Twitterに載せた話。いつ載せたか忘れた。。
----------
お世辞にも快適とは言えない狭い天幕の中、カカシは寝床の上で正座していた。
目の前にはパンツが一枚。
黒い、ぺらぺらとした生地の男物だ。
自身のものではない。付き合いたての恋人が持たせてくれた、お守りに入っていたものだ。
やけに大きなお守り袋だなとは思ったのだ。しかし彼が――カカシの恋人は男性だ――あまりに可愛らしく頬を染めて渡してくるものだから、その場で中身を問うのも無粋な気がして受け取ってしまった。
いざ任務を開始し数日が経過した今、野営中にふと彼が恋しくなり、懐にしまっていたお守りを開けてみれば――。
きれいに折りたたまれたパンツが一枚、入っていた。
思わず「え」と素っ頓狂な声を出したカカシを、訝しがる人間はここには居ない。単独任務であることをこれほどありがたく思ったのは初めてだ。
始めは、入れ間違えたのかと思った。
しかし、おそるおそる広げたところ、小さな紙片が包まれているのに気付いた。
『無事の帰還を祈念して』
見間違うはずのない、彼の筆跡だ。任務受付所でも、彼の職場を覗いた時にも、何度も目にしている。何なら手紙だってもらったことがある。
自宅の戸棚に大切にしまってあるその手紙を思い出しながら、カカシは確かに彼、うみのイルカによって書かれたその文面を何度も目で辿った。
パンツ。それは下着である。
彼の身体を保護するため、清潔に保つため、日々当たり前に着用するものだ。
カカシは肌にぴたりと張り付くブーメラン型を愛用しているが、イルカはボクサー型だ。何度か共にした、夢のような夜に目に焼き付けたのだから疑う余地はない。
そして今目の前にあるこのパンツもボクサー型で、色、形、使用感共にイルカが着用していたもので間違いなさそうだ。
これでも人より鼻が利く。ぺらりとした布地からは、うっすらと彼の匂いを検知することができた。
イルカは人並みに生活能力のある方で、洗濯もまめにしていた。カカシが泊まった翌朝も、洗濯機を回している姿を見たことがある。
それなのに、このパンツから匂いがわかる、ということは故意に洗濯をしていないということだ。
一体、どうして。
腕組みをし考え始めたカカシの頭に、ぴん、と閃くものがあった。
あれは十日ほど前のことだ。イルカと二人、新しくできた居酒屋で飲んでいたときのこと。
カウンターに並び、干物をつついていた二人の後ろから、四人組のくのいちの話し声がよく聞こえてきた。何しろ狭い店内なのだ。
けらけらと楽しそうな彼女らがふと声を潜めたとき、ついつい耳をそばだててしまった。それほど小さな声でなかったということも理由だが、イルカが聞き耳を立てていたのを見て同じことをしたくなったのだ。
彼女らいわく、好きな相手が危険な任務に出るとき、自分の下着を持たせてやると無事に帰還する、というまじないが流行っているそうだ。しかも、愛液がついていると尚のこと効果的だという。
えげつない話だなとイルカを見れば、顔を真っ赤にしていたものだから可愛さに気が遠くなるところだった。
あんなにうぶで、よく今まで男女問わず手を出されてこなかったものだ。彼のあまりの清廉さがバリアになっていたのかもしれない。きっとそうだろう。
そんな彼が自分を選び、思いを受け止めてくれたのは今考えても奇跡に近い。
その夜は赤面するイルカを持ち帰りたっぷりと可愛がったため、カカシの頭からはくのいちの話などすっぽりと抜けていた。が、イルカは覚えていたのだろう。
「それで、パンツねぇ……」
呟いて、はっとする。
愛液。
彼女らは確かにそう言っていた。まじないの効果を高めるために効果的だと。
ならば、この匂いのもとは、ひょっとして――
頭がくらりとする。血液が急速に股間の、ある一か所に集まっているのを感じ、カカシは現金な己に呆れた。任務中に催すなど、今までなかったことだ。性欲に左右される忍びなどあって良いはずがない。
けれど、少しだけ、少しだけなら――
そろそろと、パンツに手を伸ばす。少しくたびれた生地を手に取り、顔の近くへ持ち上げた。
心臓が痛いほど拍動している。己のこめかみに、血管が浮いているのがわかった。
匂いがどんどんと濃くなる。鼻に触れるか触れないかというところまで持ってきたパンツの前で、くい、と口布を下した。鼻が、外気に露出する。
緊張で止めていた息を吐きだし、すう、と空気を吸い込んだ。
「っ…………!」
衝撃だ。頭の奥まで突き刺すような濃い匂いに全身がびりびりと痺れる。
ただの体臭ではない。
予想した通り、愛液、つまりイルカの精液が下着の中央にこびりついていた。それも、わざとやらないとこうはならないと思えるほど濃く、濁った跡が残るほど。
匂いは記憶を呼び戻すというが、もしカカシが記憶喪失になったとしてこのパンツさえあれば一発で記憶を取り戻せるだろう。
イルカがどんな顔をしてこのパンツに精液をなすりつけたのか今すぐ確認したい。できれば、体勢も。目の前で再現させて、目の前でそれを舐めとってやりたい。
股間は暴発寸前だ。過去、行きずりの女に遅漏だと罵られたこともあるカカシにとって、それは革命に近かった。
パンツに思い切り鼻を押し当て、すーっ、すーっ、と匂いを吸い込み、しまいにはその場所を舐めしゃぶりながら、カカシは中腰に下着をずらし、取り出した陰茎を乱暴に扱き上げた。
「くそっ」
悪態が出るのも無理はない。安全圏にいるとはいえ任務中だ。性欲に負けて急所を晒すなど己のポリシーに反する愚行だった。
イルカは悪くない。むしろ、いじらしいではないか。恋人の無事を願って、いそいそとこんなエッチな下着を用意するなどと。耐えきれない自分が修練不足なだけだ。
舌先にかすかな苦みと、そして覚えのある微かな甘味を感じながら陰茎を擦る。既に限界が近かった。
カカシは己の唾液で濡れたパンツを陰茎に被せ、雁首を数度擦るとその中に射精した。
布切れ相手なのに、本能的に、くい、くい、と腰を打ち付ける動きをしてしまう。
パンツの中へすっかり出し切り、こぼれ出ようとする分まで拭って閉じ込めてしまう。
芯を失った陰茎を片手で下着の中へ仕舞い、口布を引き上げた。
自身の吐き出したもので質量の増したパンツを眺める。この布切れの中で、イルカと自分の精液が混ざり合っていると思うと変態的な悦びがカカシの中にふつふつと沸き上がってきた。
自分にこんな性癖があるとは思いもしなかった。きっと、イルカもこんな使われ方をされているとは夢にも思わないだろう。
しかし、やってしまったものは仕方がない。
カカシはポーチから証拠保存用の密閉袋を取り出すと、濃すぎる匂いを発するパンツをその中にしまった。空気を抜き、ポーチの中にぎゅうぎゅうと収納する。パンツが入っていたお守り袋は再び懐へ戻しておいた。
燻る興奮を抱えたまま、束の間身体を休めようと寝台に横たわる。
里に帰ったらイルカをいかにして可愛がってやろうかと考えるうち、心地の良い眠気が訪れた。瞼の裏、イルカがにこりと笑っている。
お守りは、どうやら効果があるようだ。
終
----------
お世辞にも快適とは言えない狭い天幕の中、カカシは寝床の上で正座していた。
目の前にはパンツが一枚。
黒い、ぺらぺらとした生地の男物だ。
自身のものではない。付き合いたての恋人が持たせてくれた、お守りに入っていたものだ。
やけに大きなお守り袋だなとは思ったのだ。しかし彼が――カカシの恋人は男性だ――あまりに可愛らしく頬を染めて渡してくるものだから、その場で中身を問うのも無粋な気がして受け取ってしまった。
いざ任務を開始し数日が経過した今、野営中にふと彼が恋しくなり、懐にしまっていたお守りを開けてみれば――。
きれいに折りたたまれたパンツが一枚、入っていた。
思わず「え」と素っ頓狂な声を出したカカシを、訝しがる人間はここには居ない。単独任務であることをこれほどありがたく思ったのは初めてだ。
始めは、入れ間違えたのかと思った。
しかし、おそるおそる広げたところ、小さな紙片が包まれているのに気付いた。
『無事の帰還を祈念して』
見間違うはずのない、彼の筆跡だ。任務受付所でも、彼の職場を覗いた時にも、何度も目にしている。何なら手紙だってもらったことがある。
自宅の戸棚に大切にしまってあるその手紙を思い出しながら、カカシは確かに彼、うみのイルカによって書かれたその文面を何度も目で辿った。
パンツ。それは下着である。
彼の身体を保護するため、清潔に保つため、日々当たり前に着用するものだ。
カカシは肌にぴたりと張り付くブーメラン型を愛用しているが、イルカはボクサー型だ。何度か共にした、夢のような夜に目に焼き付けたのだから疑う余地はない。
そして今目の前にあるこのパンツもボクサー型で、色、形、使用感共にイルカが着用していたもので間違いなさそうだ。
これでも人より鼻が利く。ぺらりとした布地からは、うっすらと彼の匂いを検知することができた。
イルカは人並みに生活能力のある方で、洗濯もまめにしていた。カカシが泊まった翌朝も、洗濯機を回している姿を見たことがある。
それなのに、このパンツから匂いがわかる、ということは故意に洗濯をしていないということだ。
一体、どうして。
腕組みをし考え始めたカカシの頭に、ぴん、と閃くものがあった。
あれは十日ほど前のことだ。イルカと二人、新しくできた居酒屋で飲んでいたときのこと。
カウンターに並び、干物をつついていた二人の後ろから、四人組のくのいちの話し声がよく聞こえてきた。何しろ狭い店内なのだ。
けらけらと楽しそうな彼女らがふと声を潜めたとき、ついつい耳をそばだててしまった。それほど小さな声でなかったということも理由だが、イルカが聞き耳を立てていたのを見て同じことをしたくなったのだ。
彼女らいわく、好きな相手が危険な任務に出るとき、自分の下着を持たせてやると無事に帰還する、というまじないが流行っているそうだ。しかも、愛液がついていると尚のこと効果的だという。
えげつない話だなとイルカを見れば、顔を真っ赤にしていたものだから可愛さに気が遠くなるところだった。
あんなにうぶで、よく今まで男女問わず手を出されてこなかったものだ。彼のあまりの清廉さがバリアになっていたのかもしれない。きっとそうだろう。
そんな彼が自分を選び、思いを受け止めてくれたのは今考えても奇跡に近い。
その夜は赤面するイルカを持ち帰りたっぷりと可愛がったため、カカシの頭からはくのいちの話などすっぽりと抜けていた。が、イルカは覚えていたのだろう。
「それで、パンツねぇ……」
呟いて、はっとする。
愛液。
彼女らは確かにそう言っていた。まじないの効果を高めるために効果的だと。
ならば、この匂いのもとは、ひょっとして――
頭がくらりとする。血液が急速に股間の、ある一か所に集まっているのを感じ、カカシは現金な己に呆れた。任務中に催すなど、今までなかったことだ。性欲に左右される忍びなどあって良いはずがない。
けれど、少しだけ、少しだけなら――
そろそろと、パンツに手を伸ばす。少しくたびれた生地を手に取り、顔の近くへ持ち上げた。
心臓が痛いほど拍動している。己のこめかみに、血管が浮いているのがわかった。
匂いがどんどんと濃くなる。鼻に触れるか触れないかというところまで持ってきたパンツの前で、くい、と口布を下した。鼻が、外気に露出する。
緊張で止めていた息を吐きだし、すう、と空気を吸い込んだ。
「っ…………!」
衝撃だ。頭の奥まで突き刺すような濃い匂いに全身がびりびりと痺れる。
ただの体臭ではない。
予想した通り、愛液、つまりイルカの精液が下着の中央にこびりついていた。それも、わざとやらないとこうはならないと思えるほど濃く、濁った跡が残るほど。
匂いは記憶を呼び戻すというが、もしカカシが記憶喪失になったとしてこのパンツさえあれば一発で記憶を取り戻せるだろう。
イルカがどんな顔をしてこのパンツに精液をなすりつけたのか今すぐ確認したい。できれば、体勢も。目の前で再現させて、目の前でそれを舐めとってやりたい。
股間は暴発寸前だ。過去、行きずりの女に遅漏だと罵られたこともあるカカシにとって、それは革命に近かった。
パンツに思い切り鼻を押し当て、すーっ、すーっ、と匂いを吸い込み、しまいにはその場所を舐めしゃぶりながら、カカシは中腰に下着をずらし、取り出した陰茎を乱暴に扱き上げた。
「くそっ」
悪態が出るのも無理はない。安全圏にいるとはいえ任務中だ。性欲に負けて急所を晒すなど己のポリシーに反する愚行だった。
イルカは悪くない。むしろ、いじらしいではないか。恋人の無事を願って、いそいそとこんなエッチな下着を用意するなどと。耐えきれない自分が修練不足なだけだ。
舌先にかすかな苦みと、そして覚えのある微かな甘味を感じながら陰茎を擦る。既に限界が近かった。
カカシは己の唾液で濡れたパンツを陰茎に被せ、雁首を数度擦るとその中に射精した。
布切れ相手なのに、本能的に、くい、くい、と腰を打ち付ける動きをしてしまう。
パンツの中へすっかり出し切り、こぼれ出ようとする分まで拭って閉じ込めてしまう。
芯を失った陰茎を片手で下着の中へ仕舞い、口布を引き上げた。
自身の吐き出したもので質量の増したパンツを眺める。この布切れの中で、イルカと自分の精液が混ざり合っていると思うと変態的な悦びがカカシの中にふつふつと沸き上がってきた。
自分にこんな性癖があるとは思いもしなかった。きっと、イルカもこんな使われ方をされているとは夢にも思わないだろう。
しかし、やってしまったものは仕方がない。
カカシはポーチから証拠保存用の密閉袋を取り出すと、濃すぎる匂いを発するパンツをその中にしまった。空気を抜き、ポーチの中にぎゅうぎゅうと収納する。パンツが入っていたお守り袋は再び懐へ戻しておいた。
燻る興奮を抱えたまま、束の間身体を休めようと寝台に横たわる。
里に帰ったらイルカをいかにして可愛がってやろうかと考えるうち、心地の良い眠気が訪れた。瞼の裏、イルカがにこりと笑っている。
お守りは、どうやら効果があるようだ。
終
スポンサードリンク