「官能、その先」の続きです。単独で読んでも大丈夫。
悲壮感の無いSMですが、腸内洗浄、ごく軽度の暴力、玩具(ディルド)責め、放尿、飲尿、結腸責め、体内放尿など色々あります。


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はぁ、と吐き出した息はひどく熱かった。
身をよじった途端に肘の内側がひきつれて、イルカは喉の奥で小さく呻く。
天井から垂らされたロープに拘束された両手首はじんじんと痛み、感覚が薄れてきている自覚があった。
下着すらも身にまとっていない肌には汗がしたたっている。それが必要以上に暖められた部屋の気温のせいなのか、それとも自分の置かれた状況によるものなのか、イルカには判断がつかなかった。
足の裏に当たるごつごつとした感触に言いようのない不安を覚えながら、縋るように視線を上げる。その先には、一人の男が佇んでいた。
壁に凭れかかり、切れ長の目を細めてイルカを見つめる、銀髪の男が。


それは、唐突な誘いだった。
人に言えない関係を築いている――少なくともイルカはそう思っている――カカシとイルカだが、秘密の逢瀬はいつも計画的に行われてきた。職務内容の違う二人は時間を合わせるだけでも一苦労なうえに、知り合いの目に触れず、二人きりで会える場所はそう多くない。
だから、カカシがその誘いを口にしたとき、イルカは少々面食らったのだ。
これから、一緒に来て下さい――
待ち伏せするように正門近くに身を潜めていたカカシが、残業を終えて門を出たイルカにすっと歩み寄ってくるなり、そう告げてきた。
任務に出ているとばかり思っていたが、知らぬ間に帰還していたようだ。
無事の帰還を祝う前に開口一番そう言われ、イルカは考えるよりも先に頷いていた。
会いたかった。
それは間違いない事実だったのだ。
斜め前を歩くカカシに先導され、辿り着いたのは初めて足を踏み入れる路地だった。
こんなところがあったのか、と驚く一方で、カカシがその薄暗い場所にひどく馴染んでいることに動揺もしていた。
彼のすべてを知っているわけでは勿論ないが、浅からぬ関係を結んできた者として、知らない顔を見せつけられたことに胸がざわついた。
「ここです」
短く言ったカカシが、イルカを振り返る。
彼が示したのは、古い長屋の一角だった。この路地にはよく見ないと分からないような看板がそこここにひっそりと立っていて、表立って訪れ辛い店が並んでいるのだと知れる。冬の寒さのせいだけではない悪寒に襲われ、イルカはぶるりと首を振った。
カカシは鍵のかかっていない引き戸をからりと開けて、イルカを中へ促した。
ここで、引き返しておけば良かったのかもしれない。後から、そう考えた。
常にない雰囲気の彼に臆していたのは確かだ。しかし、それ以上に期待もしていたのだ。二人の関係が、もっと深まるのではないか、と。
イルカを先に扉の中へ通したカカシに背を押されるようにして、一歩踏み出す。路地も大概薄暗かったが、この店の中はもっと暗く、足元を照らすろうそくの光が無ければイルカはしばらく動けなかっただろう。
外見からして普通の店などでは無いと分かっていたが、人の気配の無さに怖気づく。それ以上進むことを躊躇っていると、背にそっと手が添えられた。
「真っ直ぐです。行きましょう」
優しい声音に有無を言わさぬものを感じ取り、イルカは黙って頷いた。
それでも普段よりゆっくりと足を進め、慎重に中の様子を探る。大人が一人通れる幅の、少し狭い廊下の両側には一定間隔に引き戸が設えてあった。中に誰かいるような気配は無いが、戸の前を通り過ぎるたびにちりりと耳の後ろがちりついた。各々の部屋に結界が張られているのだと、その時知る。
一気に高まる緊張感に、斜め掛けにしているバッグのストラップをきつく握った。
前を歩くイルカのそんな様子を感じているだろうに、カカシはあくまで落ち着いた様子で後ろを歩いていた。
それほど広い店でも無く、すぐに行き止まりとなる。廊下の端であるそこにもまた引き戸があり、立ち止まったイルカの前にカカシが歩み出た。イルカから手を隠すようにしていたが、短く印を切ったのが分かる。また、耳の後ろに刺激が走った。
結界の解かれた引き戸をからからと開いたカカシが迷い無くその中へ入っていくのを見ながら、イルカは一歩踏み出したところでたじろいでしまった。どういう場所なのか説明もなくここまでついてきてしまったものの、今になって恐れが興味を上回ってしまう。
逡巡するイルカを、カカシがちらりと振り返った。
暗闇の中、右目が鋭くイルカを捉える。
ここで帰ればそれで終わりだと、暗に言われた気がした。


カカシに導かれた先は、大人が二人横になったらいっぱいになるような、狭い部屋だった。
どこか饐えた匂いがするのは建物の古さからばかりでは無いだろう。
それを裏付けるように、壁際には一組の布団が畳まれていた。
つまり、そういう行為をするためだけの部屋ということだ。
今夜はここで事に及ぶのだろうか、と漠然と考えていたイルカは、いきなり正面からカカシに抱きしめられて言葉を失う。
「来てくれて、嬉しい……イルカ先生」
鞄ごとぎゅうぎゅうと抱きしめられ、一気に彼への恋慕が湧き起こる。一か月近く、顔を見ていなかったのだ。恋人同士と呼べる甘い関係では無いが、少なくともイルカはカカシに想いを寄せていた。
イルカの後ろ暗い欲望を満たすために始まった関係だったが、カカシの思いもよらぬ執着心を見せつけられて以降、イルカの想いは募るばかりだった。カカシも彼なりの欲求を満たしながら、以前と変わらず、いや、それ以上にこの身を大事にしてくれているのを感じていた。
その相手に抱きしめられ、イルカはおずおずとカカシの背に手を回す。
「会いたかった、です」
思ったままを口にすれば、耳元でカカシがふ、と微笑んだのが分かった。
僅かに体を離した彼が、見せつけるようにして口布を下ろす。現れた素顔の端麗さに息を呑みながら、形の良い顎まですべて晒されるのを食い入るように見つめた。
当然のように近寄ってきた唇に下唇を食まれ、イルカは促される前に薄く口を開いていた。差し入れられた舌を従順に吸い、唇で優しく扱く。褒美のように流し込まれた唾液までも呑み込んでやっと、カカシがイルカの咥内を嬲り始めた。
歯列をなぞり、もったいぶるように歯茎を舐められながら、イルカは彼の背に縋りつく。ベストの厚みがもどかしい。急くようにカカシのベストへ手をかけたところで、その手を掴まれた。
いつの間にか閉じていた瞼を開くと、暗がりでもぎらぎらと光る瞳がイルカを見据えていた。
まだその時では無いという指示を読み取り、大人しくベストから手を放す。
恭順さを示していれば、その後にとてつもなく甘美なご褒美が与えられることをイルカは知っていた。
初めはイルカがご褒美、という形でカカシに与えていた淫らな快楽は、彼が主導権を握るようになってから、こちらが受け取る側になっていた。
カカシの命令に従い、彼を満足させて初めて褒美が与えられるのだ。そのために口で言えないような姿も晒したし、度を超さないぎりぎりの痛みも受け入れてきた。元々痛みに興奮するきらいのあるイルカが泣いて許しを請うほどのものですら。
今夜は、何が行われるのだろう。
うっとりとしながら甘美な想像に身を任せていたイルカは、カカシの舌先に上顎をくすぐられ、びくりと身体を震わせた。
途端に強い力で両の尻を鷲掴みにされ、カカシの腕の中で小さく仰け反る。窺うように見た彼の眦は、この場に不似合いなほど柔和に細められていた。
ぞくりとしたものが背筋を這い、本能的にカカシの胸を押しのけようとする。だが、がっちりと抑え込まれていて無駄なあがきすら許されなかった。
一方的に解かれた口づけは二人の唇を濡らしていた。
カカシはイルカの唾液の味を確認するように己の唇を舐め上げた後、隠しきれない怯えを覗かせるイルカに低く、囁いた。
「全部脱いで。裸になって」


言われるがまま裸体を晒したイルカは、男の不躾な視線を直視できずに床を見つめていた。
一体これまで何人が踏みしめたのか、ささくれた畳は少なくとも十年は取り替えた様子が無い。
自身は口布を下ろしただけで装備のひとつも解くことの無いカカシが、一歩距離を詰めた。
「ひっ――」
いきなり無遠慮に陰茎を握られ、イルカの口から悲鳴が漏れる。
たしなめられるかと身を強張らせたが、カカシは何かを確認するように片手で性器を弄ってきた。突然しゃがみこんだかと思うと、恭しく顔の前に性器を持ち上げ、すん、と鼻を鳴らしさえする。
羞恥に固く目を瞑ったイルカだが、それは許さないとばかりに陰嚢にまで手が伸びてきた。急所を握られた恐怖から、おそるおそる瞼を持ち上げる。
イルカの陰茎に顔を寄せたままのカカシが、口の端を持ち上げて笑みを作った。
「あなたの小便の匂いがする」
薄く、ピンクがかった唇から発されたとは思えない言葉に、ひどい屈辱感と共に官能がイルカを支配する。
イルカの変化を敏感に感じ取ったのだろう、カカシは微笑をそのままに手のひらで陰嚢を転がした。甘い疼きにイルカの口から吐息が零れる。
欲望がたっぷりと溜まった球の重さを確認するようにたぷたぷと持ち上げた後、カカシの指先は更に奥へと進んだ。柔らかく、なだらかな場所を擽られて膝が震える。それでもカカシの許し無く姿勢を崩すことなど許されない。イルカは自分を叱咤し、この場の支配者による検分を黙って受け入れた。
皮膚の固い指先が、ためらいもなく肉を割り裂き最奥へと触れる。入り口をすり、と撫でられただけで浅ましい期待に心臓が跳ねた。イルカは彼の指が身の内でどのように蠢き、自身を燃え上がらせるか嫌というほど知っている。
「あうっ」
無意識のうちに腰を揺らしかけ、察したカカシにぴしゃりと尻を叩かれた。
「今夜は、俺の言う通りにしてくれますね?」
穏やかな声音で問いかけられ、イルカは何度も頷いた。恭順を示すのと同時に、緩みかけた後孔がきゅ、と締まった気すらする。
そこを撫で続けていたカカシは満足げに頷き、イルカを見上げたまま笑みを深くした。
「じゃあ膝を曲げて、足を開いて」
一瞬で頭を駆け巡った自分の卑猥な姿に、顔がカッと熱くなる。しかしたった今服従を誓ったばかりだ。イルカはおずおずと、カカシに指示された通りの格好を取った。
「もっと、腰を落としてごらん」
低く囁く吐息が股間にかかり、イルカは腹に力を込めて快感をやり過ごさなければならなかった。
全裸でがに股という恥辱的なポーズを晒しながらも、イルカの陰茎は腹を打つほど反り返っている。先端には既にふしだらな蜜が浮き、己の浅ましさにぞっとするほどだ。
カカシは大きく開いたイルカの股の間で指を前後に動かし、秘孔を擽ってはいたずらに陰茎に舌を這わせた。
「あっ、あ、はぁっ……」
呼吸が浅くなる。焦らされることには慣れているが、今夜は少し様子が違うような気がした。
湿り気の無い指先に突然最奥を穿たれ、身体が硬直する。甘さの無い痛みが背筋を走り抜け、イルカは唇を噛み締めた。
しかしその指はすぐに引き抜かれ、カカシがのっそりと立ち上がった。
腸液で僅かにぬめった指を見せつけるようにイルカの眼前にかざしたカカシは、そこにすらりと通った鼻先を押し当てた。すぅ、と大きく息を吸い込んだ男がうっとりと目を細めるのに、視線が釘付けとなる。
「ここも、濃い匂い……」
耳の先まで真っ赤に染まっただろうイルカの身体は、しかし欲望を露わにしていた。陰茎からは透明な汁が垂れ落ち、後孔はカカシの指を求めてひくひくと収縮している。
こんなひどい恥辱にすら感じてしまう身体をこの男の前だけではすべて曝け出せることに、イルカはどこかで安堵していた。
「仕事が終わってすぐ、だもんね……いつも俺と会う前には自分でキレイにしてきてくれるイルカ先生のこんな匂い、初めて嗅いだ」
指先を舐めるように眺めながら言われ、腹の奥が燃えるように熱くなる。
男の身体を持つイルカが、男に愛されるためには準備が欠かせない。一人で自分を慰める時にも欠かしたことの無い後孔の洗浄は、カカシと事前に計画して会う前に必ず行っていた。
だが、今日は予定外だったのだ。
明かしていなかった秘密をまたひとつ暴かれた気になって、イルカは熱っぽい吐息を漏らした。
「今日は、俺にやらせてくれますね」
問うのでは無く、断定された提案にも、イルカは大人しく頷いた。


狭いシャワールームで、イルカは壁に頬を押し付けるようにしてカカシに背を向けていた。
そのための場所ということか、洗浄に必要な道具は備え付けの引き出しの中に揃っていた。消毒済みと大きくプリントされたラベルを剥がしたカカシが半透明のプラスチックボトルを手にした時、彼の口に上る笑みを直視できず壁に張り付いてから、ずっとこの状態だ。
大きく足を開かされ、生ぬるい液体を秘孔に注入された時には甘ったるい喘ぎが零れた。
今は下腹が張るほど注ぎ込まれ、それを排出しないように堪えている状態だ。意識せずともカカシの視線を痛いほど感じ身をよじると、背後から伸びた手にうなじを優しくくすぐられた。
「あ、はぁんっ」
「可愛い声。お腹パンパンにして、感じてるの?」
我ながら耳を疑うような媚びた喘ぎ声は、カカシの情欲をより煽ったようだ。イルカの背にぴたりと寄り添ったカカシが、少し膨らんだ下腹を手のひらでぐ、と押した。
「うっ……」
強烈な排泄感に脂汗が滲む。自分の発する熱に耐えきれず冷たい壁へと更に身を寄せると、それを許さないとばかりに括った髪を引っ張られた。
「だめでしょ、ちゃんと顔見せてくれなきゃ」
囁かれ、首を捻ってどうにかカカシを見る。
濃灰の目に欲を滲ませた男は、紅い舌でべろりとイルカの頬を舐め上げた。
「そろそろ、出してみましょうか」
ぐ、と後孔の皺を押される。それだけで、腿がぶるぶると震えた。しかし彼の格好を思い出し、寸でのところで堪える。素っ裸の自分とは違い、カカシは今にも任務に発てるような姿だ。
イルカはおずおずとカカシを窺う。
「汚して、しまいます」
「いいから、俺に全部見せて。あなたのきれいなところも、そうでないところも、全部」
甘い声と共に身を引いたカカシが、イルカの双丘を左右に割り開いた。そうして前に回した手でぐう、と下腹を押されると、もうだめだった。
「あ、あ、ああっ……!」
ぶしゅうっと勢いよく飛び出した液体が、とめどなく床へ落ちていく。汚物の混ざっているだろうその液体を自分では直視できないが、目を瞑ることは許されない。
イルカは息を荒げながら、背後のカカシを一心に見つめていた。だがそのカカシは、浴室の床に溜まった排泄物を食い入るように眺めている。その瞳が爛々と輝いていることにぞうっとしたものを感じると同時に、背筋が震えるほど興奮した。
しばらくして、シャワーの音が響く。
カカシは丁寧にイルカの下肢を洗うと、床に落ちたものも排水溝へと流してしまう。
「思ったよりもきれいなものでした」
ちょっと残念、とうそぶくカカシの声を聞きながらも、イルカは初めての責め苦が終わったことに内心でほっとしていた。
きゅ、と水音が止んだのを受けて壁から身を離そうとしたとき、大きな手の平に背中を押さえつけられた。
「まだ終わっていませんよ。調べてみたら、三回は繰り返した方が良いらしいですね。あなたのここがすっかりキレイになるまで、頑張りましょう」
ね、と言ってカカシの手が背筋を撫でる。
イルカは意思と反して震え始める身体を壁に沿わせながら、はい、と呟いた。


穢れと共に大事な何かまで体の中から失ったような妙な気分を抱えながら、イルカはカカシの前に立っていた。
揃えて差し出した両手を麻縄で括られていても、火照った身体から熱は逃げない。
「痛くないですか」
予め丁寧になめされたのだろう縄はしなやかで、肌に無駄な傷をつけはしない。イルカはこくりと頷き、満足げに微笑むカカシの顔を見つめていた。
「緊張しなくても良いですよ。少し跡は残るかもしれないけれど、袖に隠れる程度でしょう」
目を伏せたカカシが麻縄越しに優しく手首を撫でる。跡、と聞いてごくりと喉が鳴った。
カカシは今まで跡が残るような仕打ちを与えてこなかった。イルカの、教師という仕事柄、生徒が違和感を覚えることがあってはならないためだ。少なくとも、イルカはそう思っていた。
彼の中で何かの箍が外れようとしているのか。期待にも似た疑念に、そんなはずは無いと苦く唇を噛み締める。
カカシはイルカをその場に残し、縄の余りで輪を作ると天井から不自然にぶら下がる滑車に括りつけた。
数度引いて、滑車の動きとその強度を確認している。その度に手首が上下に動かされるのを目で追いながら、イルカはこの後自分に与えられる辱めを想像しては身を震わせていた。もちろん、恐怖からでは無い。
獲物に向き直った男が、笑みを湛えたままイルカの肌を撫でた。頬から首筋、そして胸元の飾りを擽り、腹を通って叢へと。
「うっ……」
いきり立ったままのものを無遠慮に握られ、呻きに近い声が漏れた。カカシはイルカを宥めるように数度扱いた後、あっさりとそれを解放する。
燻っていた快楽を煽られたイルカが呼吸を整える間に、カカシが素早く印を結んだ。
いつ見ても美しいその動きに瞬きを忘れていると、足元にどさどさと何かが落ちる音がした。見れば、どこにでもあるような巻物がいくつも床に転がっている。数にして、二十は下らないだろう。
意図が読めず戸惑うイルカに、カカシは意味ありげな視線を向けるだけだ。
手首を戒められた虜囚を一歩後ろへ下がらせると、彼は身を屈めて巻物をピラミッド状に積み上げていく。それも、二つに分けて。
最後の一本を頂上に積み上げ、舐めるような視線をイルカに寄越す。彼の意図を推し量りながらも、イルカはその表情に見惚れていた。
里の誉れとすら呼ばれる男が、この瞬間イルカのことだけをその瞳に映しているのだ。
薄暗い独占欲が満たされ、愉悦が湧き起こる。
しかし、イルカが余裕を持てたのはそこまでだった。立ち上がったカカシが壁際の棚の中から取り出した物を見るや、びくりと身体を強張らせる。
彼の手の中にあったのは、黒光りする張り型だった。それも、極太の。逞しい男根を模したそれは、張り出した傘もきつく反った裏筋もカカシのものと酷似していたが、太さだけは一回り以上大きく見える。
「そ、れ……」
「ああ、気付きました? 俺のペニスにそっくりでしょう。昔馴染みに無理を言って作らせました。まあ、少し大きいかもしれないけれど、あなたなら大丈夫でしょう」
「でも俺、そんな」
「今夜は――」
鋭い目線がイルカを捉える。見据えられ、弱音を零した唇をきつく引き結んだ。
「今夜は、俺の言う通りにしてくれる。そうでしたよね、イルカ先生」
有無を言わさぬ声音が部屋の空気すら凍らせる。少なくともイルカはそう錯覚した。
小さく頷きを返すと、カカシは満足したように目を細めた。
「じゃあ、ここに立ってくれますか。崩れやすいから、慎重にね。無駄に腕を傷めないように。大事な身体なんですから」
ここ、と示されたのはカカシが積み上げた巻物の山の上だった。
動揺しながらも、イルカは言われた通りまず右足をそこに乗せる。丸みのある巻物が、イルカの体重を受けてぐらりと傾いだ。咄嗟にチャクラで安定を図ろうとした脛に、鋭い衝撃が走った。
カカシに蹴りつけられたのだと理解した時、頭の中にくらりとするような官能が浮かんだ。痛みと共に、待ち望んだものを与えられたような気すらする。
「チャクラは使っちゃだめですよ。もしまた使ったら、今夜はそこでおしまい」
「はい、カカシさん」
「いい子だね。ふふ、少し赤くなっちゃった……可愛いですよ、イルカ先生」
蹴り上げたばかりの場所を足の指で撫で上げる男の顔は、端から見れば恐ろしいほどに研ぎ澄まされていた。
倒錯的な台詞を投げかけられても、はにかみながら股間を勃起させる自分はどこかおかしいのかもしれない。
鍛え上げたバランス感覚を頼りに両足をそれぞれ巻物の上に乗せ、姿勢を正しながら、イルカは満足げな様子で佇む男に微笑んで見せた。
思春期を過ぎた頃から抱え始めた厄介な性質は、年を重ねるごとにイルカを苛んできた。自分を恥じ、まともに恋愛をすることなど一生叶わないと思い込んでいた。
それが、カカシと出会ったことで抑えきれない恋慕というものを知った。彼の寛容さに縋る形で関係を結んでからは、今までの憂さを晴らすように夢中でのめり込んでいる。無茶苦茶な要求も喜んで受け入れ、尻尾を振るのだ。
いつか飽きられるかもしれない。けれど、それまではこの身体も心も投げ出し、繋ぎとめていたい。
言葉にできない想いを呑み込み、イルカは不安定な足場からカカシを見下ろす。
滑車から垂れた紐に、カカシの指がかかる。数度引っ張り、イルカの腕を顔より少し高い位置に持ち上げさせた後、男は張り型を手にイルカの背後へ回った。
重い物を運ぶ音が聞こえ、腰のあたりに何かが置かれたのが分かる。恐る恐る顔だけで振り向くと、黒い台の上に怒張が据え付けられていた。
それを認識しただけで、足先から痺れが上ってくる。
「うあ、あ……」
つるりとした先端が尻肉の合間にひたりと食い込んだとき、イルカは観念して瞼を閉じた。
しかし、予想に反してそれは窄まりの場所を確認するように位置を調節しただけで、内奥に入り込んでは来ない。
どうして、とそろりと目を開けると、間近でカカシがイルカを覗き込んでいた。微塵も気配を感じさせない移動に感嘆するより前に、整った容姿に目を奪われる。
銀色の睫毛に縁どられた、濃灰の瞳。すらりと通った鼻筋に、酷薄そうな淡い唇。艶黒子はその面立ちを損ねることなく、むしろ彼の妖しい色気を引き立てていた。十人並みの容姿を自覚する自分とは大違いだ。
だが、彼はいつもそんなイルカにこう言うのだ。可愛い、食べてしまいたいくらいだ、と。
ひと月前にも何度も囁かれた言葉を反芻していると、その内心を読んだかのようにカカシが小さく笑った。
「これから、巻物を一本ずつ抜き取っていきます」
「え……」
「すると、バランスを崩したあなたの尻に、抜き取った巻物の直径の分だけその太い物がめり込んでいく。これを、あなたがもう無理だと言うまで、続けます」
意図せず、ひゅう、と喉が鳴った。
生身の彼のものですらいつも咥え込むのに苦労するというのに、それより大きなあれが――張り型が後孔を犯せば、ただで済むとは思えなかった。裂けてしまうか、下手をしたら腸を傷つけてしまうかもしれない。
「大丈夫、言ったでしょう。イルカ先生ならできますよ。たっぷり解してあげたんだから」
風呂場で仕上げとばかりに注ぎ込まれたローションはこのためだったのかと、イルカは強張る顔で無理に笑みを作った。
「わかり、ました。すべて、カカシさんの言う通りに」
ぎこちなく述べた忠誠の言葉は、ひどく掠れていた。
少し低いところからイルカを見上げたカカシは手を伸ばし、引きつった頬を優しく撫でてくれた。主人に忠義を誓う犬を褒めるように、ゆっくりと。
「あなたならそう言ってくれると、信じてましたよ」
その言葉に身体の強張りが解けそうになり、イルカは慌てて腹に力を入れた。それでなくとも足場が不安定なのだ。気を抜けば、カカシに巻物を抜かれる前に自滅してしまうだろう。
イルカが戒められた腕にもぐっと力を込めたのを認め、カカシが薄い唇を開いた。
「では、始めましょう」


「ああっ……」
まずはひとつ、と右の山から巻物が引き抜かれた。右足が一段分沈むのに合わせて傾ぎかけた身体を、左足でどうにか支える。
右のつま先が細かく震えているのは、後孔に食い込んだ杭のせいだ。ぐちゅ、と濡れた音が身体の中からも聞こえる気がする。
先端だけでもこの圧迫感なのだ。先ほど目にした怒張を思い描き、イルカは小さく頭を振った。
あの、張り出した雁首を呑み込めるのだろうか。秘部から流れる血を想像し、身震いする。
今からでも、その気になれば手首を戒める縄から抜け出すことなど容易だ。しかし、イルカはその選択肢を追い払う。カカシに試されていると感じる以上に、進んでこの状況を望んだのだと己に言い聞かせるために。
「まだまだ、余裕でしょう?」
挑発するように瞳をきらめかせたカカシが、上目にイルカを見つめてくる。
小さく頷いたイルカの腿に、男はかさついた手のひらを這わせてきた。汗ばんだ肌を撫で上げられ、ぞくぞくと悦びが背筋を伝う。
カカシはそれ以上の悪戯はせず、手を離すと身を屈めた。反射的に体を強張らせ、イルカは彼の不興を買わないように必死で足を突っ張らせた。
「じゃあ、もうひとつ」
今度は左側だ。床に近い方の巻物を引き抜かれ、今度こそイルカの身体は沈んでしまう。
積み上げられた巻物が互いに支え合うおかげで沈むのは数センチほどだが、後孔が大きく割り裂かれる衝撃にイルカは仰け反った。
「う……っぐ、う……」
うめき声と共に身体から汗が吹き出す。限界まで縁が広がっているのが分かった。黒く凶悪な玩具が、先鋒を突き入れてきたのだ。
油断すればくずおれそうになる身体を叱咤し、ぎりぎりのところで正気を保つ。
いっそ切れてしまえばいい。分かりやすい痛みがあれば、喉元までこみ上げる言いようのない愉悦に呑み込まれずに済む。
男が、ゆったりとした足取りで背後に回り込む。玩具と繋がった場所を撫でられ、ひう、と引きつった声が漏れた。
「やっぱり、あなたって貪欲だ」
切れていませんよ、という囁きと共に、むき出しの背筋を指が伝う。研ぎ澄まされた感覚は僅かな刺激すら拾い上げ、イルカの官能を高めていった。
「はあ、あぁっ……」
目尻に涙が滲む。酷い圧迫感、身体を犯される重い痛み。
ひとり望んでいた被虐よりも数段強いものを与えられている自覚はあった。彼と会うたびに、その程度が増していることも。
それでもイルカは受け入れ、欲する。この男が自分を見つめてくれる刹那のひと時に、溺れるように。
従順な奴隷を甘くいたぶるかの如く、カカシは時間をかけてイルカを苛んだ。ふたつ、みっつと巻物が引き抜かれるたびにイルカは身の内を深く犯され、太く甘い杭に脳天まで貫かれる錯覚すら得た。
次第に朦朧としてきた意識の中、すすり泣く声が聞こえる。それが自分の口から出ていると気付いた時には、腕は筋を傷めそうなほど伸び切り、残り二段となった巻物につま先がようやく触れるような有り様となっていた。
あとひとつでも抜かれれば、身体が宙に浮く。そうなった時に己がどうなるのか、既に腹が膨らむほど呑み込まされた張り型がどこまで食い込むのか――
「うっ……うあ……カカシ、さ……」
もう閉じることもできない口からは涎が垂れ、鼻水すらもイルカの顔を汚している。昼間、太陽の下で子供と駆け回った男の姿はどこにも無かった。
感嘆するようなため息を零したカカシが、眼前に立つ。白い頬を淡く染め、イルカの肌に手を伸ばしてきた。
尖りきった胸の突起をくるくると撫でられると、甘えたような声が鼻から漏れる。柔く摘ままれたかと思うと強い力で潰され、イルカは悲鳴を上げる。
それでも、すっかり発情しきった雄からは透明の液体がしとどに溢れていた。
胸の弱いところを散々嬲ったカカシに、放出を待つばかりの肉茎をいたずらに擦り上げられる。じれったい刺激に腰を揺らしかけ、身の内に収まった凶悪な杭に動きを止められた。
イルカのもどかしさをからかうように、カカシは甘い快感を与えるばかりだ。
「……あ、あぁ……お願い、もっと強く……」
思わず零れた言葉に、カカシがちらり、とイルカを見る。
「もっと強く、何を?」
「お、俺の、を、擦って」
「それじゃ分からないな、イルカ先生」
わざとらしさを隠しもせずそう言ってのける男が、にやりと笑う。
今の自分はきっと、縋りつくような顔をしているのでは無いだろうか。
濃灰の瞳に映る己の姿を認めることすら躊躇われ、イルカは涙に濡れた目をそっと伏せた。
「俺の……ち、ちんぽを擦って……ザーメン、出させてください」
最後は涙声になっていた。屈辱的な台詞は以前カカシに仕込まれたものだ。もっと卑猥なことも散々言わされているのに、いつまで経っても慣れることが無い。
「教師がそんなこと言っていいの? 本当にエッチなんだから、イルカ先生は」
「す、みませ……」
「ふふ、首まで赤くなっちゃって、可愛い……いいですよ、あなたの望むことなら、何でもしてあげる。イルカ先生のカッコいいちんぽから、白いのどぴゅどぴゅしようね」
誰もが聞き惚れるような艶のある低い声が、誰にも聞かせられないような言葉を紡ぐ。握られた陰茎がびくびくと震え、声だけで達しかける浅ましさをカカシに晒した。
ぐちゅりと、陰茎が男の手に強く包まれる。ぬめった先端を親指でくるりと撫でられ、括れの段差をくりくりと刺激されただけで先走りに白いものが混ざってきた。
「あっ、あっ、いい……ん、あ、あんっ」
なりふり構っていられない。自分でも驚くほど高い声を上げ、イルカは直接的な愛撫にのめり込んだ。
裏筋を潰すように手荒く上下されても、鈴口に爪を立てられても、もっともっとと強請ってしまう。口から零れた涎が彼の手を汚したが、詫びることすらできない。
つま先が痺れ、感覚が薄れてきた。しかし彼の手の中にあるものはこれ以上ないほど敏感に快楽に震えている。
男の手は確実にイルカの泣き所を押さえ、極楽へと向けて追い詰めてくる。手首に縄が食い込むのも厭わず、イルカは絶頂を前に全身を強張らせた。
「んっ、あ、うあっ……あ、出る、出る、カカシさん、見て、出るとこ見てください……っ」
激しく上下され、びゅるっと勢いよく白濁が噴き出した。あまりの快感に後ろをきつく締め付け、前後からの刺激に頭の中が白く染まる。
が、次の瞬間イルカは己の身体に走った大きな衝撃に目を剥いた。串刺しにされるような痛みと、その後に続いた未知の感覚に身体が痙攣する。
一体、何が――
身に起こったことを理解することもできず、イルカは意識を失った。

◇◇◇

自失した男を前に、カカシは興奮を抑えきれずにいた。
陰茎はとっくに固く勃起し、布地を押し上げている。彼の痴態を前に、性感は射精寸前まで高められていた。
天井から吊り下げられた両手と、秘孔を貫く悪趣味な玩具だけで支えられた身体は本人の意思に関係なくびくびくと痙攣している。
汗と、それ以外の液体で濡れた身体には白濁が散り、芯を失った陰茎がくたりと下を向いた。
と、そこからちょろちょろと液体が漏れ始める。次第に勢いを増したそれがぶしゅうっと栓を失ったように床に叩きつけられ、古ぼけた畳の上に黄金色の溜まりを作った。
背中をぞくぞくと這い上がる愉悦に、カカシは知らず声を上げて笑っていた。
「は、はは……最高、最高ですよイルカ先生」
イルカが達するのと同時に、足場を崩したのはカカシだ。ぎりぎりのところで体勢を保っていた彼が、一番無防備になるタイミングで。
彼の目がぐるりと天を向いた瞬間、引き締まった腹が何かを呑み込むように蠢いたのが目に焼き付いている。非常識な大きさの玩具は、彼の深い場所で固く閉じた弁をこじ開け、その先まで達しているだろう。
そこを抉られた時の快楽は筆舌に尽くしがたいという。
言葉にできないほどの高みを味わった身体は、まだらに赤く染まっていた。
カカシは沸き立つ思いをそのままに、彼の前に膝をついた。異臭を発する水たまりに濡れるのも構わない。
出すものを出して大人しくなった陰茎を恭しく手のひらに乗せ、そっと唇を寄せた。独特のツンとした匂いが鼻をつき、恍惚に似た思いがこみ上げる。
先端を口の中に含んで、尿道に残った分も吸い上げた。舌に走る苦味や刺激もろとも味わい、嚥下する。
彼の意識があればどんな反応をしただろうと考えて、唇がにやりと弧を描いた。

◇◇◇

身体を揺さぶられる感覚に、意識がぼんやりと浮上していく。
は、は、と荒い息が耳に触れ、ぞわりと肩が震える。
次第に違和感が大きくなり、身じろごうとして身体が押さえつけられていることに気付いた。それどころか、これではまるで――
ぱちりと目を開けたイルカは、真上から己を見下ろす男の存在に顔を引き攣らせた。
「ひっ……」
「起きた? ひどいな、そんなに怯えて」
白い頬を上気させ、潤んだ瞳で嗤うのはカカシだ。咄嗟に状況を掴めず視線を泳がせたところで、下腹が強く押し上げられた。
「んんっ」
「あー……やっぱ意識があると違いますね、力が抜けてるのも良かったけど、締まりはやっぱりこっちの方が……」
ぶつぶつと呟く男に胎の中を抉られているのだと理解した途端に、先ほどまでの記憶が甦った。
「お、れ……」
「心配しないで、まだ朝にはなっていませんよ。ちゃんと帰してあげる。数時間もすれば、あなたは皆のイルカ先生だ」
背に、柔らかい感触。布団の上に寝かされているようだ。だが男の後ろに見える天井は、連れ込まれた密室のまま。
精液と、唾液と、何かツンとした匂いが鼻をつく。今この部屋に足を踏み入れた者は、異臭に顔を顰めるだろう。
漏らしたのか、とぼんやり思う。最後に感じた衝撃はあまりに強すぎて、自己処理の限界を超えていた。どこか身体が痺れているようで、カカシに穿たれていてもうまく反応ができない。
隙の無い装備を身に着けていたはずのカカシは、今は何も纏っていなかった。鍛え抜かれた肉体に汗が浮かび、目のやり場に困るほどなまめかしい。二の腕にちらりと覗く紅い入れ墨を撫でたいと思いながらも、手に力が入らない。
彼の両脇でぶらぶらと揺れている己の足が視界に映る。肌と肌がぶつかる音、男の荒い息遣い。
あ、あ、と零れる自分の喘ぎ声さえ、どこか他人事のように思えた。
「ふふ、ぼうっとしちゃって……まだ眠ってるみたいだね」
べろりと長い舌が頬に伸びる。唾液を塗り込めるように顔じゅうを舐められながら、イルカは自らも舌を伸ばし彼の顎を味わった。伸びかけた髭の感触がざりざりと舌を刺激する。
やがて当然のように二人の舌が絡まり、緩やかな愛撫に繋がる。
注ぎ込まれた唾液を嚥下し、舌の付け根をちろちろと舐められれば身体がひくひくと震え、後孔に咥え込んだ男を締め付けるのが分かった。
このまま息が止まっても、自分はこの男を恨まないだろうと思えた。むしろ、感謝するかもしれない。誰にも言えない性癖を抱えた自分を受け入れ、望んだ以上の高みまで引き上げてくれた、この男に。
甘美な想像は、ぱしり、と頬を打たれた痛みで瓦解する。
「ほら、勝手にどっかイっちゃ駄目でしょう。あなたは俺のことを見ていないと」
ぐちゅり、と内臓が押しつぶされるような圧迫感に眉が寄る。背が浮くほど抱えあげられた腰を真上から穿たれ、イルカは断続的な嬌声を上げた。
「あっ、あぁっ、うう……ひ、ひぅんっ、あ、い、いた、い……っ」
苦しい、痛い。体重をかけて打ち付けられる逸物は狂気にも似てイルカを傷めつけた。凶悪な張り型によって限界まで押し広げられた秘部が充血し、腫れ、悲鳴を上げている。
許容量を超えた痛みにシーツへ爪を立てたイルカだが、奥を穿った男がずるずるとそれを引き抜いた時、言いようのない痺れが背筋を這い上がるのを感じた。
「あ、あぁ……」
イルカの変化を敏感に感じ取った男が、今度は甘やかすようにゆっくりと腰を進めてくる。肉壁を押し拓く熱に、ひどく感じやすい箇所をぐりぐりと刺激され、遠ざかっていた官能がイルカの身体をふわりと包んだ。
「ふ……んっ、い、いい……」
身体を弛緩させ、カカシの腰に足を絡める。誘うように彼の尻を踵で擦ると、情欲に燃えた瞳が細められた。
もっと強い愛撫を求めたはずの身体から、にゅぷりと雄が抜かれる。
「なん、で」
男の形にぽっかりと開いた孔に、カカシの視線が注がれた。自分でも見たことの無い、熟れた恥肉まで彼の目に晒されていると思うとひどく興奮する。
栓を失った場所はひくひくと物欲しげに疼いている。男が中に残した先走りと、陰茎から垂れた自らのそれで卑猥にぬめりを帯びているだろう孔は、快楽に弱すぎた。
「少し、色が濃くなってきたね」
ここ、と言いながらカカシが左右から指を入れ、ぐにぃ、と縁を広げる。
「あっ」
「あんな凄いの咥え込んだのに、切れて無いなんて凄いな……中も、赤くなってるけどきれいだ」
粘着質な視線がイルカの秘部を検分する。やめてほしい、恥ずかしいと思う一方で、どうしようもない愉悦がこみ上げた。
身も世もなく喘ぎそうになる口を引き結んで、イルカは男の視線に耐えた。
カカシは当然のように舌を孔の内側にまで侵入させ、蛇のようにイルカの中を蹂躙した。
ぐちゅぐちゅと濡れた音が狭い部屋に響く。皺のひとつひとつまで舐め上げられ、会陰も舌と指で柔く解されてしまう。
知らず勃起していた陰茎とその下の丸みが唾液にまみれるのを、イルカは息を荒げながら見上げていた。
散々イルカの味を堪能しただろう男が、満足げに顔を上げる。射精を許されなかった陰茎はびくびくと震えていた。
ゆっくりと、腰が下ろされる。背中にシーツが当たったと思った次の瞬間には、イルカの身体はぐるりとひっくり返されていた。
胸がぴたりとシーツに触れ、背後に男の重みを感じた。
腰を浮かせる暇もなく、閉じた足を跨いだカカシが双丘を割り、怒張の先を押し当ててくる。
「あ、カカシ、さん……」
小さく名を呼べば、肩に男の唇が触れた。汗ばんだ肌をちゅう、と吸い上げ、熱い舌に慰撫される。
「んっ……う、あ……ん、ああっ」
ずぶりと侵入した、硬い雄が孔を埋める。イルカが自失している間ずっと男を咥えていただろう場所は、抵抗もなく奥までそれを受け入れた。
慣れ親しんだ男根に狭道を満たされ、じわりと胸の奥に熱いものがこみ上げる。カカシは先ほどの激しさが嘘のように、緩慢な動きでイルカを抱いた。
「あぁ……は、あ、んっ、……いい、いい……」
自身の形を教え込むように、そして漏れ出る先走りを肉襞に刷り込むように、慎重ともとれる動きで陰茎が出入りする。
甘ったるい嬌声は最早、堪えることすらできなかった。
「イルカ、可愛いイルカ」
耳朶に、舌が這う。この身を散々嬲った男は、まるで恋人に愛を囁くようにイルカの名を呼んだ。
襞が男を締め付ける。もっともっとと強請るように、硬い雄を身の内で甘やかす。
こみ上げる想いは確かな言葉を持っているはずなのに、それを口にするのが恐ろしい。狂おしいほどの熱が喉元で渦巻き、イルカは言葉を紡ぐ代わりに男の手に指を絡めた。
すぐ握り返された手のひらはしっとりと湿って、イルカの何もかもを包み込むように温かい。
「カカシさん……」
「イルカ。俺の、イルカ……もっと奥まで、俺を入れて」
吐息のような声と共に、いっそうカカシが腰を進める。
「あ、あぁっ」
尻の肉が圧し潰される。本能的な恐怖に身体が逃げを打つが、両手は彼の手中にある。手遅れだ。
豊かな叢の感触を強く感じたのと同時に、男の切っ先が最奥を突き上げた。
「う、あ………」
ひく、と唇が震えた。口の端からたらりと涎が垂れ、瞼の裏がちかちかと弾ける。
玩具で貫かれた身体の奥に今、カカシの熱が嵌っているのだ。内臓を押しつぶされるような圧迫感と共に得たのは、途方もない快感だった。
「ひ……ぐ、ぅあ……――」
意思と関係なく腹が痙攣し、じわじわと布団が濡れていく。漏らしたのだろうか。確かめるすべも無く、何度も味わった絶頂以上の悦楽がイルカの身体を駆け巡っていた。
背後で男が低く息を詰めた。それでも堪えきれなかったのか、胎の奥に勢いよく精が打ち付けられる。その感覚すら普段よりはっきりと感じられた気がした。錯覚かもしれない。何しろ、彼とここまで深く繋がったのは初めてなのだ。
はあ、はあ、と互いの吐く息が荒い。カカシは少しだけ腰を浮かせ、立て続けに二度、三度と緩く腰を打ち付けた。
「……う、あっ、はあ……っ」
すべて出し切ろうとする雄の動きに翻弄されながら、イルカは彼の指に己のそれをきつく絡める。そうでもしていないと、また自失する予感があった。
達したばかりの肉壁を楽しむように腰を揺らしていた男が、再びひたりと肌を合わせてくる。
「イルカ……」
耳に、彼の唇が触れる。誘われるようにぎこちなく顔を動かしたイルカは、その時自分が泣いていることに気付いた。まばたきの瞬間、涙が頬に流れたのだ。
カカシは黙ってその涙を吸い取り、そのまま唇を合わせてきた。
しょっぱい唾液を交わらせながら、事後の興奮を抑えるように舌を絡める。無理な角度に、歯が当たっても気にならない。
ぼやける視界でどうにか彼を見つめる。至近距離で認めた彼の双眸もまた、イルカをじっと見つめていた。
どこかひたむきにすら思えるその眼差しに、封印したはずの熱がぶり返す。自分が抱える以上の熱を、この男も秘めているのではないか。願望にも似た妄想がちらついた時、永遠に続くかと思えた口づけが終わりを迎えた。
肩に唇が触れる。きつく吸い上げられ、ぴりりとした甘い痛みが走った。
「今夜は、全部、俺の――」
呟くような声だった。続く言葉を待っていたイルカは、突然腹の中に広がった奔流に一瞬、我を忘れた。
「え、えっ」
身の内に広がる未知の感覚に狼狽する。精液を吐き出されるのとは違う。これでは、まるで――
「受け止って。イルカ、俺の全部」
イルカの体内に放尿しながら、男が上擦った声を出した。身の奥を穿った時よりもずっと、その声には興奮が滲んでいる。
頭の中で、無垢な自分が嫌だと叫んでいた。やめろ、離せ、と狭い檻で暴れている。
しかし、イルカはその檻に背を向けた。檻の外の世界は、歓喜しているのだ。カカシに求められ、これ以上ないほど証を刻みつけられて。
「うれ、しい……」
ぽつりと零した言葉ごと、カカシの唇に呑み込まれた。


繋ぎ続けた手から、温もりが離れていく。じんじんと痺れ始めた手で、イルカはシーツを握りしめる。背中に冷たい風を感じたとき、後孔からずるり、と男が抜けた。
「はぁっ……」
くぱりと口を開けた秘部から、堰き止められていた液体が零れ落ちる。言いようのない不快な感覚だった。だが、何もかもをカカシに見られていると思うと胸が疼く。始末に負えない、とはこのことだ。
放出が収まりほっと息を吐いたところで、下肢に乾いた布が押し当てられた。
「……痛むところは?」
穏やかな、しかしまだ興奮を残したカカシの声が落ちてくる。無い、と答えようとしたが喉がひりつき、イルカは小さく咳込んだ。
跳ねる背に、彼の手が触れる。宥めるように優しく背を擦られるうち、イルカの劣情も落ち着きをみせた。
「すみま、せん」
ごほ、と最後にひとつ咳をして、背後の男を振り返る。カカシは真摯な瞳でイルカを見つめ、ふ、と息を吐いた。
「少し休んだら、シャワーを浴びましょう……手伝いますよ。あなたも俺も、ひどい有様だ」
支えられ、体の向きを変える。股間のあたりがぐしょぐしょに濡れていた。最中には漏らした、と感じたが、シーツはまだらにその色を変えている。潮を吹いてしまったのか、と思う。初めてのことでは無い。
あぐらをかいたカカシが、膝の上にイルカの頭を乗せた。力を失くした陰茎が顔の真横にぼろりとまろび出て、イルカは思わず苦笑する。どうにも、小便臭くて敵わない。
「笑ってくれるんですね」
「え……?」
「いくら何でも、嫌われたかと思いました」
最中の、自信に溢れた男にはおよそ似つかわしくない台詞だ。困ったように眉を下げた男に、イルカは自然と腕を伸ばした。
豊かな銀髪の先を、指先で梳く。安っぽい蛍光灯に銀色がきらりと光る。
「そんな訳が、無いじゃないですか……元々は俺から誘ったのに」
「ふふ……甘いね。また付け込まれますよ」
俺みたいな悪い奴に、とカカシが皮肉な笑みを浮かべる。彼が、事後にこんな表情を浮かべるのは初めてだった。いつもどこか他人行儀で、どんなに体を合わせても肝心のところではイルカと距離を置いていたのに。
「あなたみたいな悪いひと、他にいません」
形の良い耳を撫でてやると、カカシはほんの少しだけ目を見開いたあと、心得たようにイルカに顔を寄せた。触れるだけの口づけが湿り気を帯び、カカシが再びイルカに覆いかぶさるまで、時間はかからなかった。









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