが、あまりの内容に頭が理解することを拒否している。
紙の下の方に小さく、「催眠をかけたい相手の目の前で使わないと効果はありません」と書かれている。そこは敬語なんだな、とまたどうでも良いことを思いながら、イルカはその紙をぱたりと閉じた。
木箱自体にも蓋をして、元通り枕元に置いてみる。
朝食を食べ終えてもそこに有るようなら、アカデミーに持っていって同僚に相談してみよう。
イルカは肩を回しながらベッドを降りた。大戦後に建て直された中忍用アパートの畳は一年経ってもまだ艶が残り、い草の匂いが鼻をつく。
以前とそう変わらない間取りの部屋を突っ切って、洗面所で顔を洗った。そうしてちらりと寝室を覗いても、木箱は変わらずそこにある。どうやら寝ぼけているのでもなさそうだ。
厄介事が増えたな、とひとりごちて、イルカは朝食の支度にとりかかった。
その日の夜、イルカの姿はアカデミーの廊下にあった。
結局枕元にそのままあった木箱を携え出勤し、同僚に相談しようとしたところで気が変わったのだ。
一生に一度だけなら、使ってみたい相手がいる。
ただのいたずらならそれで良い。
でも、もしあの紙に書かれていることが本当ならーー。
長い廊下の先には、本部棟への連絡通路が続いている。本来なら、その先へ行く時いつもイルカは手に大量の書類を抱えていた。決済待ちのものや、資料。そんな理由なしに、あの部屋へは近づいたことが無い。
それなのに、今のイルカは手ぶらだ。
言い訳ひとつ抱えずに訪れた火影の執務室の前、ぴたりと足を止めた。
両開きの扉を、3回ノックする。「どうぞ」と、扉越しにくぐもった声が聞こえてイルカは片側の扉を押した。
「失礼します」
「あれ、イルカ先生。こんな時間に珍しいですね」
書類の積み上がった机の向こうから、視線だけをちらりと寄越した六代目火影、カカシが言った。火影装束は羽織っておらず、イルカと同じ忍服にベスト姿だ。
普段なら側に仕えているシカマルの姿は無い。彼が普段控えている場所へ目線をやったイルカに気付いたのか、「ああ」とカカシがぼそりとした声を出した。疲れているらしい。
「シカマルに用でした?とっくに帰っちゃいましたよ」
俺はまだ帰れないのにねぇ、などと肩を落とすカカシに、イルカは一歩歩み寄った。
「いいえ、六代目にお話があって参りました」
「はぁ、何でしょう」
「できれば二人でお話したいので、人払いをお願いしても良いでしょうか」
「人払い?それはどういうーー」
意味で、と言いかけたカカシを見つめたまま、イルカはポケットに手を入れ、件の木箱のボタンを押した。
かちり、とイルカにだけ聞こえるような小さな音がして、確かに手応えはあったものの、光ったりだとか、空間が変わったりだとか、そういう目に見える変化は何もない。
やはり偽物かーー
そう思ったとき、カカシの口がぽかんと開いたままなのに気づいた。イルカを訝しげに見ていた眼差しも、どこか空を見るようにぼんやりとしている。
まさか。イルカの喉がごくりと鳴った。
試しに、と「立ち上がってください」と言えばカカシががたりと椅子を鳴らして立ち上がる。
本当に、催眠状態にあるらしい。
ぞくりと背中に震えが走った。こんなこと、あっていいのか。俺はとんでもないことをしているんじゃないのか。
それでも、目の前にぶら下がる魚をみすみす逃すことはしたくなかった。チャンスはもう、今夜だけなのだ。
「人払いを、してください」
「わかりました」
カカシが指を鳴らすと、天井裏から微かな声が聞こえた。それまで僅かな気配も感じなかったのに、だ。
「六代目、本当によろしいのですか」
「いいから」
ぼんやりと前を向いたままのカカシの口が、すらすらと動いた。暗部だろう気配は、短く返事を落とした後にぴたりと消えた。
夜の執務室に、二人きり。
カカシと顔を合わせることすら久しくなかったというのに、こうして二人きりになるなどいつぶりのことだろう。
アカデミーの教師と、その教え子の上忍師として出会ったあの日が随分昔に思える。
子どもたちを交えて囲んだ食卓。
偶然隣り合った居酒屋のカウンター。
たった一度、招かれた彼の自宅。
人生でただ一度、男に抱かれた夜だった。
それきり彼は戦場に発って、次に顔を見たのはイルカを死の淵から救った時で、その次は巨軍の大将になっていた。肌を合わせるほど近くに居た人が、ひどく遠かった。
大戦が終わってしまえば互いの立場はより違ってしまい、多忙を極める彼と仕事以外で話すことも無くなった。
寂しかった。悲しかった。
里が復興の一途を辿る嬉しさ、忌み子とまで呼ばれた教え子が立派に育ち里の英雄と呼ばれる喜び、それだけで充分だという思いと、彼を失った喪失感の狭間で長いこと苦しんだ。
最近になってやっと、諦められるようになったのだ。
彼の人生と自分のそれが交わったのは、あの夜だけなのだと。納得できるようになったのだ。
なのに、こんなものを手に入れてしまったから。
イルカはポケットから木箱を取り出し、執務机の端にそれを置いた。
「カカシさん、こちらへ来てください」
執務机を回って、カカシがイルカの前に立つ。
間近で見るカカシは、火影という名を背負ったからか、以前は隠していた左目を晒すようになったからか、以前より男ぶりが上がったように見える。
濃灰色の双眸が、ぼんやりとイルカを見下ろした。
そこに自分が映っているのを見て、ぐ、と胸に迫るものがあった。
会いたかった。もう一度、この瞳に映ることができるなら、何だってできると思ったのだ。
それが、こんな卑怯な手でなくても。
これで最後だ。本当に、ケリをつけよう。
「目を、瞑ってください」
カカシがゆっくりと、瞼を閉じた。左目の上に走る古い傷を指先でなぞり、その下端に唇を押し当てた。彼がぴくりと動くのを、頬に手を添えることで宥める。そうして口布を顎まで引き下げると、閉じられた薄い唇へ自分のそれをそっと、触れさせた。
久しく忘れていた感触に、じわりと顔が熱くなった。彼にたった一度抱かれてから、イルカは誰とも肌を合わせていない。
もう一度、ちゅ、と音を立てて唇を押し当てた。何度かそれを繰り返したあと、唇を触れさせたままで「口をあけてください」と囁くと、カカシが僅かに口を開ける。
少し開いた隙間に、舌を差し入れた。冷たい皮膚とは反対に熱を持った腔内を舌で探り、大人しく鎮座していた彼の舌を掬い上げる。ぬるりと絡めながら吸い上げると、頬に当たるカカシの呼吸が変化する。少しは感じてくれているらしい。
それに励まされるようにして、歯の裏、上顎と、いつか施された手管を思いながら舌を動かしていく。
たっぷり彼の中を味わってから、イルカは口を離した。
目を瞑ったままのカカシの、目尻が少し色づいていた。
黒の忍服に覆われた首に、手を回す。カカシが後ろに倒れないよう加減しながら、そっと抱きついた。ふわりと、彼の匂いが鼻腔をくすぐる。それだけで涙がこみ上げて、イルカは鼻をすすった。
「会いたかった…」
耳元で囁けば、カカシがぴくりと身をよじらせた。吐息がかかってくすぐったいのだろう。
身体を離し、正面からその姿を見ながら肩から指先までに手を滑らせる。彼が火影という職にありながらも鍛錬を怠っていないことが、少し触れただけで伝わった。
「目を開けて。ベストを脱いでください」
イルカの指示にカカシが従う。ぼとり、と落とされたベストを拾い、執務机の端に置いた。
「ソファに横になって」
執務机とドアの間にある応接セットを差せば、カカシがすたすたと迷いなく歩き、そこへ腰を降ろした。ごろりと仰向けに寝転んだ彼の、脇に屈む。
「そのまま力を抜いていてください」
何も答えないカカシの、上着の裾に指を滑らせた。そこに現れた、固く割れた腹筋を手のひらで撫でさすり、唇を滑らせる。鼻を押し当ててすん、と吸って、僅かな汗の匂いに興奮が高まるのを感じた。
胸元まで服をめくり、胸筋の上、慎ましい突起にもちゅうっと吸い付いた。
カカシがぴくりと反応する。少し不安になって顔を見るが、やはり空を見たままでそこには何の感情も窺えなかった。
大丈夫、今夜だけは。
自分にそう言い聞かせ、胸への愛撫を再開した。片方を舌で転がしながら、もう片方に手を伸ばし柔らかく揉むようにする。昔と変わらず白い肌に、ピンク色の乳輪が卑猥だった。
しばらくそうしていると、カカシの腰の中央が窮屈そうに布を押し上げ始める。
男の乳首が急所と繋がっているなんて、彼に抱かれるまでは知らなかった感覚だ。
確かにカカシが快感を得ていることに安心し、イルカはやっと逞しい胸から顔を上げた。そこはすっかり唾液で濡れそぼり、てらてらと光を反射している。
もう一度しゃぶりつきたい欲求に駆られながら、カカシの下履きに手を伸ばした。あまり時間をかけると、護衛の暗部が様子を見に戻ってくるかもしれない。
「腰、浮かせて」
素直に腰を浮かせたカカシのウエストに手をかけて、ズボンと下着を膝までずり下げた。腰を下ろすよう言って、眼前に半勃ちになったものを見つめる。
はぁ、とうっとりするような息が零れたのに自分で驚くと同時に、仕方がないとも思う。夢にまで何度も反芻した彼のものが、いま目の前にあるのだから。
イルカは半勃ちのままでも充分に大きい彼の陰茎に手を添え、先端にちゅうと吸い付いた。
べろりと舌を出し、先端から括れをちろちろと舐める。一日分、もしかしたらそれ以上の汚れを溜めたそこはむわりと雄の匂いを漂わせ、イルカを堪らない気持ちにさせた。
下着の中で、とうに勃起している自分のものがじゅわりと布地を濡らすのが分かった。
手のひらで竿を上下しながら、裏筋を舌でぐりぐりと押して濡らしていく。唾液の滑りを借りて、手の動きも次第にスムーズになっていった。カカシのものがぐんぐんと成長していく。ついに反り返ったのを確認し、先端からじゅぶりと呑み込んだ。
喉の奥に、長い雄のつるりとした表面が当たる。えづきそうになるのを我慢して、咀嚼の容量でもう少し奥まで彼を導いた。喉を大きく開いて、奥の輪っかに引っ掛けるようにすれば、カカシの足がびくりと震える。はぁ、と上擦った息が聞こえたのに目だけで顔を伺うが、顔が赤らんでいること以外変わりは無いようだった。
嘔吐反射が起こるのを堪えながら、鼻でゆっくりと息をする。ずるずるずる、と引き抜いてはまた奥の奥へ呑み込むのを繰り返し、その間も舌で裏筋をべろべろと舐めてやると、先走りが滲み出て腔内の塩っ気が強くなった。
イルカの目には涙が浮かぶ。鼻水も涎も零れてみっともない姿だが、彼の意に沿わないことを強制している負い目から、せめて気持ちがよくなってほしかった。
「ん…、う…ぐぉ……」
無理な挿入のせいで潰れたような声が漏れる。カカシの足を掴む手に力が入った。本能的にだろう、カカシが僅かに腰を突き上げる動作をするのが苦しさに拍車をかけていた。
ぎゅ、と目を瞑りながら抽挿のスピードを上げて、頬を限界まで窄める。酸素が足りなくなって瞼の裏がチカチカとした時、いきなり喉に熱いものが叩きつけられた。
「んーっ!」
内臓に直接流し込まれる勢いで奥を埋め尽くしたそれを、喉を鳴らして飲み込んだ。苦しくて苦しくて涙が溢れてくるのに、一滴たりとも零したくなかった。
尿道に残るものまで吸い取った後、もう一度根本からじゅるると吸い上げて口を離した。
はぁはぁと己の息がうるさい。汚れきった顔を袖口で拭って、彼の顔を見た。視線は相変わらず空を向いたままだが、ぽかりと開いた口から一筋涎が垂れているのが見え、ぞくりと震えた。
彼の唇を汚す透明な筋にべろりと舌を這わせ、そのまま口づけた。カカシの味を残したままで、嫌がらせに思うかもしれないが許して欲しい。
一方的に舌を絡めて彼の腔内を味わった後、イルカは身を起こした。
「脱がせて」
自分の声が掠れている。カカシは瞬きをし、それからイルカに視線を向けた。瞳孔が縮こまり何の感情も覗かせないそれは、彼が催眠にかかっているという手応えをイルカに与える。
のそり、と身体を起こしたカカシが、イルカを膝の間に挟みベストのジッパーに手をかけた。
じ、じ、とゆっくり開かれたそれを、イルカが肩から落とす。
「全部脱がせて。俺を裸にして」
声が段々小さく、細くなっていく。カカシはそれを聞きこぼさず、イルカの言う通り上着の裾に手をかけた。持ち上げられた衣服から、腕を抜き顔を抜く。親が子供にするような仕方で別の恥ずかしさがこみ上げるが、イルカはされるままにした。
ズボンを脱ぐときは立ち上がり、カカシのやりやすいようにしてやった。勃起したものが下着に引っかかり、ぷるんと顔を出したそれが彼の顔に当たりそうになった時にはさすがにすみません、と謝ってしまった。
カカシの前で全裸になったイルカを、中途半端に衣服を身に着けたカカシが見上げている。イルカはふぅふぅと息を荒げながら、きつく屹立したものをカカシの目の前に突き出した。
「ここに、唾垂らして」
カカシの視線がそこに集中する。それだけで背中が震え、血がそこへ集まっていく。
口を窄めた彼が、透明な唾液をつぅ、と垂らした。先端から根本にかけて、とろりと流れ落ちたそれは、黒々とした下生えでわだかまる。
「カカシさんが自分でマスかくときみたいに、触ってください」
言えば、両方から手が伸びた。
「あっ…」
左手で根本をきゅっと握られ、右手で先端をぐちゅりと包まれる。そのまま左手だけを動かされると、右の手のひらに先端がぴたりと吸い付いた。
「えっ、あ、なにこれっ」
初めての感覚に腰が引けそうになるのを、急所を掴まれていてはそうはいかない。先端がまるで吸引されているような強い快感が走り抜け、イルカはびくびくと腹を震わせた。
「あ、あ、だめ、これだめっ、すごすぎる…」
カカシが手を動かすのに合わせて、あ、あ、と上擦った声が口から溢れる。先走りのせいで更に手のひらと亀頭が密着して、強烈な射精感に襲われた。
「でる、でちゃう、おねがい離して…っ」
ぴたり、と動きが止まる。イルカはがくがくと足を震わせ、その場にへたり込んだ。
射精直前まで持っていかれた快感に、荒い息が止まらない。
どうにか彼を見上げると、何も映さない瞳の奥に、僅かな情欲が見え隠れする気がした。さっき出してやったはずのカカシの雄が、また勃起している。
イルカのものを愛撫しながら興奮してくれたのだろうか。そう思うと居ても立っても居られなくなって、イルカは震える足を叱咤して立ち上がり、カカシの隣に乗り上げた。そうしてソファの肘置きに頭を預け、カカシに向かってぱかりと足を開いて見せる。
「よく、見ていてください」
射精を止められ勃起したままの陰茎には触れず、イルカはその後ろに手を伸ばした。
きゅんと持ち上がった陰嚢の下、ふっくら弧を描く会陰の更に奥、暗い窄まりに指をひたりと押し当てる。
二本の指でぐに、とそこを左右に割り開けば、中からとろりとローションが零れてきた。予め仕込んできたものだ。まさか本当に彼の前で披露することになるとは思わなかったが。
カカシの両眼がイルカの秘部を食い入るように見つめている。命令に従っているようだ。
イルカは相手に見せつけるように、指をそこへ突き立てた。にゅぷり、と何の抵抗もなく二本、飲み込まれていく。
「あ…はぁ…」
一気に根本まで飲み込んだそこは、物足りなさそうにひくひくと蠢いた。ゆっくりと抽挿を開始するが、カカシに見られていると思うと尚の事興奮し、指の動きが大胆になった。
ぎりぎりまで引き抜いて、ずぶずぶと挿入していく。天井側にあるしこりを掠れば「あんっ」と大きな声が漏れてしまう。
イルカの陰茎からはしとどに先走りが零れ、我慢できずに白いものまで混ざり始めた。
「んっ、ああん、く……んっ」
三本に増やした指でじゅぽじゅぽとはしたない音を立てながら、後ろをほぐしていく。あまりに勢いをつけてしまったものだから、じぃ、とそこを見つめていたカカシの頬にローションの飛沫が飛び散った。
「あ、ごめ…」
ごめんなさい、と条件反射のように言いかけたイルカの前で、カカシがゆっくりとその頬を指で拭った。
え、俺命令してないよな。
そう思ったのと同時に、カカシがにやりと口の端を持ち上げた。
「で、次は何したらいいの?」
鋭い光を宿した双眸がイルカを正面から捉える。先程まで縮こまっていた瞳孔が開き、そこに確かな意志があることをイルカに知らせた。
え、と間抜けな声が落ちた。のぼせるようだった顔からは血の気が引いて、身体がカタカタと震え出す。
カカシが、まだ指を咥えたままのイルカの秘孔へ隆々と起ち上がった己のものをぴたりと押し当てた。
「これ、入れたらいいのかな」
「や、やめて」
「ここまできてそれは無いでしょ」
指を抜き、ずり上がろうとしたところで両手をひとまとめに掴まれた。
「手、頭の下で組んで」
有無を言わさぬ口調に、抗う気持ちが急激に萎んでいく。人を従える立場にある者が放つ絶対的な威圧感が、カカシの全身から滲み出ていた。
イルカはカカシに言われた通り、浮かせた頭の後ろに両腕を組んだ。全裸のまま、カカシにすべてを晒している。自慰の延長のような行為では感じなかった羞恥が急激にイルカを襲った。
「いい格好…」
べろりと指を舐めたカカシが、イルカの胸に手を伸ばした。ぴんと勃起した乳首を遠慮なく摘まれ、ひっと悲鳴を上げた。快感よりも痛みが勝り、恐ろしさに身体が竦む。開いていた足が急所を守るように閉じかけた時、カカシの手がぐい、と膝を掴んだ。
「だめでしょ。閉じて良いって言った?」
立場が完全に逆転している。催眠にかかっているわけでもないのに、カカシの言葉に逆らうことができない。
イルカは痛みに顔を顰めながら、カカシの前で大きく足を開いた。萎れてしまった雄も、卑しく濡れた孔も、すべて男から丸見えなのにも関わらず。
「ふふ…痛がる割にはひくついてるよ」
言われなくても、それが何を指しているのか分かった。期待している訳ではなくほとんど肉体の反射のように、呼吸に合わせて後ろがはくはくと口を開いたり閉じたりを繰り返している。
違う、違うと繰り返すイルカの頭のてっぺん、揺れる髪をカカシがぐい、と掴んだ。
「いたっ…」
間近に迫った彼の、瞳は何か面白いものでも見るようにイルカを捉える。
「入れてくださいって言ってごらん」
「そ、そんな…」
「逆らうとこのまま縛り上げて暗部に引き渡すことになるけど、いいの?」
さぁっと、血の気が引く音が聞こえたようだった。
卑怯な手で里長を騙し、操ろうとして返り討ちにあってしまったなど醜聞にも程がある。内々で済まされたとしても、教師を続けることは難しいだろう。よくて他里への移動、悪くて忍登録の抹消も考えられる。
今更ながらに自分がとんでもないことをしでかしたことを自覚し、イルカはカカシの下でがたがたと歯の根を震わせた。
「な、何でもしますから、それは…」
「じゃあ早く。手間取らせないでよね」
身体を起こしたカカシの、腰を両の腿で挟む。手を使うことができないから、腰を浮かせて彼の雄へと孔を擦りつけた。
「いれ、て、ください。俺のケツにカカシさんの大きいの、ぶっ刺して…っ」
「ははっ、やーらし」
蔑む声が落ちてくる。切っ先が、窄まりを押し広げながらぐぷりと埋められた。身の内に他人の臓器が侵入するえも言われぬ感覚に、声を抑えることができない。
「ああっ、ああぁっ」
「あー気持ちい…すっごいとろっとろじゃない。どうしたらこんな穴になるの?相当遊んでないとこうはならないでしょ」
「あ、遊んでなん…か…あぁんっ」
「ああんだって、かーわいい」
カカシの剛直は遠慮なくずぶずぶとイルカの奥を拓いてくる。指では到底届かない場所に圧倒的な質量を感じ、うぉ、と太い声が飛び出した。苦しい。喉の奥から何かが出てきそうですらある。
カカシはイルカを遊んでいると評したが、イルカにとっては数年ぶりのことなのだ。カカシに一度きり抱かれてから、誰とも肌を合わせていないのに。
いきなり奥まで挿入されはぁはぁと息を荒げるイルカの、尻にふさりとしたものが当たった。
それがカカシの下生えだと理解するより前に、抽挿が始まる。
「あっ、あああ、んぅっ」
ずるずる、と引き抜いてまた奥まで挿し入れられて、そのたびにわざと天井を擦って無理矢理に快感を引き出される。いつの間にか勃ち上がってしまった雄から、ぴゅ、ぴゅ、と透明な液体が腹まで飛んだ。
「悪い人だなぁ、人を操ってこんなことさせるなんて」
「あ、あんた、かかってなかったじゃないか…!」
「そりゃそうよ、腐っても火影ですよ?」
にやりと笑った彼を睨み返せば、生意気、と言ってペニスの根本をぎゅっと握られた。
「い、痛っ」
そのままカカシが腰を振り、内側から前立腺を刺激するのにイルカは仰け反った。張り詰めた男根はカカシの手の中でどくどくと拍動し、放出への道筋を封じられ熱ばかりを溜めていく。
「お仕置きだからね」
言った彼の額から、汗がつぅ、と落ちるのが見えた。
「火影に催眠かけようとしてこれで済むんだから、安いもんでしょ」
ぐ、と足の付け根を押され、狭いソファの上で膝が胸につくほど身体が折り曲げられる。真上からずん、と音が鳴りそうな勢いでねじ込まれ、一瞬息が止まった。遠慮のない動きに、内蔵が押しつぶされる錯覚に襲われる。
それでも身体は苦しさの中に快楽を見出して、カカシに中を擦られる度に雄茎をびたびたと振り回しながらイルカは淫らな声を上げた。
カカシの動きが激しくなる。身体の深いところ、暴いてはいけない程の奥に切っ先が当たった。
「や、あぁ、あっ、だめ、い、いっちゃ…っ」
びくびくびく、と全身が痙攣する。唇を噛み締め、細めた目の先で自分の雄が何も吐き出さないまま震えているのが見えた。腹筋と後ろがぎゅうぎゅうと締まり、中の雄の硬さをありありとイルカに伝えてくるのが堪らない。
「うーわ…っすっご…イッちゃったの?エロいね」
カカシが長く息を吐いた。持ってかれちゃいそうだった、なんて言いながら、腰をずるりと引いた。
「あ、や、やめて、イッたから、うごいちゃ嫌だ…っ」
「だから、お仕置きだって言ったでしょ?やめてなんて言う権利はイルカ先生に無ーいの」
「ひ、ひぃ…」
ぐじゅぐじゅと粘ついた音を立てながら、カカシが雄を前後させる。頭の下、律儀に組んだままの両手は麻痺したように感覚が無い。縋る場所も無く、イルカはカカシの動きに合わせて悲鳴を上げた。
抽挿が早くなる。やっと終わる、そう思ってカカシを見上げれば、濃灰の眼がイルカをじ、と見つめていた。先程までの酷薄そうな視線とは裏腹に、目尻を赤くして切なそうに眉を寄せたその表情が、いつか見た彼の姿と重なる。
名前を、呼ぼうとした時だった。
根本をぱっと離されて、刺すような快感と共にびゅっと精液が飛んだ。それは突かれるたびにびゅるびゅると勢いよく放たれて、イルカの胸にまでかかってしまう。
「おー出る出る。いっぱい溜めてたねぇ。もしかして俺とヤるためにオナ禁してたの?」
カカシが蔑んだ笑みを浮かべながら見下ろしてくる。さっき確かに見たはずの切ない影はどこかへ消えて、跡形もない。
「ご、ごめんなさ、カカ、シ、あっ、六代目、ゆ、ゆる、してっ」
「だーめ」
パンパンと肌のぶつかる音をひと際大きく立てて、カカシがイルカの中で動きを止めた。腹の奥がびしゃりと濡れた気がして、イルカはあ、あ、とうわ言のように喘ぎを零した。
ぶるり、と僅かに肩を震わせて、カカシが全て吐き出すようにイルカの深くへ雄を打ち付ける。やがてずるりとそれを抜くと、濡れそぼった雄をイルカの腿に擦りつけた。
熱い手のひらが、イルカの身体にかかった白濁を肌に塗り広げていく。ぬるりとした指に乳首を摘まれ、イルカは甘く鳴いた。
カカシが静かに口を開く。低く落ち着いた、甘い声で。
「ねぇ、本当は暗部の奴らも見てるって言ったらどうする?」
「い、やだ、やだぁ…っ」
「ふふ、イルカ先生子供みたいだなぁ…そんなんで本当に先生できるの?」
「う…」
熱が冷めないイルカにはその言葉がからかいの色を含んでいると気付けず、ぐずぐずとしゃくりあげてしまう。カカシの言う通り、その姿は子供のように頑是ない。
「あー泣いちゃった?ごめんね、冗談だよ冗談。泣かないでよ、ねぇ」
カカシが言葉だけで困ったようなふりをし、覆い被さってきた。頬を、濡れた手のひらがべとりと撫でる。
しばらくそうやってイルカを宥めた後、彼はぽつりと、小さな声で呟いた。
「こんなことしなくても、相手ならいつだってしたのに」
その声に、イルカはようやく目を開ける。涙で視界が潤んでいるが、眼前に捉えたカカシを真っ直ぐ見据えた。
「それじゃだめなんだ、あんたは、里の親だから」
そうだ。始めから一度きりのつもりだった。木の葉の里を背負う彼を、たった一夜の夢に縋って引き止めるような真似、できるはずが無い。
つっかえながらそう伝えるイルカに、カカシの顔色が変わっていく。
「何それ、そんなこと考えた結果がこれだっていうの?」
「それは…魔が差したというか……申し訳ありません…」
蔑むような表情が、イルカを非難するような血の通ったそれに移り変わっていく。それを不思議な思いで見つめながら、イルカは小さく頭を下げた。
はぁ、とカカシがため息をつく。その顔にはもう冷たい光は無く、昔と変わらない人間らしい彼の表情が浮かんでいた。
そしてふと気づいたように、イルカの頭の下から両手を引き出し、痺れる両碗を優しく撫で擦る。どうしてそんなことをするのか分からないまま見ていると、少しずつ感覚の戻ってきたイルカの手を、カカシがきゅっと握った。
「ね、お咎めなしにする代わりに俺と付き合っちゃいませんか?あなた放っといたらまた何するかわかんないし、俺もまんざらじゃないんだよね」
え、とイルカの口から間抜けな声が出る。カカシは拗ねたようにイルカから目を反らすが、その頬は桃色だ。
「お偉方も結婚しろ結婚しろってうるさいし、恋人がいるって言えたら楽なんですよ」
「でも、俺は男だし…」
「だからいいんじゃない。女は無理だってことにしたら納得するでしょう?…それとも、他に男がいるとか?ずいぶんこなれた穴だもんねぇ」
膝でぐ、と後ろを押され、あっと声が出た。誤解を解きたくて必死に首を振る。
「違う、俺はカカシさん以外…知らない、から…自分で、忘れられなくて…」
決死の告白を受け、カカシが目を見開いた。その表情が何故か怒っているようで、イルカは肩を竦める。
「本当に?自分でこんなにしちゃったの?なんて勿体ないことを…俺の馬鹿野郎…!」
ドン!とソファの背に彼の拳が落ちる。バキ、と木の折れる音がして、背もたれの一部が凹んだ。弁償しなければ、そういえば座面もかなり汚してしまった。ついそんなことを考えていたイルカの、眼前にカカシがずずいと顔を寄せる。
「じゃあ尚更さ、悪い話じゃないと思うんだけど、どう?」
ぎらぎらと輝く瞳に、イルカはおずおずと頷いた。
「お、俺は…願ってもない、ことで…」
「だったら決まりね。ってことだから、お前らも帰っていいよ」
「はっ」
天井裏から複数の声が聞こえた。イルカはぴたりと硬直する。カカシは反対に、やっと気が抜けましたとでも言うようにふーっと息を吐いた。
「やだねあいつら、出歯亀しちゃって」
「ほ、ほんとに…」
「見てるって言ったでしょう?」
「う、嘘だと思って…」
ぶるぶると身体が震える。カカシだけだと思って開いた身体の、一部始終を見られていたなんて。
「まーいいじゃない。見せつけてやったってことで」
「六代目…っ」
「カカシさんって呼んでくれないの?可愛かったのに」
「なっ…」
ふ、と笑ったカカシがぎゅうぎゅうと抱きついてきた。汗や色々な液体でぬるついた身体がぴったりと合わさる。ちゅ、と唇を啄まれて、イルカは今更ながらに赤面した。
「ね、もう一回しちゃおっか」
カカシが屈託なく笑う。
「溜まってたんだよね、どこ行っても誰かついてくるしさ。いいでしょ?」
小首を傾げてそんなことを言われれば、ぐぅと言葉に詰まってしまい、イルカはふっと身体の力を抜いて彼の首に手を回した。
◇◇◇
夜更けの里を、二つの影が飛んでいた。
「テンゾウさん、あれで良かったんですか?」
そのうちの一つ、動物を模した面を着けた細身の男が首を傾げながら言うのに、隣でフードを目深に被った影がこくりと頷いた。
「まぁいいんじゃないのかねぇ。先輩の願いは叶ったわけだし」
「でも、うみのさんが知ったら怒りませんか?全部六代目が仕込んだことなんて」
火影の護衛任務を担う暗部であるところの面の男が、心配というよりは面倒事を嫌がる素振りで肩を竦めた。
「お前が言わなけりゃ大丈夫だよ。それに、催眠スイッチなんて怪しいもの信じるくらいイルカさんも切羽詰まってたってことでしょ。お互い様だよ」
フードの男、テンゾウことヤマトは久しぶりに里へ帰還するなり押し付けられた仕事が終わり、胸を撫で下ろす気持ちであった。昨夜遅く里へ帰り着き、六代目火影へ大蛇丸の現状を報告したヤマトはやっと人間らしい寝床で休めると立ち去ろうとした。その彼に「テンゾウ」と昔の名前を持ち出し、個人的な頼みだが、と口を開いた里長の姿を思い出しげんなりとしてしまう。
カカシに言われるがまま、木遁忍術を使って小さな木箱を作り出し、中に細工を施し訳の分からない文言を書かされた。こんなことしなくても直接告白しちゃえばどうですか、との問いかけには無言を返され、その圧に彼がまだまだ現役であることを思い知ったヤマトは大人しく従う道を選んだのだった。
そうしてヤマトが作り上げた怪しい木箱を、イルカの枕元へ届けたのが隣の暗部だというわけだ。
「まぁこれで俺もうみのさんの監視させられなくて済むし、良かった〜」
呑気な声を出しながら伸びをする男に釘を刺すのも忘れない。
「それは分からないぞ。嫉妬深いのは変わんないだろうしなぁ。もっと酷くなったりして…」
「やめてくださいよぉ…」
「俺だってたまに里に帰ってきたと思ったら、こんな訳の分からないことに加担させられたんだからな」
それでも嫌と言えないあたり、自分もあの火影には弱いのだと思い知らされる。彼がずっと一人の男を想っていたのを、近しい人間で知らない者はいない。相手もその気であることは明らかなのに、互いに手をこまねいているから焦れったく感じていたのも事実だ。
まさか、こういう形で二人がくっつくことになるとは思ってもいなかったが。
真剣な顔で計画を打ち明けてきたカカシの顔を思い出し、ヤマトは大きな目を僅かに細めた。
隣の暗部の男も、ヤマトより数刻遅れて同じ計画を聞かされた被害者の一人だ。カカシがよっぽど信頼している相手なのか、ぼやきは多いが腕は確かなようだった。気配の消し方も見事で、天井裏で共に事態を見守っていたヤマトも舌を巻いたものだ。その男がひとつ、あくびをする。
「はぁ…俺もう帰って寝ます。あ、やっぱ女買いに行こうかな〜うみのさんエロかったしちょっと勃っちゃうかと思ったんすよね」
「お前…それ先輩に言ったら殺されるぞ」
「げっ、絶対言わないで下さいよ」
「どうかな〜」
「ちょっと〜!」
慌てる男を置いて、ヤマトは高く跳躍した。
数日すればまた里を発たねばならない。それまでにまた里長から呼び出しがかからないことを祈りつつ、埃の積もった我が家を目指した。
End