コミケ99の記念に書きました。


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浅黒い肌を滑った汗が、シーツの上へぽたりと落ちた。
あ、あ、と短く声を上げる彼の腰を掴む己の手にも、じっとりと汗が滲んでいる。
時間をかけて交わって、互いに何度も極めているのにまだ、終わらせることができない。

柔らかく熱い肉に包まれているとカカシはいつも、この中から出たくないと思ってしまう。彼の中に身を埋めるこのいっときだけは全てを赦されたような気になって、短い安寧に身を委ねられるのだ。目の前の男だけいればそれだけで自分の世界が完結するかのような、幸福な錯覚に陥ることさえある。
まさに今夜がそうだ。

汗ばんで蠢く背中に誘われるように覆い被さり、深いところを抉ると、彼――うみのイルカが泣きそうな声を漏らした。
二人で夜を過ごしてもう何度目だろう。いつしか、数えるのもやめてしまった。
男らしい体躯をした彼から衣服をはぎ取り、ねぶり、時間をかけてほぐした場所へ性器を突っ込んで、擦る。
男同士の交合は決して楽ではなく、手間暇ばかりかかってしまう。
快感を得るだけならもっと楽な相手も、やり方もいくらでもあるのに、どうしてこの男を選んでしまったのだろうか。

そしてこの男も、どうして俺なんかを受け入れてしまったのだろう。

「うっ……」

考えに没入する中で突然ぎゅうぎゅうと締め付けられ、カカシは眉を顰めた。
視線をずらせば、イルカが首を捻りこちらをじいっと見つめている。汗に濡れた髪が額や頬に張り付き、普段の彼からは想像もつかないようななまめかしさに息を呑んだ。

「よそ事考えるなんて、余裕ですね」

は、と挑戦的にイルカが笑う。きらりと光る瞳には、薄い膜が張っていた。

「ごめん、そうでもしないとすぐ終わっちゃいそうで、ね」
「いいから、こんな時くらい俺のことだけ考えてて下さいよ」

後ろ手に、イルカがカカシの指に触れた。
ね、と笑う顔に引き寄せられるように身を屈め、彼に顔を寄せる。しかし、つられて深くなった挿入にイルカは低く呻き、俯いてしまった。
行き場を失くした唇を彼の背中へ押し当てる。濡れて光る肌にはいくつもの傷跡が散っていた。
中央にある特に大きな傷跡を見るといつも、嫉妬で腹の奥が燃える思いがする。
教え子を庇ったその傷は、きっとこの先も消えることは無いだろう。
どんないきさつがあれ、イルカに跡をつけるのは自分だけであってほしい。忍びの世界に身を置いている限り無理な話とわかっていても、そう思ってしまうのだから仕方ない。

「……食べてしまえたらいいのにね」
「なに、を……あっ、あ、そこ……っ」

腰を緩慢に動かしながら胸元を探る。
弾力のある胸筋を揉み、控えめな粒を手のひらでくすぐってやると、堪らないといった風にイルカが悶えた。
あ、あ、と上ずった声を漏らす彼は、指先で先端を軽く押してやるだけで身をよじり、カカシの砲身を締め付けてくる。
愛されるために生まれてきたような身体だ、と思う。隅々まで可愛がって、嫌というほど鳴かせてやりたい。

いつだったか、女は愛せないのだと言っていた。
同性を対象としてしまう自分に戸惑いながらも、他人には言えずに青年期を過ごしてきた、と。
一人で慰めるしかなかった彼の身体は、カカシの愛撫にひどく敏感に反応した。初めての夜などはカカシが肌を辿るたびに震え、控えめに声をあげ、最後はどうしたらいいか分からない、と泣いたのだ。
その表情は普段の溌溂とした姿からは想像もつかないほどいとけなく、胸をがしりと一掴みにされたような思いがしたものだ。誰かと肌を合わせてあんなにも心を動かされたのは初めてだった。
それからずっと、カカシはイルカとだけ夜を共にしている。

甘い回想から意識を戻し、目の前のうなじをすん、と嗅いだ。汗と彼の匂いがする。
塩味のそこをべろりと舐め上げ、柔らかな後れ毛を歯で挟み、くいくいと引く。イルカはそんな戯れにすらびくびくと震えた。

「可愛い、ね」

思ったままを口にする。照れているのか聞こえていないのか、彼から反応は無い。
けれど、それで良いのだ。
胸に回した手で、芯を持つ粒を指の腹でゆっくりとこね回す。イルカは無意識にだろう、腰を振ってカカシへぐいぐいと尻を押し付けてきた。

「んっ、あ、んん」
「ここ、気持ちいいんだね」
「あっ……わ、わかってる、くせに……っ」
「そうね、でも確かめさせて。いいでしょ?」

ふわりとした乳暈を摘まみ、少しずつ圧をかけてぐにぃ、と押しつぶしてやる。甘く長い声と共に、彼がびくびくと身体を震わせた。カカシを咥え込んでいる縁が痙攣に合わせてぎゅうぎゅうと収縮するのが目に愉しい。
つられて発射しそうになるのを、腹に力を込めて耐え抜くのもいつものことだ。時間をかけて溶かした分、長く愛してやりたい。
吐精せずに達したイルカが落ち着くのを待って、敏感な肌をそっとなぞっていく。
どこから見ても男の身体だ。それなのに、何度抱いても飽きることがない。

「あー……ん、も、うっ! ねちっこいですよ、今日、は!」
「だってイルカ先生が可愛いんだもん」
「ひとの、せいに、……あ、やっ、もう……」

片足を抱えてくるりと彼を横向きにさせる。挿入したままだったために、肉輪でにゅるりと雄を舐め回されるような感覚があった。
より深くまで挿入できる体勢を取れば、イルカが制するように手を伸ばしてきた。

「こ、れ、いやです」
「少しだけ、ね?」

ずぶずぶと押し入り、とん、と奥の壁をひと突きする。

「あうぅっ!」
「っ……あー、きもちい……」

イルカの最奥は歓迎するようにカカシの先端へちゅうちゅうと吸い付いてきた。ずいぶん気持ちが良いようで、「はぁん」などと甘えた声が聞こえてくる。
茎に絡みつく肉を押し分けながら、深いところを小刻みに突いて行く。胸に抱えたイルカの足がぴんと突っ張り、つま先がぎゅうと丸まった。
一度中で達してしまえば、続けざまに絶頂に襲われると聞く。それを恐れてか、イルカは頭をシーツに擦り付けるように小さく頭を振っていた。
握り込んだ指先が色を失っている。その白さに見惚れながら、カカシの息も上がっていった。
ぱんぱんと肌のぶつかる音が生々しい。熱く貪欲な肉輪に扱き上げられ、突き当りでは優しく吸い付かれ、いやがおうにも射精欲がこみ上げた。

イルカは自覚しているのかいないのか、陰茎から小刻みに精を吐き出していた。身体はまだらに赤く染まっている。中で極める時はいつもこうだ。
奥を突くたびにびゅっと少量の白濁が噴き出し、腹の上に散っていく。カカシはそれを彼の腹に手のひらで擦り付けながら、肌の上から内側に入っている己のものをぐう、と押した。

「あぁっ! や、やだ、そんなの……っあ、あんっ、ま、またいく……!」

びくびくとイルカが跳ねる。身体に強く力が入り、カカシのものもひときわ強く締め付けられた。
その勢いに逆らわず、数度突き上げて彼の奥に雄を叩きつける。

「…………っ!」

声にならない悲鳴が聞こえた気がする。
イルカの腰を掴んだ指先が、ごり、と骨に触れた。大きく仰け反ったイルカの、喉仏がひくんと震える。
きれいに弧を描くそこへ無性にむしゃぶりつきたくなって、射精を終えた気だるさのまま彼に抱き着く。

「んあっ」

挿入したままぎゅうと抱き着き、汗ばんだ喉に舌を這わせた。塩辛い味が舌に広がる。
張り出した喉仏を舌先で転がしてやれば、くすぐったい、と発せられた声が舌先に響いた。
生きている、という感じがする。イルカの前では、すべてがクリアだ。

「は……あっ」

ずるりと抜き出すと、少し遅れて彼に注ぎ込んだ証が漏れだしてきた。
勿体ないが、仕方がない。今度はもっと深いところへ呑み込ませてやらなければ。
カカシの不穏な思考を読み取ったのか、イルカがぱたりと足を閉じた。じろ、と睨まれもする。

「み、ず」

掠れた声でねだられる。近くにあったペットボトルの水を含んで口移しで飲ませると、ぬるい、と嫌そうに顔をしかめられた。
結局、自分で飲むことにしたようだ。ごくごくと動く喉仏はカカシに比べ、あまり張り出してはいない。
素っ気ないその背をつう、と撫でると、びくりと震えたあと、やはりまた睨まれた。

このまま彼を連れて里を抜けてしまおうか。
海に近いところがいい。少し高い場所に家を借りて、小さな畑を耕すのだ。
互いの名前にちなんだ桃源郷にうっとりとしていると、イルカがじ、とこちらを見ていた

「何かろくでもないこと考えてるでしょう」

イルカの質問には答えず、カカシは微笑んだ。

「イルカせんせ、俺と里抜けしない?」
「冗談じゃありません。上に通報します、通報。俺まで巻き込まないでくださいよ」
「つれないんだから」
「そっちこそ、本気じゃないくせに物騒なことばかり言わないでください」

見抜かれていたか、と肩を竦める。けれど、少しは本気も混ざっていたのだ。
里を抜けないにしても、いつかイルカと共に静かなところで暮らしたい。危険から遠く、互いの死も恐れない場所で。

「ねえ、今日は機嫌が悪いですね。何かあった?」

カカシのこめかみを指で擦りながらイルカが言う。
閨でほんのたまに彼が見せるなれなれしい物言いが、カカシは好きだった。

「何もなーいよ、あなたがあんまり可愛いから、俺だけのものにしたいなぁって思っただけ」
「そんなの、とっくにあなたのものじゃないですか」

すり、と脚を絡められる。
カカシは頬を緩ませながら、イルカの尻を緩く揉んだ。しっとりと吸い付くような手触りに、燻ったままの欲望にまた火が灯る。

「ふふ、そうだね。俺のものだ」
「……足りないなら、今度休暇を合わせて温泉でも行きますか」
「いいね、いい宿調べておきますよ」

だったらここが良い、あそこが良い、とイルカが語り出す。元々温泉好きの彼となら、楽しい湯めぐりができるだろう。物騒な逃避行でなく、普通の旅が。
カカシの戯言を良い方向に捉えてくれたイルカに心の中で感謝しつつ、カカシはイルカの肩へ布団をかけた。

「そろそろ寝ようか」

夜更けから事に及んだため夜明けが近い。互いに明日も仕事なのだから、少しは休んだ方が良い。
達した余韻が冷めきらないらしいイルカがシャワーを厭うので、タオルで簡単に身体を拭いてやった。情事の残り香が漂うベッドに、二人並んで横になる。
おやすみ、と声をかけ、布団の中で指を絡ませた。
ふ、と力を抜いたかに思えたイルカが、しばらくしてぽつりと呟いた。

「カカシさん、俺、本気なら構いませんからね」

その声に、彼を見つめる。
天井を見ていたイルカは、カカシの視線に気づくとこちらに向き直った。

「あなたが本当に俺と他のどこかへ行きたいっていうのなら」

強い視線がカカシを射抜く。
この四歳年下の恋人は、時々こうしてカカシを堪らない気分にさせる。
胸にこみ上げる熱いものをぐっと堪え、カカシはイルカを抱き寄せた。布団の中で、剥き出しの肌がぴたりと合わさる。

安らかな寝床、善良な仲間たち。仮に里を抜け、過酷な環境でそのどれをも失っても、彼はカカシへの愛情だけは持ち続けてくれるだろう。己の正義を底深く押し込め、カカシを包み込むように抱きしめてくれるだろう。

けれど、カカシはイルカの笑顔が好きだった。
生徒を見守る真摯な眼差しが、里へ帰還した忍びを迎える柔和な微笑みが、居酒屋でカカシにだけ向ける潤んだ瞳が、何より好きだった。
たくさんの大事なものに囲まれ里の中で生きる彼を、失いたくはない。

「つまらないこと言って、ごめんね」
「カカシさん」
「もう、言わないから」
「いいんです、いいんですよカカシさん。俺には何だって言ってくれて。……あなたの全部を見せろとは言わないから、疲れたときくらい甘えてくださいよ」
「はは、優しいね。母親みたいだ」
「じゃあ、胸でも吸いますか」
「本当に?」
「いいですよ、ほら」

イルカがカカシの頭を、胸へと引き寄せる。
カカシは縋りつくようにイルカの身体に手を這わせ、胸に頬を押し当てた。
規則正しい鼓動が伝わる。暖かな肌がカカシを満たしていく。
彼の匂いを腹の底まで吸い込みたくて、大きく息を吸った。くすり、とイルカが笑う。
そうして抱き合っている間に、いったんは落ち着いていたはずの欲がむくむくと頭をもたげてくる。
目の前で、何かを期待するようにぷっくりと膨らんだ実へそっと唇を寄せた。

「んっ……」

頭上から甘い声が聞こえる。
母性を求めてただ吸うだけでなく、当然のように官能を誘う動きとなったカカシの舌に、イルカは正確に反応した。愛撫に、実がぷくぷくと育っていく。
やがて、カカシの髪がくい、と一筋引かれる。顔を上げれば、困ったように微笑むイルカがいた。

「ずいぶんいたずらな子供ですね」
「やっぱり子供じゃいられないよ、俺」

再び勢いのついた腰のものをイルカの腿へ擦り付け、許しを請う。
返事の代わりというように顔を近づけたイルカが、カカシの唇を塞いだ。


◇◇◇


すやすやと寝息を立てる恋人の隣で、イルカはその寝顔に見入っていた。
今夜は心ここにあらずといった様子だったカカシは、二戦目を交えた後すぐに寝入ってしまっている。

友人を越えた関係を持ち始めて、どれくらいの月日が経っただろう。
始めは決してイルカに寝顔を見せることの無かった男が、こうも気を許してくれるようになって嬉しいような、どこかくすぐったいような気持ちだ。
寝ている彼に対して少しでも妙な挙動をすればすぐにでも取り押さえられてしまうのだろうが、それでも表面上穏やかな眠りをみせてくれるのは悪い気はしない。

任務で心を動かされるようなことでもあったのだろうか。
今朝早く里へ帰還した彼は部隊を組んでAランクの任務へついていた。受付を通してのものだったから内容は知っているが、人買いに攫われた某国の子供たちを救出するというものだった。怪我人もなく人質も無事救出し、文句なしの結果だったと聞いている。
しかし、朝いちばんに教室へ向かうイルカを捕まえ、今夜の約束を取り付けるくらいには様子がおかしかった。
普段ならこんな日は自宅で静養し、夜になる頃のそのそと校門のあたりへイルカを迎えに来るのに。
きっと何かあったのだろう。自分はまだそれを聞かされる立場にないというだけのことだ。
それでも甘えてきて、こうして寝姿を見せてくれる。

里を抜けるなんて、その気も無いくせして。
彼が口にしたときの、どこか純粋な声音を思い出し、口元へ苦い笑みが浮かぶ。
カカシが誰よりも木の葉の里を大事に思い、尽くしていることはよく知っているつもりだ。

「たまにはこんな日も、ありますよ」

囁いて、投げ出された手にそっと手を重ねてみた。
カカシはぴくりともしないけれど、イルカはそれで満足だった。

寄り添い、瞼を閉じる。
明日の朝にはきっと、元の彼に戻っているだろう。そうして再び、厳しい現実へ身を投げるのだ。カカシだけでなく、イルカ自身も。
厳しい道を選んだことに後悔は無いが、彼の中でまた何かが溢れそうになったとき、自分が傍にいて受け止めてやれたらと思う。

カーテンの外から鳥の声が聞こえてきた。式鳥では無い。餌を求めて飛び回る親鳥だろう。
自分も少しは寝ておかなければ、と瞼を閉じれば、重ねた手に指が絡まってきた。
ふふ、と口元だけで笑い、短い安寧に身を委ねた。











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