「畑の幸、海の幸12」の無料配布。この頃は毎回無配を出していてえらいなと思いました。
確かコピーで作ったはず。


----------



 秋の、いい陽気だ。
 アカデミーの長い廊下を歩きながら、大きな窓から差し込む柔らかい光に、うみのイルカは目を細めた。
 教師になって四年。忍者アカデミー内では中堅どころのイルカは午後の授業を終え、軽い足取りで歩を進めていた。
 知らず鼻歌が出ていたことに気付いたのは、肩をぽん、と叩かれた時だ。
「おっイルカ、何かいいことでもあったのか?」
 同僚の男が珍しそうに顔を覗き込んでくる。思わず肩を引きながら、いや、と首を振った。
「別に、何も」
「そうか? やけに機嫌いいじゃねぇの」
「いやいや、何でもないって。それより早くしないと次の授業始まるぞ」
「あっいけね」
 ばたばたと忙しなく走り去る同僚を見やりながら、イルカはまた頬が緩んでくるのを抑えられなかった。これでは勘繰られても仕方ない。
「いかんいかん」
 小さく独り言ちて、イルカはぶるりと頭を振った。雑念を振り払い、職員室へと足を向ける。まだ受付業務も残っているのだ。こんな調子ではミスのひとつもしかねない。
 平常心、平常心。そう思い目を瞑れば、そこに浮かぶのは色の白い男の顔。銀髪の合間に切れ長の瞳をひとつ覗かせて、イルカに笑いかける男の姿。
 う、と妙な形に唇を曲げるイルカの姿を、すれ違う職員が怪訝な顔で窺っていた。
  
 

 ぽかぽかと背中に暖かな光を受けながら、猿飛アスマはソファに深く腰掛けていた。
 上忍待機所にはその名の通り数人の忍が待機している。使い古された革張りのソファに腰かけるのは、アスマとあと二人だ。その内の、向かい合う一人がさっきからずっと手元の文庫本に目を落としているのに、アスマはついに耐え切れず口を開いた。
「なぁカカシ、その本逆さまになってんぞ」
「シッ! アスマ、何で言っちゃうのよ。いつ気付くか賭けてたのに!」
 ねぇ、と離れた場所に座るくのいちと頷き合いながら、隣に座る女、夕日紅が文句を言ってくる。
「だっておかしいだろ、さっきから一時間近くページを捲りもしねぇ。カカシ、お前どっかおかしいんじゃねぇのか」
 アスマの真剣味を帯びた声にも、カカシはあーとかうんとか、曖昧な返事しか寄越してこない。
 はたけカカシ。里を代表する上忍の一人だ。長い付き合いだが、これほど上の空なのは見た事が無い。
「馬鹿ね。分からないの? アレよ、アレ」
 肘を小突かれ、「何だ?」と怪訝な顔をしたアスマに、紅は鼻の穴を膨らませてみせた。
「恋よ! 恋に決まってるじゃない!」
「恋だぁ!?」
「そうよ、ついにカカシにも春が来たのよ! こないだからぼーーーっとしちゃって、おかしいでしょ!?」
 驚いて咥え煙草を落としそうになったアスマの前で、拳を握り熱弁する紅の頬はいつしかピンク色に染まっている。それをちょっと可愛いなと思いながら、アスマは顎にたくわえた髭を撫でた。
「でも任務は普通にこなしてんじゃねぇか」
「そりゃそうでしょ、コイツだもの」
 親指でびしっと指した先、カカシがのそりと顔を上げる。
「コイツって何よ」
「あ、喋った」
「さっきから好き勝手に言わないでくれる? 人の事。精神集中図ってただけなんだけど」
「何が精神集中だ」
 場が呆れ返ったその時、待機所のスピーカーからノイズ交じりの音楽が流れ始めた。定時を示す合図だ。夜勤担当以外はこの合図をもって待機解除となる。
「じゃ、そういうことで」
 言うが早いか、カカシの姿はもう扉の向こうに消えていた。
「逃げ足の早ぇ奴だな」
「どこに行くのかしら、あんなに急いで」
 すわ色めき立つ女性陣を片手で制して、アスマは巨体を起こす。
「やめとけ、馬に蹴られるぞ」
「なによ、いいじゃない」
 ぷくぅと唇を尖らせる紅をまたしても可愛いなと思いながら、扉へと向かう。小さく「行くぞ」と言えば文句を言いながらも後に付いてきた。さぁ、今夜こそは俺も決めねぇとなと思うアスマの胸中からは、カカシのことなどすっかり消えていた。
 
  

 木の葉の里は椀状の地形をしているため、限られた土地に雑多な建物がひしめき合っている。だが繁華街を抜ければ派手な電飾も無く、夜空を見上げれば満点の星を目にすることができた。そんな星空の下、同じくらいの背丈の男と並んで夜道を歩きながら、イルカは胸の高鳴りを押さえられないでいた。
 業務を終え、待ち合わせた彼と食事をし、いつもよりも少なめの飲酒をした後こうして歩いている。目的地はカカシの家だ。
 そう、イルカは今、あのはたけカカシと連れ立って歩いているのだ。
 里の誇る看板上忍。名うての業師、コピー忍者。数多もの通り名を持つ上忍であり、今はイルカの教え子の上忍師でもある。
 どうしてそんな男と、アカデミー教師である中忍のイルカが二人きりで居るのかというと……
「イルカ先生」
「はいっ」
 ふいに声を掛けられ、肩がびくりと跳ねた。声が裏返ってしまったのが恥ずかしい。
「どこか寄っていきますか、俺の家ろくにツマミも無くて」
「いえ、お構いなくっ、そんな、あはは、はは……」
 ぎこちなく笑うイルカに、カカシはそうですか、と返すのみだった。その耳がほんのりピンク色になっているのは見間違いだろうか。
 彼以上に赤くなっているだろう耳をさりげなく擦りながら、イルカは唇を引き締めて前を向いた。
 お付き合い、というものを始めて今日で一か月。『お付き合い』というのは、いわゆる男女間のそれと同義のものだ。
 受付で、ナルトと並んだ一楽で。小さな接触しか持たなかった時から、彼のことが気にはなっていた。三代目に教示された彼の経歴や見てくれの胡散臭さに、始めは距離を感じていたのも事実だ。それでもナルトが心を開いているようだったから、悪い人では無いと思っていた。
 ある時偶然行き会った居酒屋で、話してみれば思った以上に心安い人だった。向こうにしてもそれは同じだったようで、次の日に本部の廊下ですれ違った時には改めて酒に誘われた。
 それから何度か杯を重ねるうち、触れ合う小指やふいに絡む視線の端々に、彼からの好意を感じるようになったのだ。
 始めは気づかないふりをしていた。自分の中の常識が崩れるのが恐ろしく、またアカデミー教師としての体裁もあった。それに少しでも彼の気持ちに歩み寄れば、一気にすべてが変わってしまいそうな気がしていた。
 しかしカカシは何を言うでもなく、傍から見れば健気なほどの慎重さでイルカに対峙していた。イルカがわざと昔の女性関係を持ち出しても嫌な顔一つせず話を聞いたし、わざと酔いつぶれてみても紳士的に家へ送り届けてくれるだけだった。そこまでしてようやく、イルカは気づいたのだ。ベッドへ自分を寝かせてくれたカカシの、優しく頭を撫でて去っていく後ろ姿を見て、ようやく。
 好きなのだ。
 俺は、この男が好きなのだ、と。
 そうして翌日、七班の任務を終えた彼が、子供たちと別れたところを捕まえた。本部棟の一階、人気の無い倉庫へ連れ込んで、戸惑う彼に片手を差し出してひと言、付き合って下さい、と告げた。カカシは一瞬呆けたような顔をしたけれど、すぐあの白い顔を真っ赤にして、イルカの手を握り返してくれた。よろしくお願いします、なんて上擦った声で言うから、どうにも照れ臭くなってしばらく二人で握手したままその場で固まってしまったのを覚えている。
 この一か月の間に、人目を忍んで手を繋ぎ、物陰で唇を合わせるところまでは進んだが、そこから先は未知の領域だった。
 互いに同性とこういう関係になるのが初めてということもあり、慎重すぎるのかもしれない。いい大人が、何をしているんだと思わないでもない。
 だが、今日こそは、その日なんじゃないだろうか。
 初めてカカシの家へ行くのだ。あらかじめ日を決め、招かれてのことだ。そういう心構えで来いよ、ということに他ならない。
 はっきりどちらがどういう役割かなんて話し合ったことは無いが、キスする時の自分の押され具合からしてイルカが下になるように思えた。女役だ。果たして上手にできるか自信は無いが、家へ誘われた日から資料室の指南書をひっくり返して勉強してきたから何とかなるだろう。今夜のために、何とは言わないが体調も整えてきた。さようなら、俺のバージン。
 イルカは黙ったまま隣を歩く男をちらりと見て、その色男っぷりにあてられて小さくよろめいた。本当に良い男だ、自分には勿体ないくらいの。
 知り合いとばったり出会う心配が無かったなら手を繋ぎたい衝動を、必死で堪えた。冷たそうに見えて案外温かいその手のひらが、イルカの手のひらと触れ合って段々湿っていく様を思い出し、むらむらと欲が湧き起こる。ああ、上でも下でもいいから早くこの人とヤリてぇ…!ほんの一月前までは同性愛を躊躇っていたとは思えない台詞を胸の内で叫んでいると、カカシがぴたりと足を止めた。
「ここです」
 言われて顔を上げると、クリーム色の重そうなドアが目の前にあった。悶々としているうちに、マンションの階段も昇っていたらしい。
「あっ、はい」
 間抜けな返事をしながら、鍵を開けるカカシの背を食い入るように見つめる。
 このドアだ。ここを通ると俺は、新しい俺になっちまうんだ。
 ごくりと喉を鳴らしたイルカに、あのー、とカカシが困ったような顔で振り返った。
「そんなに見つめられると穴が開いちゃいそうなんですけど」
「あっ! すみません、いや、別にそんなつもりじゃ……」
「ま、いいけど……さ、どうぞ」
 促され、一歩踏み出す。イルカの家よりも広い玄関に二人収まってしまうと、背後で扉ががちゃりと閉まった。
「お邪魔しまー……」
 脚絆を解きかけたところを、後ろから伸びた手に抱きすくめられる。
 ぎゅう、と優しく二本の腕に包み込まれ、イルカはぴたりと動きを止めた。心臓がどくりと跳ねる。
「ねぇ、そんなに緊張しないでよ。って、俺もなんだけど……朝からずっと、ドキドキしてる」
 耳元で、低い声が熱を持ってイルカの肌を撫でる。ぞわぞわと肌が粟立ち、胸が痛いくらいに鳴っていた。
「イルカ先生。俺、本当はあなたと恋愛関係になれなくても良いと思ってた。遠くから見てるだけでも充分だって思ってたんですよ。でもね、あなたがあんまり優しいから……俺なんかのこと、好きになってくれたから、欲が出ちゃった」
「カ、カカシさん」
「分かってくれてると思うけど……今日は帰せないよ。あなたの身体、隅から隅まで俺のものにしたい。嫌だって言っても止めてあげられないかも」
 どこか切羽詰まった響きを滲ませて、カカシの腕に力が篭った。イルカは真っ赤になっているだろううなじを彼に晒して、こくりと頷いた。
「お、俺も、カカシさんのこと俺のものにしたい、です。そりゃ男同士なんて初めてなんで、色々びっくりしちまうかもしれませんけど、嫌じゃないです、きっと」
 ひぃ、と叫んでしまいそうだ。こんな台詞を言う日が来るなんて。どんな恋愛ドラマよりも甘い言葉を吐いてしまった気がして、イルカはますます耳が熱くなるのを感じた。
 背後で、カカシが深く息を吸い、吐き出す。
「……イチャパラにも、そんなこと書いてなかった……っ」
「へっ?」
「独り言です、お構いなく」
 ぱっと彼の腕が離れたかと思うと、イルカは足元からぐんっと力強く抱え上げられた。背中を、膝裏を支えられ、横抱きの状態でカカシにずんずんと運ばれていく。脚絆もサンダルもそのままの足がぶらぶらと揺れるのに慌てるが、カカシは真っすぐ前を見据えて大股に突き進んでいく。その目が血走っているように見え、イルカはさっきとは違った意味でひぃ、と叫びそうになった。
 どさりと降ろされたのはベッドだろうか。続いて乗り上げてきたカカシが、手際よくイルカの足元を寛げていく。脱がされたサンダルがごとりと床に置かれ、続いてズボンへ手をかけられイルカは慌てて身体を起こした。
「ちょ、まって、待ってください」
「待てません」
「せめてシャワーくらい……っ」
「気になりますか」
 カカシが自分の身体をくん、と嗅ぐ。
「ち、違います、俺、今日も体術の授業があって、汗くさいから」
「構いません。言ったでしょう。隅から隅まで俺のものにするって」
 ぎらりと光る眼差しに圧倒され、そんなぁ、と情けない声を出すのが精いっぱいだった。
  

 
「あっ、あ、あぁー……」
 間延びした声が喉の奥から次々に溢れてくる。
 裸足の指先を咥内に含まれ、イルカはきつくシーツを握りしめた。言葉の通り全身くまなく彼の舌に愛撫され、頭の芯まで蕩けそうだ。
 肝心な場所だけは触れてもらっていないのに、そこはきつく勃ち上がってとろとろと先走りを零している。
 早々に裸に剥かれた自分とは違い、カカシはベストを脱いだだけで黒の支給服を纏ったままだ。今すぐ任務に飛び出せそうな男と、無防備に急所を晒している自分。その対比がひどくいやらしく思え、触ってもらえない雄がぴくんと揺れた。
 足の指なんて、舐める場所じゃないだろうに。カカシに出会わなければ一生知ることの無かった感触だ。
 胸だってそうだ。男の乳首なんてただの飾りだと思っていた。それなのに、カカシの指で摘ままれ、先端の丸みを擦られればきゅんきゅんと疼くような感覚が走り、気付けばあられもない声を上げていた。舌で嬲られるともうだめだ。終いにはもっともっとと押し付けるように彼の頭を抱えていて、あやうくそれだけで射精するところだった。
 信じられない。こんな快感、俺は知らない。
「お、男は、初めてじゃなかったんです、か」
「ん? 初めてですよ。気持ちよくできるか不安だったけど……心配いらないみたい、だね」
 情けないほど勃起したものを見て、カカシが小さく笑う。
 恥ずかしい。けれど、その視線にすら感じた。
 額当ても口布も取り去った素顔は惚れ惚れするほど男前だ。灰色の右目に見つめられると時が止まってしまうと思えるほどに。
 長く、紅い舌がべろりと伸びて足の指の間を舐めていく。
「あ、は、はぁんっ」
 ぞくぞくとした痺れに腰が浮き、張りつめた陰茎が痛いくらいに感じた。
 もう、無理かも。恥じらいが勝って触れられなかった場所へ、ついに手を伸ばした。どくどくと脈打ち熱を持ったそこは、鈴口から溢れたものでどろどろに濡れていた。柔らかく上下するだけで堪らなく気持ち良くて、ぐちぐちと音を立てて手を動かす。はぁ、はぁと荒い息を吐きながら、視線はカカシの舌に釘付けだった。
 指の間、爪の隙間、そして足の裏をべろりと舐められるともう極まってしまいそうだ。
 あと少し。自分を追い上げようと手の動きを早くしたとき、強い力で手首を掴まれた。
「あっ」
 ぶるんっと弾かれた陰茎から、ぴゅるりと透明の汁が飛んだ。もうちょっとだったのに、と膝を擦り合わせながらカカシを見れば、ぎらりと光る眼差しに捉えられる。
「だめだよ、全部俺にくれなきゃ」
「え……」
 握った手首がそのままシーツに押し付けられる。膝裏を押して大きく開かされた足の間、彼が頭を沈めた。
「あ、待っ、そんな……、あぁっ」
 熱くてぬめった場所がイルカを包む。全体をすっぽり咥えられ、えらの張った場所を舌先でぐりぐりと刺激されてイルカは大きくのけぞった。あー、あー、と甲高い声がどこか遠くに聞こえる。
 先端から根元まで、味わうように舌を這わされる。先走りをじゅるりと吸われればもう我慢できなくて、イルカはねだるように彼の頬へ手を伸ばした。
「カカシ、さん、も、もう、いきたい」
 ぐじゅ、と鳴ったのは自分の鼻水だろうか。涙も滲んでいるようで、カカシの顔がぼやけて見える。それでも彼がうん、と言ってにこりと……いや、にやりと言うべきか、笑ったのは分かった。
「奥まで、突いていいからね」
 言葉の意味を理解する前に、再び彼の咥内へ含まれる。頬肉で締め付けながら一気に根元まで呑み込まれ、目の前がちかちかした。先端が柔らかい場所へ触れ、これが奥か、と思い知る。
 自分のものは標準サイズだと思っていたけれど、それでも根元まで咥えると辛いのでは無いだろうか。まして、こんな、奥に当たるまで。
 全部欲しい、と熱っぽく言っていた彼の言葉が蘇る。もしかして、イルカが想う以上に想われているのかもしれない。
 そう思うとぶわりと愛しさと、次いで男としての欲求が湧き上がる。
 イルカはカカシの髪へ指を挿し込むと、遠慮がちに腰を引き、またゆっくりと挿入した。薄く開いた彼の目と、視線がかち合う。片目だけでにこりと笑うのに堪らなくなって、はあぁ、と甘えたような声が漏れた。
「カカシさん、おれ、おれ、気持ちいい……っ」
 彼を傷つけるのが怖くてゆるゆると動かしていた腰を、カカシの指がぐ、と掴んだ。尻の肉に指が食い込む。あ、と思った時には、カカシが激しく頭を振り始めた。
 喉の奥へ強制的に打ち付けられ、カカシの唇とイルカの陰茎の擦れる下品な音が部屋に響いた。
「ああ、あっ、ん、もう出る、出ちゃう、は、離してくださ……あああんっ」
 びゅるるっと勢いよく精子が管を走り抜けたのが分かった。濃く、たっぷりとした白濁がカカシの喉奥に呑み込まれていく。
 かくかくと震える腰はしっかりと掴まれたままで、イルカは残滓まですべてカカシに吸い取られてしまった。
 こんな激しい快感、初めてだ。ずるりと彼の口から抜け落ちた陰茎はべっとりと濡れ、てらてらと光っていた。
 カカシの唇と、自分の陰茎とが銀色の糸で結ばれている。そこからとろりと垂れた唾液が鈴口に溜まり、萎えかけた茎を伝って根元に落ちた。
 彼は手の甲で唇をぐいと拭うと、くたりと萎えたイルカのものを愛しそうに指でなぞった。
「いっぱい出ましたね……溜まってた?」
 その問いに答えることはできず、イルカはただふぅふぅと息を荒げるばかりだ。口の端から零れそうになった涎をじゅるりと吸うと、カカシがその姿を見てふふ、と笑った。
 ずいぶん余裕なようだが、視線を落としたイルカは彼の下半身に釘付けになる。そこでは、下穿きの形を変える程きつく盛り上がった性器が布を押し上げていた。
 ごくりと、知らず喉が鳴る。同じ男のものなのに、見たいと強く思ってしまう。
 イルカは肘をついて起き上がると、彼の腿にそっと手を置いた。
「あなたのことも、俺にください」
 言えば、カカシが嬉しそうに目を細めた。
  
 

 じゅ、じゅ、と唾液の擦れる音が耳にうるさい。イルカは顔にかかる髪をかき上げながら、片手をカカシの陰茎に添えて必死で頭を前後させていた。
 指で作った輪っかには垂れてきた唾液が溜まり、少し指を動かすだけでくちゅくちゅと濡れた音を立てる。カカシにされたことを思い出しながら、舌で裏筋を刺激しながら唇で茎を扱く。先端から滲み出る先走りが咥内に何とも言えないしょっぱい味を広げていた。
 イルカのものよりも長大な茎をどうにか根元まで呑み込むと、鼻の頭にふさふさとした陰毛が触れる。こんなところも銀色なんだと今更になって気づく。彼が全裸を披露した時、鼻先に押し付けられた陰茎に一も二も無く自ら唇を押し当てたせいだ。
「ん……っ、ふ、ふぅ……」
 鼻から甘ったるい声が抜けていく。口を使っているだけなのに、イルカは膝を摺り寄せて自身の快感を堪えていた。
 カカシのものは長いだけでなく、固さも充分だった。色はイルカのそれよりも薄いピンク色をしているのに、その質感は凶暴だ。こんなもので貫かれたらどうなってしまうのだろう。準備はしてきたつもりだが、実際に彼の雄を目にしても恐怖より期待が勝る自分に驚いた。
 彼はどうなのだろう、そういえば、言葉にして確かめたことは無かった。男の身体に突っ込むなど、嫌では無いのだろうか。ふと気になって見上げてみる。あぐらをかいたカカシの股座に顔を突っ込んでいるイルカは、先端へ舌を這わせながらどうにか彼の表情を窺った。見上げた先のカカシは眉を顰め、何かに耐えるようにふーっ、ふーっと唇の間から細く息を吐いている。睨みつけるような視線とかち合い、思わず目を逸らしてしまう。確かめる間でも無い、ということなのだろうか。
 ならば、と先端の丸みへちゅ、と口づけ起き上がる。
 向かい合ったカカシの頬へまたちゅ、と口づけ、イルカは彼の前で膝を立て、大きく足を開いた。
「勉強して、きたんです」
 何を、とは言わずに、だらりと下がった双球の下へ手を伸ばす。カカシの目が食い入るように自分の指を追っているのが恥ずかしい。けれどイルカは躊躇わず、奥まった場所の肉を二本の指で割って、そこに隠れていた窄まりをくぱりと開いた。
「俺は男だから、初めてって言っても大したものじゃないですけど……もらってやってくれませんか」
 ひく、と孔が蠢く。当たり前だが、人前にこんなところを晒すのは初めてだ。いくらなんでも引かれたかな、と閉じかけた膝が、強い力で掴まれる。
 ぎり、と歯を食いしばる音がして、カカシがう、と呻いた。
「こんなに、こんなに興奮したのは生まれて初めてですよ……」
 泣き叫んだって止めてあげられないからね、と掠れた声で言ったカカシに足首を掴まれ、イルカはベッドにひっくり返った。
  

 
「あーっ、あ、もういい、もういいからぁっ」
「だめ、まだ三本しか入ってないよ。俺のでかいの入れたいでしょう?」
「い、いれ、たい、でもこんな……あ、ひ、ひぃっ」
 ぴゅるるっとイルカの雄から白濁が飛ぶ。自分でしてきた準備とはいったい何だったのだと思えるほど濃密な手技を施され、イルカは己の内側に性感帯があることを思い知らされていた。カカシが用意していたローションは身体の中で熱を持ち、蕩けてひどく濡れた音を立てている。
「あー、また出ちゃったね。ほんっと感じやすい身体。これでどうやって女抱いてきたの?」
「し、知らな、そんなの知らない……っ」
「妬いたりしないから教えてよ、ほら、また出ちゃうよ、びゅーって」
「あっ、あっ、だめ、も、出な、あっ」
「ほらほら、トントンって気持ちいいねぇ」
「やっ、ああっ、……ち、違う、おれ、どぉ、てい、童貞だからぁ」
「は……?」
 カカシの指が止まる。身体の中、腹側のいやに感じる場所への刺激が止まり、イルカは反りあがっていた背中をようやくシーツへ落とした。
「だって、言ってたじゃない。今まで付き合った女がどうのこうのって、嬉しそうに」
「そ、それは、本当なんですけど……」
「じゃあどういうこと? 童貞って、ここ使ったこと無いってことでしょ」
 勃起したままのものをぎゅ、と握られ、イルカはひぃと悲鳴を漏らす。
「だ、だから、そこまで行けなかったってことですよっ。俺がもたもたしてる内に愛想尽かされて……」
 思い出すに情けない話だが、言った通りだ。性に対して奥手だったイルカは、これまで付き合った二人の彼女にもどうやって事に及んで良いかタイミングが掴めず、キスより先に進めないまま相手から振られていた。忍の里にあって、周りを見れば二回目のデートでは関係を結んでいる奴が殆どだったから、三か月も手を出さずにいたイルカにその気が無いと思われても仕方は無かった。
 できればカカシに知られたくは無かったのだ。女も知らないまま、男に抱かれてしまうなんて何となくイルカのプライドに引っ掛かるのも事実だ。しかし、足をおっぴろげて孔に指を突っ込まれた状態で知られるくらいなら、先に言っておけば良かった。
 ぐすん、と鼻を鳴らせば、しばらく黙っていたカカシがはっとしたようにイルカを見た。
「じゃあ、全部俺が初めてなの?」
「うぅ……は、裸、見せるみたいなのはカカシさんが初めて、です」
「…………っ、う、嬉しい……! あ、いや、別に初めてが良いとかそういうんじゃ無いよ、でもイルカ先生が俺になら裸見せても良いって思ってくれたっていうことがさ……ああ、こんなの、俺も初めてですよ……」
 波のような勢いでまくしたてたカカシが、ふと口を閉じ、イルカに覆いかぶさってきた。
 イルカは黙ってその頬に手を添え、引き寄せる。ちゅ、と音を立てた口づけは、すぐ深いものになった。
 舌を絡め、吐息すら呑み込むようにしながら、大きく開いた足の間では再びくちくちと指が孔を広げていく。三本の長い指がそれぞれバラバラに動いて、イルカの内壁を慣らしていった。
 カカシとこうなる日を前に、自分で試していた時とは大違いだ。指を入れても違和感しか無かったのに。今となってはどうにも疼いてしまい、誘う様に腰がくねるのを止められない。
「はっ……イルカ先生、気持ちよさそ……」
「あ、はぁ……っ、カ、カカシさん、も、気持ちよくなって」
 これで、と言いながらカカシのものへ指を伸ばす。先端をつるりと撫でると、滲んだ先走りで指が滑った。
 カカシが小さく何度も頷いて、イルカの秘所から指を引き抜いた。その拍子にあんっと妙な声が出てしまい、イルカは赤面する。彼はその声にもまた頷いて、起き上がり枕元へ手を伸ばした。ローションと一緒に置いておいた箱からスキンを一枚取り出すと、白い歯で包装紙をびり、と破く。薄ピンクのゴムが見る間に装着されていった。
 ひょい、と持ち上げられた腰の下に、枕が敷かれる。小さな子がおむつを交換されるような格好に羞恥がこみ上げるが、対峙するカカシの姿態が目に入るとその思いもひと時消えてしまう。
 鍛え抜かれた、戦忍の身体だ。余分な脂肪の無い、実用的な筋肉だけがついた肉体。才能や、閉じられた瞳に眠る写輪眼だけでない、彼のたゆまぬ努力の結晶がそこにあった。左の上腕に、紅い入れ墨がちらりと見える。過酷な環境に身を置き、長く里のために尽くした象徴だ。
 思わずそこへ伸ばした手を、カカシに捉えられる。彼はイルカの指先に小さく口づけ、その手を膝裏へと導いた。
「ここ、持てる?」
 言われるまま、こくりと頷きそこを抱えた。自ら足を開くようで恥ずかしいが、彼が欲しいという気持ちの方が強かった。
 はぁはぁと熱い自分の呼吸が、耳にうるさい。大きく開いた足の間、奥まった場所へカカシがずりずりと雄を擦り当てた。
「入れるよ……」
 ぐち、と粘ついた音がする。続いて、身体に杭がめり込んでくる。ぎちぎちと狭い場所を押し開くようにして、ゆっくりとカカシがイルカの中へ入ってきた。
 散々慣らしてもらったと思ったのに、実際あの大きな怒張を受け入れるのは生半可なものでは無かった。本来受け入れる場所では無いのだと思い知らされる。
 それでもイルカはふぅふぅと息を吐いて、できるだけ力を抜こうと努力する。カカシも額に汗を浮かべて、苦しそうに眉を顰めていた。互いに協力し合わないと繋がれないなんて、難儀なものだと思う。けれど、だからこそこの繋がりが特別なものに感じられた。
「んっ、んぐぅ……はっ、あー……」
 全部、入ったんじゃないだろうか。長い時間をかけていっぱいになった腹の中に、固いものがみちみちと収まっている。
 イルカは汗にまみれた顔をカカシに向け、にこりと笑ってみせた。実際は痛みに歪んでいたのだけれど、カカシは同じように口元を緩めてイルカを見つめてくれた。
 優しい顔が落ちてくる。ちゅ、と唇を合わせ、カカシはイルカの汗を拭うようにちゅ、ちゅ、とあちこちへ口づけていった。
「痛くない?」
「はい……何か、すごい感じがしますけど」
「ふふ、何それ……。半分入ったけど、切れてないよ。良かった」
「それは良かった……って、え?」
「うん、だから半分。大丈夫、ゆっくりするから」
 え、え、えええ、と言っている間にカカシはぐいぐいと腰を進めてくる。両手で彼の胸を押すが、まるで力が入らない。
「あっ、ああ、う……も、もう入らな……っ」
 涙声のイルカの上で、カカシは切羽詰まったように眉を寄せていた。きつい、熱い、あそこがじんじんする。
 ぴたりと彼が動きを止めたのに、やっとすべて入りきったのだと分かった。心なしか腹が膨らんだような気すらする。自分の体の中に、確かにカカシがいるのだ。
「イルカ先生……イルカ……」
 甘くて低い声だ。耳に吹き込まれたら、それだけで射精してしまいそうなほど。
 赤い舌が伸ばされる。イルカは躊躇わずそこに己の舌を絡め、注がれた唾液を喉へ流し入れた。
「ん、あ、あはぁ……」
 ずるりと、雄が引き抜かれる。カリ首が内壁をめくるとぞくぞくとして、膝を抱えているなんてとてもできそうにない。震える手をそっと伸ばし、カカシの背へ縋り付いた。
 動きはゆっくりとしていて決して痛みは無いのに、その分湧き起こる快感をつぶさに感じられた。イルカの身体を気遣ってか、緩やかに挿し入れられる雄茎は敏感な肉をねぶり、イルカの口からは甘ったるい鳴き声が漏れる。続いて引き抜かれると、んー、と涙が滲んでしまう。
 どこかに飛んで行ってしまいそうで、カカシにしがみ付く指先に力を込めた。汗ばんだ肌に指を食い込ませると、その熱さに驚いた。いつも涼しい顔をしているくせに。夜道で見たピンク色に染まった耳といい、今日は彼の意外な一面ばかり見せられている。
 彼も同じように興奮しているのだと思うとますます感じ入って、イルカは強張りかけた身体をふ、と柔くした。そうするとますます快感に抗えなくなる。二人の腹に挟まれた陰茎もぐりぐりと擦られて堪らなく気持ちが良い。後ろも前もぐちゃぐちゃだ。
「んあっ、あ、あ、カカシさん……」
「……は、すごいよイルカ先生の中……きゅんきゅんしてる。気持ち良いの?」
「ん、気持ち、い、いぃ、おかしくなり、そ」
「おかしくなっていいよ、全部見せてよ。ね」
 ぐ、と膝裏が持ち上げられる。角度が変わり、先端が内側のひどく感じる場所を抉った。
「ひっ……」
 自身の雄から、びゅ、と短く何かが飛び出たのが分かった。それが何か確認する間もなく、あの場所を責められる。指で小刻みに刺激された時とも違う、太い茎で強くごりごりと押されると頭の中が白く弾けるようだ。
「な、あっ、あっ、あぁ、ひ、ひぃっ」
 がくがくと頭が揺れる。目を見開いているはずなのに何も見えないような、強烈な悦びが体の中で渦巻いていた。
「ああ、可愛い、すごく可愛いよ、イルカ先生」
「む、無理、もうだめ、だめっ、へん、へんだか、ら……あぁんっ」
 カカシは一点のみ目指す動きから、次第に孔の内側全体を擦るような動きに変えていく。長く固い雄がスピードを上げ、イルカの内壁を擦り上げていく。ぐぽぐぽと卑猥な音が自分の尻から聞こえるのに、恥ずかしいと思うよりもひどく感じた。
 たくましい身体にしがみ付いたまま、身も世も無く喘がされる。こんな声が自分から出るなんて思いもしなかった。
 太いものを咥えこんで、初めてなのにこんなによがっていいのだろうか。自分がひどく淫らになった気がして恐ろしい。それでも目の前のカカシを見れば、細められた視線が熱くイルカを見つめていた。他に何もいらないと思えるような、深い灰色の瞳。
「ああ、はぁっ、カカシ、カカシさん、好き、好きだっ」
「っ、は、可愛い、好きだよ、俺のイルカ……」
 カカシの動きが早くなる。肌のぶつかる音が大きく響き、ベッドの上で身体が跳ねるようだった。イルカはもうついていけずに、必死でカカシの背に縋った。
「…………っ」
 極まったらしいカカシが、ぎゅうっ、とイルカを抱き締める。骨が軋みそうな強さに一瞬息を詰めた。続いて、どく、どくと身体の中で雄が跳ねた。その動きに孔がきゅうきゅうと収縮し、彼のものを搾り取るような動きを見せる。
 耳のすぐそばで、カカシがふー、ふー、と息を荒げていた。抱きしめた胸も上下し、心臓の脈打つ速さを伝えてくる。
 何だか鼻の奥がつんとなるようだ。好きな相手を受け入れるというのは、こんなに満たされるものなのか。
 未だイルカを抱き締めたままの彼の背を優しく擦りながら、イルカは汗に濡れた頬へそっと、唇を押し当てた。
 すぐにカカシが気づいて唇を寄せてくる。穏やかに舌を絡めながら、しばらくそうして抱き合っていた。
 ん、と彼が身を起こし、ずるりと雄が引き抜かれる。その瞬間も感じてしまい、イルカは細く長い声を上げた。
 気付いてみれば、二人の間もどろどろに汚れていた。いつの間にか何度も達していたらしい、腹の上にはイルカの吐き出したもので白い溜まりが出来ている。
 カカシはティッシュでそれを拭うと、さりげなくイルカの孔の周りも拭いてくれた。そうして自分のつけていたスキンと共にくず籠へ放り込み、イルカの隣へぱたりと倒れた。
 汗や体液がついたままの二人の身体に、カカシがもそもそと布団をかける。
「いいんですか、汚れっちまいますよ」
「構いません。それよりもうちょっとこうしてたい、かな」
 ふふ、と彼が笑うのに、イルカも口元が緩んでしまう。どこかくすぐったいような空気だ。幸せという言葉が、頭をよぎるような。
「俺、朝からずっとドキドキしてました」
 ぼそぼそと、内緒話をするように声を潜めて言えば、カカシが俺もです、と肩を竦めながら顔を寄せてきた。
「他の奴らにも呆れられるくらいでしたよ」
「カカシさんが?」
「そ、この俺が」
 親指を立てて気取って見せるカカシに笑いが零れる。二人で声を潜めてくすくすと笑い、絡んだ指先に唇を寄せた。
「カカシさん」
 皮膚の固くなった指先。薄い傷跡の残る肌。きっとこれからも傷が増えていく、互いの身体。
「俺、あなたのこと好きになって良かったです」
「何よ急に。そんなの俺も同じですよ」
「ちょっと言いたくなって……はは、同じかぁ、参ったな、いや本当、参っちまうな……」
 ぽろりとほんの一雫、涙が零れた。カカシはぎょっとした顔をして、それから慌てたように指先でそれを拭ってくれる。
「すみません、すぐ感傷的になっちまって」
 悪い癖なんです、と俯けば、カカシの腕が背中へと回る。抱き寄せられ、ぴたりと合わさった肌から感じる彼の鼓動は落ち着いていた。
「そういうところも好きですよ」
 優しい声だ。この声を、ずっと傍で聞いていられたらと思う。忍の世界で永遠なんて望めないのは分かっている。けれど、少しでも長く。そう願わずにいられない。
 誰かの鼓動を聞きながら眠るのは久しぶりだ。背中に添えられた手の温もりに甘えながら、イルカはまどろみの淵にそっと、身を投げた。





End

COMMENT FORM

以下のフォームからコメントを投稿してください