空が一瞬白く光った。
その後に続く轟音に、行きかう人々が腰を屈めて急ぎ走り出すのを眺めながら、カカシは煙草屋の軒先で雨宿りをしていた。
正確には雨宿りではない。人と待ち合わせをしているのだ。
先刻まで上忍待機所に詰めていた自分とは違い、相手は今日休みのはずだ。それなのに、待ち合わせの時間はもうとっくに過ぎている。
いつも時間通りに動く人が珍しいな、と思うと同時に、何かあったのかと心配にもなる。
カカシは下忍の上忍師を請け負ってからというもの、何かとその相手と酒を共にしていた。
気の良い男なのだ。自分より四つも若いにしては、教師という職業柄か落ち着いているし、二つ名の多いカカシを前にしてもへりくだったり媚びてくるようなところが無い。
少し頬骨の張った、目の細い顔立ちは一見堅物に見える。しかし鼻の上を横切る一文字の傷にはどこか愛嬌があり、屈託の無い笑顔も相まって周囲に溌溂とした印象を与えていた。
子供たちの様子が知りたい彼、うみのイルカと、子供の扱いのコツが知りたいカカシとは利害が一致し、もう何度か居酒屋で意見交換会と言う名の飲み会を開いていた。
時に他の上忍師も伴って行われるそれは子供の話そっちのけで仕事の愚痴や同年代ならではの懐かしい話が飛び出すことも多かった。カカシにとっては知らない内容も多いが、イルカが楽しそうに話しているのを見るだけで、そこにいて良かったなと思える場になっていた。
それが、今日は久しぶりに二人きりで飲もうというのだ。
誘ってきたのはイルカだった。
昨日、子供たちを連れて赴いた受付で、報告書を受け取ったイルカにこっそりメモを渡されたときは驚いたものだ。一瞬目を見張ったカカシに、いたずらっぽく微笑んでみせたイルカは大層可愛らしかった。授業で体術でもあったのか、少しほつれた髪が妙に色っぽくて指を伸ばしそうになり、慌てて手を引っ込めたことも記憶に新しい。
そう、カカシはイルカのことが気になっていた。それはもう、恋の相手として。
カカシは恋というものを本の中でしか知らない。女に付き合ってくれと言われてよく分からず応じていたこともあったが、カカシの知らない内に振られていては悪口を巻き散らかされる。それにうんざりして岡場所でばかり遊んでいたら、夜の千人斬りだなんて下らないあだ名までつけられたものだから、最近はそういった場所へ行くのも控えている。
愛読書の中の二人は偶然の出会いから惹かれ合い、どうしようもない思いを抱え障害を乗り越え、ついには熱く結ばれる。その結ばれるシーンが八割を占めるのが見どころなのだが、カカシはその二人の恋を応援する気持ちでいつも紙面へ目を落としていた。
ずっと自分には縁の無いものだと思っていた恋が、掴めるかもしれない。浅はかな願望であることは分かっていたが、いわゆる片想いというものを初めて経験しているカカシは今も覆面の下で心を躍らせていた。
出会った時から何となく気になっていたのだ。自分を真っすぐ見つめてくる黒い瞳。頭の上でぴょこんと跳ねる髪。そしてあの傷ーー。
舐めちゃいたい。
ある夜、二人きりの酒の席で思わずぽろりと零したその言葉に、イルカは大慌てで手をぶんぶんと振っていた。やめてくださいよ、なんて言いながら顔を赤くして、あれもたいがい可愛らしかった。酔っ払いのたわごとだとその場は誤魔化したが、もしかして脈ありなのか、と思うくらいには。
カカシ自身、男と関係したことが無いとは言わないが、女性とのそれと同じように気持ちの伴う行為では無かった。ただ肉欲を満たすだけの、相手からしたら一方的だったかもしれないセックス。
それでもイルカとは、愛情たっぷりのそれがしてみたかった。
今夜は雰囲気の良い料亭を予約してある。普段彼が行かなそうな場所だが、それだけに自分のペースに持って行けばあわよくば良い感じになるのではないだろうか。ただ食事をするだけでも良い。彼が楽しそうにしていれば、つまりは成功なのだ。慌てず、一歩ずつ。そしていつかはーー。カカシはまたにんまりと口を歪める。
ふと、とっくに店じまいしてある煙草屋の、ひさしに掛かった古い時計に目をやれば、カカシが彼を待ち始めて三十分は経とうとしていた。そろそろ店に告げた時間も差し迫り、雨も激しくなる一方だ。
迎えに行ってみようか、と一歩踏み出したその時。雨で白くけぶる道の向こうから誰かが走ってくるのが見えた。
ばしゃばしゃと水を蹴りながら、大股で走るその姿はまぎれもなく、カカシの待ち人。
ああ、恋が走ってきた。
カカシはその姿にしばし、見惚れた。




「す、すみませんっ」
はぁはぁと息を荒げながら膝に手をつくイルカを見下ろしながら、カカシはいえいえ、とことさら優しく聞こえるように声を出した。
「傘も差さずにどうしたんです、何かありましたか」
ポーチから手ぬぐいを出して差し出すと、イルカが申し訳無さそうにそれで顔を拭い、おずおずと身を起こした。
「いえ、完全に寝坊しまして…ちょっとだけ横になったはずだったんですが、気付けば…本当に申し訳ありません!」
また頭を下げようとするのを手で制して、カカシは苦笑してみせた。
軒先で二人して雨宿りというのも中々オツなものだ。
それより何より、カカシにはさっきから気になって仕方のないものがあった。
イルカは休みというだけあって平素の忍服は着ておらず、白いTシャツにハーフパンツというラフな格好だ。そういえば彼に行先を告げていなかったなと、予約先の料亭を思い描きながら、しかしそんなことはどうでも良いと頭を振る。
雨の中走ってきた彼はずぶ濡れで、ということは服もびしょびしょというわけで、ということは肌が透けているというわけで…!
カカシは口布の下できつく唇を噛んだ。そうしていないと変な声が出そうだ。
イルカは手ぬぐいを手に髪や顔を拭っているが、そこじゃあ無いだろうと突っ込んでしまいそうになる。
あなたの、その、真っ白なちょっとくだびれたシャツの、うっすい布が!水を吸って胸に張り付いて…ああ、イルカはなんてひどい男なんだろう。自分にここまで言わせるつもりだろうか。恋に溺れる哀れな男に、あなたの乳首、透けてますよだなんて。
ぷっくりして、男にしては少し大きめの乳首が寒さからかツンと尖って薄い布を押し上げている。
濡れているものだから茶色が濃く映えて、そこだけ見れば果実のようだ。むしゃぶりついてすすれば、甘い汁のひとつでも出るのではないだろうか。少し歯を立ててやってもいい。弾力のある果肉はカカシの歯を押し返して、赤みを帯び更に男を誘うだろう。
そこまで考えて、カカシはぐぅ、と喉を鳴らした。幸いイルカには気づかれなかったようで、必死に言い訳を連ねているのが愛らしい。内容はよく頭に入ってこないけれど。
そう、注目すべきは乳首だけでは無いのだ。
水を含んだシャツは容赦なくイルカの背中や腹筋にも張り付き、そのなめらかな隆起を露わにしている。下は下で、モスグリーンの、これまた少しよれっとしたハーフパンツが形の良い尻に張り付き、ぷるんっと、まるで触って♡とでも言いたそうにきらめいている。更にその下は、青年らしく毛の生えたふくらはぎをハーフパンツの隙間から水滴が伝い、幾重にも滴っているではないか。何か他の物が滴る様を想像しろと言っているようなものだ。他の誰がそう思わなくてもカカシはそう思う。何故なら、イルカに恋をしているからだ。ああ、恋ってなんて素晴らしい。
下手に脱ぐよりよっぽどいやらしい光景を前に、カカシは遠のきそうになる意識を必死に押し留めていた。
「……あの、カカシさん、聞いてました?」
「えっ」
ふいに声をかけられ間抜けな声が出た。
「あ、すみません。ちょっと考え事していて」
「そろそろ時間が無いんじゃないかと思って…予約してくださったって仰ってたでしょう。なのに俺、こんな格好で」
「いいんですよ、慌てて飛び出してきてくれたんでしょう?嬉しかったですよ」
「…そう、ですか」
「ええ」
その格好が見られただけで思い残すことなどありません、と言わなかったのはカカシに理性が残っているからだ。
しかし現実的に、イルカだけでなくカカシもこの激しい雨にあっては服だけでなく髪をも濡らしている。このまま店へ行っては相手にも迷惑だろう。
料亭という言葉は出さずにそう告げると、イルカは申し訳なさそうに身を縮めた。そうすることでまた別の角度から乳首が浮き上がり、カカシは彼を慰めながらそこへ熱い視線を注いだ。
「じゃあ…」
イルカがちら、とカカシを見る。
よからぬ視線を注いでいたのかバレたかとどきりとするが、イルカはそのまま言葉をつづけた。
「よかったら、俺んち来ませんか。その、カカシさんも濡れてらっしゃるし…着替え、俺のでよかったらお貸ししますから。あと、風呂も…すぐ沸かせますし」
その言い方にどこか恥じらいを感じて、カカシは頭に血が上るのを感じた。嘘、今家に来てって言った?いつも道端でバイバイなのに?いや俺はとっくに住所くらい突き止めてるし目瞑ってても行けるけど、直々にお誘い?
頭の中で渦巻く声を口に出さなかったことを褒めてほしい。
カカシは精一杯の人当たりの良い微笑みを浮かべ、ぜひ、と彼に答えた。




「狭いんですけど、どうぞ」
そう言って濡れた靴を脱いだ彼に続いて、カカシも部屋へ上がる。料亭へは道すがら分身を出しキャンセルの連絡を入れてあった。すぐ戻ってきた分身いわく、途中で会ったアスマと紅に予約を譲ってやったとのことだ。却って良いことをしたような気になり、そのままイルカへ伝えるとほっとしたような顔をしていた。
台所と食堂を兼ねた畳敷きの小部屋の奥に、同じく畳敷きの六畳ほどの寝室がひとつ。典型的な公共住宅だ。しかしカカシにとってみれば、そこがイルカの家だというだけでパラダイスに見える。ささくれだった畳も、古いちゃぶ台もすべてが輝いているようだ。
そのきらめきを背負って、イルカがどこかぎこちなくカカシを振り向いた。
「カカシさん、先に風呂使って下さい。今用意しますから」
「いえいえ、イルカ先生こそ先にどうぞ。俺よりよっぽど濡れているじゃないですか」
「いや、俺は…」
顔を逸らしたイルカは、照明からぶら下がる紐に指をかけ、しかしそれを引かずにすっと手を降ろした。明かりの無い部屋は薄暗く、時おり窓の外に閃光がぴかりと光ってはまた消えるの繰り返しだ。
「イルカ先生?」
動きを止めた彼に訝しんで声をかけると、イルカがゆっくりとカカシを見すえた。
「いっしょに、入ります、か」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。血が身体を巡るようにじわりと染み渡ったその言葉に、カカシの口から思わず、え、と短い声が落ちる。するとイルカは途端に暗がりでも分かるほど顔を赤くして、カカシに背を向け走り出した。
「やっぱり嘘です。すみませんっ」
「ま、待って」
狭い部屋なのに、追いつくのにやけに時間がかかった。自分の中で流れる時間と実際の時が違ってしまったみたいだ。
今にも窓から飛び出さんとするイルカの腕を捉え、手近なベッドへ押し倒す。
カカシに両腕を抑えられたイルカが、唇を震わせながら真下から見上げてくる。
「ねぇ、さっきの俺の聞き間違いじゃないよね」
その可能性は大いにあった。ただでさえ頭が湯だったような有り様だ。しかし、このイルカの狼狽ぶりからして幻聴ではなさそうだ。
「わ、忘れてください」
「どうして?」
「だって、俺、あんな恥ずかしいこと…」
とても見ていられない、という様に顔を背けるのが可愛らしくて、カカシは剥き出しの首筋に噛みつきたい欲求を寸でのところで抑えた。
「一緒に風呂に入るのは、恥ずかしいことですか?銭湯と同じようなものじゃないですか」
「広さが違うでしょう!…そうじゃなくて、俺は、俺は…」
言葉を詰まらせるイルカを励ますように乱れた髪をすけば、ごくりと彼の喉が上下したのが見えた。
ぎゅ、と目を瞑ったイルカが、カカシにだけ聞こえるような小さな声をその喉から絞り出す。
「カカシさんを、そういう目で見ている、から」
その時のイルカの表情を、カカシは一生忘れないだろうと思う。目元を赤くして、困ったように眉を寄せて。わななく唇は寒さに色を悪くしていたけれど、それが反対に庇護欲を駆り立てた。
ずくん、とあらぬところへ血が集まるのが分かる。
イルカにもその変化は伝わったようで、ぴったり合わさった腰の下、身をよじろうとするが却ってそれが刺激になってしまう。ふ、とカカシが息を吐いたのに気づいたらしい彼は、動くのを止めてしまった。
その代わり、おずおずと口を開く。
「さっき、外でカカシさんがその…見てた、から…もしかしたら、って思って…お、俺、自意識過剰ですよね」
「そんなこと無いですよ。やっぱりバレてたんですね。俺があなたのおっぱい見てたの」
「お、おっぱいって…」
「これ、でしょ」
身体を浮かせ、二人の間にある尖りをくに、と指で摘まんでやると、イルカがぴくりと反応した。
「あっ…だ、だめです」
まだ濡れたままの衣服の下で、カカシの刺激を受けたそこはいじらしく育っていく。摘まんでは転がし、時おり先端を指の腹で擦ってやれば、イルカの腰がぐりぐりとカカシに押し付けられた。
「気持ち良いんだ?」
「い、言わないで…っ」
「どうして?すごく可愛い、イルカ先生…ねぇ、舐めても良い、かな」
「や、そ、んな」
舐めるね、と言いおいて身体をずらし、口布を下げたカカシはけなげにピンと勃ち上がるそこへ息を吹きかけた。それだけでイルカはびくびくと震え、両手で口を押さえてしまう。
「声、出してもいいのに」
言って、布地ごとじゅう、とそこを吸い上げた。んっと可愛い声が聞こえ、カカシはますます堪らなくなる。小さく、しかしぷるりとした突起へ舌を絡め、周りの柔らかい場所も一緒に口へ含む。柔く歯を立てると、イルカの手がカカシの肩を掴んだ。
殆ど愛撫のようなそれを嬉しく思いながら、反対側の突起へ指を滑らせた。寂しそうにぽつんと佇むそこを慰めるように優しく撫で、きゅっと摘まんでやる。途端に力の入った身体は胸筋すら固く張りつめさせたが、それにより乳首もぎゅうっと張りつめてより触りやすくなった。
片手でくにくにとこね回し、引っ張っては押しつぶす。反対側はたっぷり唾液をまぶして舌で転がし、感触を楽しむように歯で挟んでやった。イルカの口に当てられた手はもう添える役割も果たさず、引っ切り無しに甘い声を漏らしている。
普段の彼は男にしては少し高めのよく通る声をしているが、ベッドではそれがこんなに蕩ける響きを持つとは思わなかった。声を聞いているだけでも達してしまいそうだ。イルカの乳首を嬲りながら、下着の中でカカシのものはますます芯を固くしていた。
彼にしてもそれは同じことのようで、無意識にだろうカカシの腹へ擦り付けられるものは形を変え、男らしい大きさをカカシに主張している。
カカシは名残惜しく糸を引きながらついにイルカの胸から唇を離した。そうして、ずい、と彼に顔を寄せる。動いたはずみに色々なところが擦れ、彼の口からああん、と悩ましい喘ぎが漏れた。
その唇へちゅう、と吸い付くと、イルカが驚いたように目を見開いた後、ぽうっと熱に浮かされたように口を開いた。
吸い寄せられるようにそこへ唇を寄せ、先ほどまで彼の胸を散々ねぶっていた舌をぬるりと差し込んだ。彼の咥内は驚くほど熱く、カカシのものより厚い舌が情熱的に出迎えてくれた。
カカシは夢中になってその柔らかな場所へ食らいつく。途中で額当ても取り去ると、角度を変え唾液が溢れるほど彼の中を貪った。
呼吸の苦しくなったらしいイルカに背中を叩かれやっと口を離した時には、互いに息が上がっていた。
そのまま見つめ合い、またちゅ、と触れるだけの口づけを落とす。
「ねえ、イルカ先生のエッチなところ……もっと見たいな」
我ながら驚くほど甘い声が出た。イルカはもっと驚いたようで、顔を赤くし目を見開いている。
やがて目を伏せた彼がおずおずと「俺も」と言ったのを確かに聞き届け、カカシは濡れたイルカを抱き上げて風呂場へと向かった。




狭い脱衣所で、もつれるように口づけを交わす。
湯船に熱い湯が溜まる音を聞きながら、立ったまま互いの服をまさぐった。
乾き始めているとはいえ、まだしっとりと肌に張り付く服の裾から手を忍ばせる。冷たい皮膚をなぞってやれば、腕の中でイルカがぶるりと震えた。
ん、と鼻から漏れる声が愛らしい。
背中の中央あたりではまだ柔らかい傷跡が手に触れ、彼が教え子を庇って負傷したことを改めて思い出す。俺が傍にいてやれば、とカカシは何度思ったか知れない。その情熱のまま更に身を寄せれば、イルカがもぞもぞと身をよじらせた。
「寒い?」
唇を触れ合わせたままで聞けば、彼は小さく顔を振る。
「そうじゃなく、て……あの、ちょっと擦れちゃって…」
顔を赤くする彼に、ボン!とカカシの頭からも火が出るようだった。まだ身に着けたままのカカシのベストが、彼の敏感な場所へ擦れて感じてしまうというのだ。そう、あの可憐な乳首に!
「あぁ、ごめんね」
カカシは低く、艶があると他人によく言われる声でそう言いながら、イルカの胸元を凝視していた。
そうだよね、俺が散々捏ねて引っ張って舐め回したもんね。敏感にもなるよね。
うんうん、と頷きながらすっと身体を離したカカシに、イルカがぽうっとした視線を向けている。それを感じながら、カカシは腰を屈めべろりと舌を出した。ぬろん、とその先端で彼の胸を突いてやる。
「んっ」
びくりと震えた彼が身を引こうとするが、その後ろは洗濯機だ。行き場を無くしたイルカは、困ったように手をぶらりと脇へ垂らしている。
よく見れば、乾き始めたシャツの中央で、散々カカシに舐め回されたそこだけが濡れて色を変えていた。裸よりずっと恥ずかしい格好をしていることに、彼は気づいているのだろうか。
カカシはあえてそれを指摘せずに、尖らせた舌で彼のささやかな粒を存分につついてやった。もちろん、もう片方を指で弄ってやるのも忘れずに。
「あ、こんなとこ、で……やっ、あ…」
声を潜めてイルカが抗議してくるが、その言葉はもはや睦言のようだった。洗濯機に爪を立てようとしてはつるつると滑らせていた彼の手が、おずおずといった風にカカシの髪へ伸びる。濡れてなお天に向かって跳ねる銀髪を撫で、そのまま弱く頭を抱え込まれた。
その仕草に励まされ、カカシは彼の胸へじゅうっと吸い付いた。口を窄めて吸い上げ、咥内で先端を転がす。反対も指先で同じようにしてやれば、頭に添えられる手に力が入るのがわかった。
傍から見れば間抜けな格好だとは思う。中腰で、男の胸に必死で食らいついているのだ。しかしカカシは心に喜びがみなぎるのを感じた。誰に笑われようと、この特権を譲る気も無ければ彼の痴態を己以外に晒すつもりもない。自分だけの果実だ。どう味わおうと誰にも文句は言わせない。
唯一文句を言う権利のある人物は、カカシの髪を撫でながら感じ入ったように小さな喘ぎを漏らしている。その声をひとつも聞き漏らさず奉仕を続けていると、イルカが髪をつん、と一筋引っ張った。
「カ、カカシさん、風呂、そろそろ…」
お湯が溢れちまう、と遠慮がちに言われ、カカシは名残惜しく思いながら彼の胸元から顔を上げた。
「うん、お風呂入ろっか」
にこりと微笑むと、イルカがぽうっとした顔のまま、小さく頷いた。




服を脱がし合う間もちゅ、ちゅ、と唇を触れ合わせているものだから、イルカの唇は少し腫れぼったくなってしまった。裸に剥いた彼の胸元では二つの粒が赤く色づいて、唾液に濡れている。またむしゃぶりつきたくなるのを堪えながら下着に手をかけると、ぶるんっと勢いよく彼の若い雄が飛び出してきた。
イルカは恥ずかしそうに顔をそらし、それでも着実にカカシの衣服を取り去っていく。
カカシが下着姿になった時、イルカは我慢できないとでも言うように、熱っぽい視線をそこへ向けた。下着の中で斜めに反り返るそれを手のひらで撫でながら見せつけてやると、はぁ、と彼の口からため息が零れる。
「触りたい?」
わざと意地悪く聞けば、イルカがカカシを上目に見たあと、はい、と頭を縦に振る。
遠慮がちな手が伸びてきて、カカシの陰茎をそっとなぞった。途端、ぞくぞくと背筋に走るものがある。自分もはちきれそうなくらい勃起させているくせに、同じ男のペニスに興奮しているのか。彼が男を好む性癖だったとは知らなかった。カカシの知らぬ所で、他の誰かと関係を持っていたのだろうか。嫉妬がちりりと胸を焼いたが、それ以上にイルカへの恋情がカカシを焦がしていた。
初めはおそるおそるカカシに触れていた彼の手は、次第に大胆さを増していく。形を確かめるように手のひらでぎゅうっと握られると、カカシの口からはぁ、と熱い吐息が零れた。
「イルカ先生、脱がしてくれる?」
彼の頬に手を添えながら言えば、イルカは顔を赤くして下着のゴムへ指を引っ掛けた。そして張り出した雄を避けてそうっと足元まで下ろしてくれる。カカシがことさらゆっくり片足ずつ抜くと、イルカは手の中の布をじっと見たあと、他の衣服と同じように洗濯機へ放り込んだ。
互いに一糸まとわぬ姿となり向かい合う。イルカはちら、とカカシの屹立を見て、それからおずおずと顔を上げた。
その仕草にいちいち胸を弾ませながら、カカシもまたイルカの茎を直視できないでいた。今になって急に恥じらいが二人の間に落ちてきたように、互いに顔を見合わせると小さく笑った。

熱いシャワーを頭から浴びながら、正面から抱き合う。
口づけながら素肌をぴったりと合わせ、じわじわと熱を持つ背中から腰へ手を滑らせると、イルカが身をよじらせた。
息継ぎの間にも湯が入り込んで呼吸は苦しいのに、二人とも夢中で舌を絡めている。
性交を模した動きで固く反り返った雄を擦り付け合い、官能を高めていく。イルカもまたカカシの背を撫で、古く小さい傷跡をひとつひとつ探し出しては指先でなぞっていた。
彼の身体が温まった頃、ようやく降り注ぐ湯を止める。びしょ濡れの額を合わせ、同じように濡れそぼった下肢へ手を伸ばした。
「んっ…は……」
さほど身長の変わらない二人だ。こうして抱き合うだけで性器が触れ合い、そこから快感が湧き上がる。
固く熱を持った二本の茎はあれほど湯を浴びていたというのに先端をぬるつかせ、どちらのものともつかない粘液が幹まで伝おうとしていた。
視線を落とせば、色の違う雄が二人の動きに合わせて絡み合う様がいやらしく映った。カカシのものは使い込んでいる割にピンクがかっていて、彼のそれより少し長く、えらが張っている。イルカの雄は真ん中あたりが太く張り出していて、色は彼の肌を少し濃くした程度だ。それが彼の経験の浅さを物語っているようで、カカシはずきんと陰茎が期待に疼くのを感じた。
先走りを塗り込めるように先端を弄っていると、背に回っていたイルカの手がゆっくりと同じ場所へ伸びてきた。彼の両手に茎を二本まとめて握られ、カカシは喉の奥で息を殺す。
厚みのある手の平が、浮き出た血管をなぞるように下から上へと上下する。毒にも薬にもならないその刺激が堪らない。
声の代わりにため息を吐くのはイルカも同じだ。カカシが雁首と茎の間を親指でなぞる動きに感じ入ったように目を潤ませ、しきりに下肢を見つめている。滲んだ涙すら愛しくて眦に唇を寄せ、僅かな雫を吸い取ってやった。
空いた手を腰から脇へ滑らせ、しっとりした肌の下についた筋肉の感触を楽しむ。実用を重視したカカシの肉体とは少し違い、滅多に里の外へ出ることの無い彼にはほどよく脂肪の混ざった、質の良い筋肉がついているようだった。緩く盛り上がった胸筋は力が抜け、カカシの指が僅かに沈むほどの弾力を持っている。その真ん中にピンと勃ち上がっている突起をくにくにと摘まみ、指の腹で押しつぶしてやると、ついに彼の口から短い喘ぎが漏れた。
「あっ…や、カカシ、さん…」
男の象徴を弄っていても漏らさなかった甘い声を聞き、カカシは口角を上げる。このささやかな粒の方がよっぽど感じると言っているようなものだ。
「ここ、気持ち良いんだ、ね」
わざとゆっくり言ってやると、イルカがカカシを見ないまま頭を縦に振った。
うぶで素直な反応に心が沸き立つ。こんなことならもっと早く手を出してしまえばよかった。出来るなら今すぐベッドへ舞い戻って足の先から頭のてっぺんまで舐め尽くしてやりたい。誰かにこんな衝動を覚えるのは初めてのことで、カカシは否が応にも彼を手に入れるべく愛撫をますます執拗にした。
可愛らしい声を漏らす唇を舌で舐め、白い歯をなぞり上顎をからかう。しこった乳首を摘まみ上げ、彼の手が用をなさなくなった陰茎を二本まとめて扱き上げると、イルカが後じさりした。
すぐ後ろにあるタイルに背が当たったのだろう、冷たさにびくりとしてカカシへ胸を突き出す格好になる。それを逃さず、赤みの増した粒の先端へ軽く爪を立ててやると、彼が鋭い悲鳴と共にカカシの腕をきつく掴んだ。
何かを堪えるように眉を寄せるイルカを慰めようと、唇の端へ小さく口づける。
「ねぇ、舐めてあげましょうか」
どこ、とは言わずに手のひらで幹を緩く擦ると、イルカがカカシと壁との間で身をよじらせた。伏せた睫毛にはまばらに水滴がついている。
「だ、だめ、です…俺すぐいっちまう、から…」
「いいじゃない。どんな味か教えてよ」
「そんな…」
イルカはしばらく迷うそぶりを見せ、やがて伏せていた視線をカカシへ向けた。
「お、俺にも、やらせてくれるなら」
躊躇いがちな要求に、カカシは胸を撃ち抜かれたような気分になる。ただでさえ湯気にあてられてのぼせた様なのに、そこへイルカの色気も乗せられては鼻血が出そうだ。何としてもその事態だけは避けたいと、丹田に力を込める。
「本当?嬉しいな…」
精一杯取り繕った声で囁けば、顔を赤らめたイルカがカカシを風呂椅子へ座るよう促し、その前に膝をついた。
カカシは大きく足を開き、その間へイルカを招き入れる。イルカは四つ這いに近い姿勢になって、ちら、とカカシを仰ぎ見た後で反り返る雄へ赤い舌を伸ばした。
ああ、と思う。
快感はもちろんのこと、イルカの舌が触れたところからじわりと何かが身体中に染み渡るようだ。そこでカカシは初めて、好いた相手と身体を触れ合わせるのが、どういうことなのか気付いた。恋など初めて知ったのだ。本でしか知らなかった、気持ちの伴う交わり。互いを良くしようと尽くし、その先にたどり着く忘我の悦び。
イルカは手管に長けているとは言えない。それなのに、ただ舌を絡め、必死で頭を振るその姿を見下ろしているだけで、彼の熱い咥内を感じているだけで、カカシは鼻の奥がツンと痛むのを感じた。気を抜けば泣いてしまいそうだ。
好きだ。
いつの間にか、こんなにも好きになっていた。
顔見知りが飲み仲間になって、友人と呼ぶにはおぼつかないままで、色々なものを飛び越してこうして睦み合っている。
何だか信じられない気持ちで見下ろせば、髪紐がほどけた彼の、長い髪が顔へかかっていた。指先で一筋耳にかけてやると、目を瞑り一心に雄を咥える横顔が表れた。
苦しそうに眉を寄せ、根元へ片手を添えて頬をすぼめている。
「辛くない?無理しないで…」
言いながらその頬をそっと撫でてやると、イルカがようやくそこから口を離した。銀糸が彼の口とカカシの雄とを繋いでいる。イルカはべろりと舌を出してその細い糸を断ち切り、カカシに向かって恥ずかしそうに微笑んで見せた。
「ちっとも、辛くなんてないです……ずっと、こうしたかったから…。そ、それより俺、下手でしょう。カカシさん、よくないんじゃ…」
ないですか、と彼が言うより早く、カカシはその身体を掻き抱いた。力の加減ができず、イルカがぐぅ、と息を詰まらせたのが分かるが、胸がいっぱいでどうしようもない。
どん、と強く背中を叩かれてやっと力を緩め、息苦しさに涙目となった彼の、濡れた唇を奪う。ぬるついた口腔内は苦い味がしたが、そんなことはどうでもよかった。
恋した相手に同じ様に求められて、嬉しくない人間がいるだろうか。
突然行為を中断させられ、無理やり口づけられたイルカは初め戸惑った風に舌を縮こまらせていたけれど、やがてカカシに応えてその熱を絡ませてくれた。カカシの首へ手を回し、頭ごと抱くように、濡れてへたった髪へ指を差し入れてくる。
長い口づけの後、ちゅぽん、と音を立てて顔を離した時には二人とも息が上がっていた。
至近距離で見つめ合う。イルカの瞳はとろりと蕩けたようにカカシを見つめていた。カカシもまた、同じなのだろうと思う。
「イルカ先生、俺、あなたが好きです」
言葉が自然に口をついて出た。
「あなたがそういう目で見てくれていたのは、俺の身体だけ?それとも…」
そこまで言ったとき、イルカが目の前で慌てたように頭を振った。
「ち、違いますっ。そんな、身体だけなんて…。お、俺、も……カカシさんが好き、です」
最後はほとんど囁くような声だった。
二人、どこかぼんやりした目で見つめ合う。どちらからともなく触れるだけの口づけを交わし、そっと肌を寄せた。




どのくらいそうしていただろう。
手のひらで感じるイルカの肌が乾いてきた頃、カカシはやっと腕の中の彼を解放した。
「ごめん、冷えちゃいましたね」
「いえ、カカシさんこそ」
言って俯いたイルカが苦笑してみせる。二人の間にある陰茎は先だっての勢いを失っていたが、まだ芯を持ち頭をもたげていた。
「今度こそ温まりましょっか」
照れたように彼が言うのに、カカシも一も二も無く頷いた。
ずっと床につけていた膝が痛いだろうとカカシが席を譲り、狭い洗い場で彼の後ろにしゃがみこむ。泡立てた手のひらで、時おり性器へいたずらを仕掛けながら彼の身体を隅々まで洗ってやった。泡だらけの髪を流すときに手のひらで目を押さえる彼が少し子供っぽく愛らしくて、その股間にあるものとの対比がひどく卑猥だった。
お返しに、とイルカがカカシの身体を洗う段になると、ますますの自制が必要だった。泡でぬるつく手の平が肌を滑っていく感触に、みっともなく声が出てしまいそうだ。ねだっても性器は洗ってくれなかったから、仕方なく自分で屹立したままのそれを丁寧に洗う。
大胆に洗い流されたカカシが片手で髪をかき上げると、イルカがその様子を興味深そうに覗き込んでいた。
「どうしました?」
「いえ…あの、かっこいいなぁと思って…」
直接的な言葉に、そうですか、としか返せなくなる。とりたてて何とも思っていなかったこの顔を、今日から好きになれそうだ。
イルカこそ。カカシは改めて彼の顔を見つめた。普段隠している額が丸見えになっていて、同じように普段は括られている髪がしどけなく肩へ模様を描く様などは色っぽいの一言に尽きる。
そう思うのが自分だけであれば良いと思う。この姿を目にするのも、自分だけであれば。
湯船にはカカシから先に入った。浴槽の背にもたれて膝を立て、その間にイルカを迎え入れる。失礼します、とやけにゆっくり入ってきたイルカが腰を沈めるにつれ、男二人分の体積に耐え兼ねた湯が溢れて排水溝へ吸い込まれていった。
「ちょっともったいない感じがしますね」
イルカが呟く。その彼が膝を抱え背中を丸めているのを寂しく思い、肩を掴んで無理やりにもたれさせた。
狭い浴槽内で、彼の背とカカシの胸がぴったりと合わさる。濡れた髪を右肩にまとめて流してやれば、色づいたうなじがあらわになった。
両腕を彼の胸に回してうなじへちゅ、と口づけると、イルカがぴくりと肩を揺らした。
唇を首筋から肩へと滑らせながら、彼の身体へ手を這わせる。湯の中で足を擦りつけると、互いの短い脛毛がちりりと絡まった。
質の良い筋肉のついた身体を撫でまわしていると、一方的な行為に焦れたのかイルカの手がカカシの腿へ降りてきた。膝から足の付け根にかけてをそろりと往復され、ぞくぞくとしたものがこみ上げてくる。堪らなくなって彼の中心に手を伸ばした。すっかり元の通り勃ち上がったそれは、ほどよい弾力をカカシの手に伝えてくる。
「ふ、んぅ…」
色っぽい声を出したイルカが、お返しとばかりにカカシのものへ触れてくる。後ろ手にまどろっこしい手つきで撫でさすられ、鼻から長い息が抜けた。
焦らされ続けた身体は、こんな拙い愛撫にすら感じ入ってしまう。それはイルカも同じようで、首だけで振り返った彼の熱っぽい視線に誘われるように、カカシは薄く開いた唇へ吸い付いた。
唾液を交換する音と、湯の跳ねる音。静かで狭い空間に濡れた音ばかりが反響し、世界で二人だけのような心地になる。そんなはずは無いと誰よりも分かっているはずのカカシだが、今だけは彼と二人で閉じこもっていたかった。
口づけの間も手を休めることなく動かしていれば、限界が近いのだろう、彼の雄にびきびきと血管が浮き出てきた。だがこの時間が終わるのが勿体なく思っていたカカシは、動きを止めてしまう。
それを咎めるように唇を甘噛みしたイルカに微笑むことで詫びて、手を彼の双球へと降ろしていく。
「あ、カカ、シ、さん」
二つの球を優しく転がして更に奥へと手を伸ばすと、さすがに察したのかイルカがカカシの手を掴んだ。しかしその力は頼りなく、ほとんど添えられているようなものだ。
了解を得たと判断し、ふっくらした場所を越えて彼の秘密の場所へたどり着く。
座ったままの姿勢では彼の締まった尻肉に挟まれてしまうので、カカシはイルカの片足を抱えると浴槽の縁へふくらはぎを乗せてしまう。
ちょっと、と焦った声が聞こえたが、それは無視した。大きく開いた足の間を正面から見たい気持ちを堪えつつ、再び奥へと指を進ませる。無理な姿勢のせいでイルカは湯船を掴んでいるから、邪魔も入らない。
晒された窄まりを人差し指の腹でぐっと押せば、彼が息を呑む。無理に挿入せずそのまま縁をくるくると撫で、皺をひとつひとつ伸ばすように皮膚を引っ張っていく。
「あっ、や、カカシさん、そんなとこ…」
「本当に嫌?ひくひくしてるみたいだけど」
「い、言わないで…っ」
カカシの肩へ頭を預けたイルカが、きつく目を瞑った。言葉の通り、彼の秘所はカカシを誘うようにひくつき、今にも指を飲み込んでしまいそうだ。
慣れているのだろうか。あんなにうぶな仕草ばかり見せていたのに、この具合の良さはとても初めて身体を開く者のそれには思えない。
途端、胸がかっと灼けるようになって、カカシはずぶりとそこへ指を差し入れた。
「あぁっ」
甲高い声が浴室に響く。イルカははっとしたように口を押さえたけれど、加減せずに指を動かしてやればそれも無駄に終わる。
随分具合の良い穴だと思った。カカシの指をぎゅうぎゅうと包み込み、奥へ奥へと誘うようにうねっている。これまで数人の男と関係を持ったことがあるが、彼らの誰にもこんなことは無かったように思う。
誘われるままに奥へ指を進め、ゆっくり引き抜けばイルカがびくんと身体を跳ねさせた。それが却って刺激となり、大きく喘いだ彼にカカシの指は強く締め付けられる。
「ねぇ、そんなに締めちゃ抜けないよ」
耳元でわざと低い声を出してやると、イルカの身体から力が抜けた。彼がこの声に弱いようなのはこの短い時間で把握している。
「そう、上手…」
ずるる、と抜いて、また押し込む。それを何度か繰り返していると、ああ、と短く高い声がイルカの口から引っ切り無しに漏れた。
「こうされるの、好きなの」
「す、好き、好き…です、あっ…あんっ」
「そう……」
いったん引き抜いた指に中指を添え、彼が息を吸ったタイミングでぐっと押し込んだ。圧迫感からか、う、とイルカは低く呻ったが、浅く抜き差ししながら奥へ進めてやれば、すぐに甘い声をあげるようになった。
腕の中の彼は悩ましく身体をくねらせ、快感に薄く開いた瞳を潤ませている。それに確かに欲情する一方で、カカシの胸は熱く燃え、時に冷えていた。
これが嫉妬というものなのだろうか。今まで他人にぶつけられることはあっても、自ら感じたことの無い感情だ。彼だって大人の男なのだから、これまで誰とどんな関係を結んできたとしてもカカシが口出しできることでは無い。それでも、心が痛い。彼の肌に触れた人間すべてをどうにかしてやりたいと思うくらいには。
「羨ましいな」
言うつもりの無かった言葉がぽつりと零れた。快感に浸る彼には届かないと思ったが、イルカはカカシにもたれたまま、困惑したような目で見上げてくる。
「カカシさん…?」
「ごめんね、つまらないこと言っちゃった」
「なに…あ、あんっ」
聞き募ろうとするイルカを遮るように、彼の中で指を蠢かせる。熱く柔らかい肉に締め付けられ、そこへ自分の雄を埋めることを想像するとずくりと陰茎に痛みを感じた。
注意深く柔肉を探っていくと、ちょうど指をすべて埋めたあたりに感触の違う場所を見つけた。しこりと呼ぶには柔らかく、しかし他の肉壁よりも盛り上がっている。そこをとんとんと指先で叩いてやると、イルカが声を上げ大きく仰け反った。弾みで跳ねた足が浴槽を叩き、どん、と大きな音がする。
「だめ、だめですそこっ…あ、だめだって…っ……あっ、あぁっ」
彼の訴えを無視してしつこくそこを刺激してやれば、耐え兼ねた彼が腰を浮かせ、いきり立った陰茎が湯の表面からぷかりと顔を出した。
「やーらし…」
「い、言わないでっ、あん、や、いく、いきそ…っ」
「お尻だけで?」
カカシの声に彼が慌てたように陰茎へ手を伸ばしたのを、だめだよ、と言葉だけで制する。イルカは意外なほど素直にそれに従い、再び湯船のふちを押さえて身体を支えた。
浮いた陰茎の、鈴口からはとめどなく透明の露が溢れていた。受け止める掌も無いまま、湯の中に沈んでいく。指の動きに合わせてそこはイルカの腹の上でぶるぶると震え、今にもはちきれそうだ。
強い締め付けに逆らうように、中で二本の指をぐにぃ、と開く。指の間に湯を感じると同時に、イルカが悲鳴のような声を出して全身を震わせた。茎の先端からびゅるびゅると飛び出た白濁が湯に落ちる。数度に分けて放出し切った後も、断続的にびく、びくと内部が痙攣していた。
「あ、は、ぁ……」
ゆっくりと身体を弛緩させた彼が湯に沈むのを片手で支えながら、後ろからそっと指を引き抜いた。鼻から抜けるような甘い声を聞きながら、力の抜けた首筋に小さく口づけを落とす。首筋から頬へ、頬からこめかみへ。そして唇にちゅ、と口づけると、イルカが情けないような顔でカカシを見た。
「幻滅したでしょう、俺、こんなで…」
それが一人だけ先に達したことなのか、それとも後ろだけで射精出来てしまう身体のことなのか判じかねたが、カカシは緩く頭を振った。
「そんなこと無いですよ、すごくいやらしくて最高でした。……まぁちょっと、妬いてますけどね」
「やいてるって、何にですか?」
イルカがきょとんとした顔をする。とぼけているようで、それでもカカシはその顔を愛らしく思う自分に苦笑した。
「言わせないでよ……あなたの、前の男にですよ」
「前の男、ですか」
「待って。言わなくていいです。さすがに今は知りたくないんで」
「言うも何も、いませんよ」
「は?」
間抜けな声が出た。イルカは「ですから」と言葉を区切って、カカシに言い聞かせるようにはっきり口を開いた。
「いないんですって。前の男なんて」
「いや、でもあなた慣れてるじゃないですか」
「どこがですか……しゃぶるの、下手くそだったでしょう…」
「あれはあれですごく良かっ…じゃなくて、お尻ですよ。あんなぐずぐずの良い穴初めてですよ!」
「穴って…やめてくださいよ、もう」
「え、でも……本当、ですか」
「はい」
「本当に、俺が初めて?」
「だから、そう言ってるじゃないですか!」
最後は声を荒げて、そっぽを向いてしまう。カカシは慌てて彼を抱きしめ、首筋に顔を埋めた。
「ごめんなさい、怒らせちゃったね。俺すごく嬉しくて…どんなイルカ先生でも好きなことに変わりはないんだけど、初めてなのに、俺に触らせてくれたのが本当にすごく、嬉しい……」
抱きしめる手に力が入る。イルカの手のひらがそこに添えられ、ますます気持ちの高ぶりを抑えられない。
顔を上げれば間近に、照れたような表情のイルカがいた。堪らず唇を吸い、深く舌を絡め合う。上顎をなぞれば、ん、と甘い音が聞こえてきた。じゅるりと唾液を吸い上げて唇を離すと、蕩けた視線に捉えられる。
「カカシさん、笑わずに聞いてくれますか?どうも俺、誤解されているようなので…」
「ええ、ええ。命にかけても笑いません。口も開きません」
「大げさな…あのですね、俺、あのー……ああくそ、こんなこと言うハメになるなんて……」
何やらごちゃごちゃと呟いて一向に話が進まないが、約束した手前カカシはじっとイルカの言葉を待つ。彼はしばし唸ったあと、決意したようにカカシに向き直った。
「俺はですね。カカシさんのことが好きなんです。わかりますね?」
ね?と言われても口を開いてはいけないので、カカシはこくりと頷いて見せた。
「で、ですよ。俺も男です。好きな相手のことを考えると…その…むらむらとですね、してくるわけです」
カカシは大きく頷いた。心なしか自分の鼻息が荒くなっている気がする。
「最初はもちろん前を触るだけで満足できていたんですけど、あなたとよく飲むようになって…昔の彼女の話をほら、アスマさんがしていたことがあったでしょう。それを聞いた日から、あなたがどうやって女性を抱くのかと考えてしまって……その、俺なら、って、俺が相手だったら、って思ったら興味が湧いてしまって……」
それで後ろを弄ってしまったんですね、と言いたい。物凄く言いたい。そして更に恥ずかしがる顔を見たい。しかしカカシは聡い男だ。選りすぐりの忍だ。燃えたぎる気持ちを抑えたまま、頭をぶんぶんと振るに留めた。
しかし。
「一度したら、癖になっちまって、本当お恥ずかしい限りなんですが……でも、さっきみたいな…、あんな風になったのは初めてなんです。自分じゃあんなにはならなくて。それは信じてくれますよね?」
「信じますとも」
カカシは弱い男だった。恥ずかしそうに、あなたの指だからイっちゃったの、なんて言われて黙っていられるほど強い男では無かったのだ。
ざぶんと音を立てて立ち上がる。長時間湯に浸かっていた肌はほとんど真っ赤になっていたけれど、そんなことには構わず仁王立ちでイルカを見下ろした。
イルカは眼前にある屹立したカカシの雄と頭上の顔とを交互に見ながら、湯船の中でじりじりと後ずさった。しかしすぐさま行き止まりになる。
「イルカ先生」
「はっ、はい」
「俺はまだイッていません。わかりますね」
「わ、わかりません」
「これからあなたを抱きます。いいですね」
「……はい」
額に汗を浮かべたイルカが、消えそうな声で答えると同時にカカシは彼を肩に担ぎ上げ、よどみない動きで寝室へと向かった。手には一枚、白いタオルを携えて。




明かりをつけるのを嫌がるイルカに、せめてとねだって灯した豆電球の柔らかい光が部屋を照らしていた。
窓の外からは変わらず激しい雨音が聞こえてくる。水たまりを誰かが踏む音をどこか遠くに聞きながら二人、狭いベッドを軋ませていた。
「あ……は、ぁ……」
手の甲を額に当てて、イルカが悩ましい吐息を吐く。大きく開いた足の間に陣取ったカカシは、二本の指で存分に彼の中を味わっていた。
粘度の高いローション。使いかけのコンドーム。彼の日常に潜んでいた小さな秘密がシーツの上に散らばっている。
膝の内側に口づければ、イルカが「んっ」と声を上げて腿を震わせる。同時に孔がきゅっと指を締め付けて、カカシは喉を震わせた。
「痛くない?」
イルカが小さく頷く。彼の陰茎は再び勃起し、丸みを帯びた先端から透き通った粘液をひっきりなしに溢れさせていた。カカシも似たようなものだ。イルカと違って一度も達していないから、中に入れた途端に弾けてしまいそうですらある。
淡いオレンジ色の光に照らされた身体は汗に濡れ、カカシが散々舐めた胸の粒はてらてらと光っている。きつく目を瞑った彼が息を吐く度にその胸が上下して、またカカシを堪らない気持ちにさせた。
シーツはぐっしょりと濡れている。ただでさえ雨に濡れた服で転がっていたのに、ろくに身体も拭かず風呂場からなだれ込んだのだから仕方のないことだった。
イルカが風邪をひかないかだけが心配だが、いざとなれば影分身でもなんでも使って彼の業務をカバーしようと思った。もう待てないのだ。一分たりとも。
「あっ、あぁ…ん…っ」
指を増やすと、イルカの声がさらに艶めいた。彼の孔はもうすっかりほぐれてよく伸び、そこが排泄孔であることなど忘れたようにカカシの指を奥へと誘った。
「ねぇ、イルカ先生、もう良い?」
我ながら情けない声だった。こんな切羽詰まった台詞を誰かに聞かれたら笑われるだけでは済まなそうなほど。
イルカはその声にやっと目を開けて、表情を隠していた手をカカシへと伸ばした。
「良い、です」
困ったように眉を寄せているくせに、口元は微笑んでいる。カカシはいよいよ堪えがきかない。封を切った避妊具を素早く己に被せ、その上からたっぷりとローションを垂らして塗り付けた。
指を引き抜かれ、僅かに口を開いてひくつく窄まりへ切っ先を押し付ける。慣らすように二、三度ぐりぐりと孔をからかってやると、咎めるようにイルカの両膝がカカシの腰を挟んだ。
カカシはそれをくすぐったく思いながら彼の足の付け根をそっと撫で、官能を誘う動きで腿の裏側をなぞり上げた。膝をぐっと折り、剥き出しの場所へ体重をかけて己を埋めていく。
「ああ、う…ぐ……あ、あぁ…っ」
彼のそこは温かくて狭く、経験が無いという言葉の通りに最初、カカシを拒んだ。しかしぬぷりと先端が入った時には肉壁の抵抗を感じたものの、張り出した場所を呑み込んでしまってからは蛇のようにうねってカカシを締め付けた。
「はぁ…っ、イルカ先生の中、すごく気持ち良い…」
半分収めた状態で動きを止めたカカシは、両手を彼の脇についてその姿を見下ろした。イルカはお世辞にも楽とは言えない顔をしていたけれど、カカシと目が合うとまた困ったような笑みを見せてくれた。
きついだろうに、カカシを気遣うように笑う彼に、胸の深いところが締め付けられる。顔を寄せ、開いた唇へ吸い付いた。弾みで挿入が深くなりイルカが呻いたけれど、止められなかった。
口の端から零れた唾液を舌ですくい、そのまま咥内へ戻すように口づける。厚みのある舌を舐め回し、先端同士をちろちろと触れ合わせると、彼の中がきゅんきゅんとカカシを小刻みに締め付けた。
濡れた瞳を見つめながら、肉と肉とを擦り合わせるように緩く腰を動かし始める。下半身からぐちゅぐちゅとローションの混ざる音が聞こえて、その音にイルカが恥ずかしがるように目を閉じてしまった。眦から一筋涙が零れ、こめかみへ落ちていく。
口づけを解いてその雫を舐め取り、頬へちゅう、と口づけた。そのまま舌を伸ばして、顔を横切る傷を右から左へ辿っていく。ずっとこうしたいと思っていた。彼を彩る傷は僅かな凹凸をカカシの舌へ伝え、唾液にきらりと光った。
涙と汗で塩辛い彼の肌を堪能していると、薄く目を開いたイルカが首を伸ばし、カカシの頬へ尖らせた唇を押し当ててきた。
幸せすぎて怖いくらいだ。これこそがセックスだと言うなら、自分が今までしてきた交わりは一体何だったのだろう。
カカシは彼と同じように微笑んでみせたかったが、気を抜くと泣いてしまいそうで、それを誤魔化すために目の前の肩に顔を埋めた。息を吸い込めば、彼の匂いで満たされる。ただの、男の汗の匂いだ。それなのにどうしてこうもカカシの胸を掴み、頭の芯まで痺れさせてしまうのだろう。
胸から腰までをほとんど密着させるようにして、ゆっくりと陰茎を抜き差しする。カカシの動きに合わせて、あ、あ、とイルカが甘く喘いだ。
薄い膜越しにも彼の熱さが伝わり、感傷とは別のところで原始的な欲求が勢力を広げてくる。
カカシは次第に腰の動きを早くし、ぎりぎりまで引き抜いては肉を割って奥まで己を突き刺した。
「あっ、あんっ、そ、そんな」
イルカの手がカカシの背に回り、短い爪が食い込んだ。痛みにもならないそれに興奮を誘われ、カカシの動きは更に大胆なものになる。パンパンと肌と肌がぶつかる音が響き、カカシに押される形でイルカの腰が浮き上がった。
「あぁっ」
ひと際高い声をあげて、イルカが身体を震わせた。角度が変わったことで、内部の敏感な場所へカカシのものが当たったらしい。
カカシは鼻息も荒く身体を起こすと、イルカの膝を肩に担ぎ上げた。
「ひっ」
一点を狙って浅く短いテンポで陰茎を撃ち込んでいくと、イルカが両手でシーツを握りしめのけぞった。喉仏がくっきりと浮かび上がり、そこへ噛みついてしまいたくなる。
カカシは咥内に溜まった唾液を嚥下して、同じリズムで腰を動かした。
「ああ、あぁ、だ、だめ、でる、でるっ」
「出して、ちゃんと見たい」
「や、やだ……っ、いく、いっちゃう…っ」
ぱたぱた、と少量の精液が、イルカの鈴口から腹へ飛び散った。二度目にしては量の少ないそれを手のひらで彼の腹筋へ塗り込めながら、断続的な締め付けに引きずられないように下腹へ力を入れた。
イルカは大きく胸を上下させながら、びくびくと腿を震わせている。焦点の合わない目から涙を零す様を見ながら、カカシは一段と深く腰を打ち付けた。
「あんっ」
大げさなくらい身体を震わせたイルカが、驚いたようにカカシへ手を伸ばすがそれは肌の上を滑るだけに終わる。カカシは彼の片足だけを高く掲げて、より深くへと身を進めていった。
「カカシ、さん、おれいったばっか、だから…あ、や、だめ、あぁっ」
「ごめん、イルカ先生がえっちすぎて俺もう無理」
「そ、そんなの知らな…あ、あぁっ、ン」
散々痴態を見せつけられて、カカシはもう限界が近かった。この恐ろしく具合の良い孔に己を刻み付け、奥深くに精を吐き出してやりたかった。
ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立て、イルカの蜜孔がカカシの雄を扱きたてる。先端ぎりぎりまで引き抜いて突き入れれば、カリ首をにゅぽんと肉の輪に包まれて最高に気持ちが良かった。
カカシは初めて女を知った時にもこれほどでは無かったとどこか遠くで思いながら、夢中で腰を振り、果てを追いかけた。
そうして幾度目かの抽挿を経て、下生えをイルカの会陰に押し付けながらカカシは達した。被膜越しに彼の腸壁へ精を注ぎ込む。あまりの良さに、頭がくらくらとして、彼の足を抱いたまましばらく目を瞑っていた。
そうして瞼を持ち上げたカカシは、気を失ってくたりとしたイルカと、彼の腹からシーツへ零れ落ちるおびただしい量の奔流に目を見開く羽目になった。




まさか潮まで吹くとは思わなかった。
無色透明のそれを指先で掬い取り口元へ運ぶ。すん、と嗅ぐが匂いは無い。舌で舐めても味は無く、彼が女性のように極まったのだと知る。
己の内にあったらしい征服欲が確かに満たされるのを感じ、カカシは口角が上がるのを抑えられなかった。
力を失ったイルカの中から陰茎をずるりと抜き出し、先端にたっぷりと白濁を溜めたスキンを外す。それを逆さにし、彼の腹の上に粘り気のある液体がぼとり、ぼとりと落ちるのをじっと見つめた。
きれいに割れた腹筋の上で、イルカの出したものとカカシの精液とが混ざりあう。カカシは手のひらでそれを広げ、彼の肌に塗りこめていった。まるで犬のようだな、と思う。獲物にマーキングせずにはいられない気持ちが初めて分かった気がした。
ぬるついた指先で胸の芯を摘まむと、柔らかくなっていたそこはすぐに硬さを取り戻す。それでも意識を取り戻すそぶりもなく身じろぎもしないイルカを見下ろしながら、粒の先端をこりこりと掻いてやった。弾力のある実は散々弄られぷくりと膨らんでいる。イルカが起きていたらどんなにか色っぽい声で鳴いただろう。
二人分の汗と、精液の匂い。
濃厚な香りを胸いっぱいに吸い込んで、カカシは萎れたイルカの陰茎にも手を伸ばす。くにくにと弄ってやっても柔らかいままのそこへ、顔を寄せた。先端にちゅうと口づけて、唇で扱きながら尿道に残ったものを吸いだしてやる。さすがにぴくりと筋肉が震えたが、覚醒するには至らなかった。
彼の残滓を舌で味わいながら、根元からじゅぶりと舐めて萎えたその形を確かめる。これがいつも彼の下履きの中に納まっているのかと思うと、固さを保ったままの己のものが大きさを増すのを感じた。
未練を残しながら顔を上げ、開いたままだった彼の足をぴたりと揃える。
規則正しい呼吸を示す身体をまたいで、カカシは膝立ちになった。イルカの顎先に、カカシの雄が当たるほどの距離だ。その構図だけでひどく興奮し、いきり立った先端につぷりと透明の粒が浮いた。
だらりと垂れさがったイルカの右手を取って、汗で湿った手のひらにカカシの陰茎を握らせる。大きくて肉の厚い、男の手。その上から自分の手を添えて上下に動かすと、もどかしい刺激にカカシは短く息を吐いた。
脱衣所で、イルカが物欲しそうにこれを見ていたことを思い出す。あの、いやらしい瞳。普段は太陽の下で子供たちにげんこつを落としているような人が、男の性器に発情する様の卑猥なこと。
次は存分に舐めさせてやろうと思う。彼が嫌だと言っても、喉の奥まで突っ込んで味わってもらおう。最中の様子から察するに、被虐の気のある彼のことだ、きっと気に入ってくれるはず。
イルカの手から覗く己の先端めがけて、つぅっと唾を垂らした。ぬめりを得て、手の動きがスムーズになる。もどかしいのも堪らなく良かったけれど、思う存分腰を振って彼の手を犯すのもまた、脳天に響くような良さがある。
は、は、と熱っぽい息を吐きながら、カカシは夢中で腰を振った。安らかな顔で寝ているイルカの口は、半分開いている。そこから見え隠れする赤い舌目掛けて、ひと際強く腰を打ち付けた。それと同時にぎゅうっとイルカの手に力を入れ、限界まで張りつめた雄茎を強く握らせる。先端からびゅ、びゅっと勢いよく飛び散ったスペルマが、何も知らない彼の口から鼻、そして髪まで汚していった。
カカシはイルカの手を使って残滓まで彼の唇へ擦り付けて、口内に精を受けたその喉がこくりと上下するのを確かに見届けた。


◇◇◇


頬を撫でられている気がして、ふいに意識がすくい上げられた。
「あ、れ……っ、う」
声を出した拍子に、喉に何かが張り付いた感覚がしてむせてしまう。ごほごほと咳をするイルカの背を、撫でる手があった。
「大丈夫?」
心配そうな声に顔を上げると、素顔のままのカカシが肘を立て、イルカを覗き込んでいる。
「すみません、平気です」
言いながら、はっきりしない頭で状況を確認するため視線を巡らせた。ベッドに居たはずの身体は床に敷かれた布団へ収まっていて、共に寝そべるカカシも自分も全裸のままだ。肌がべとつく感じは無く何だかすっきりとしているから、彼がすべて始末をしてくれたらしかった。
礼を言うと、とんでもない、とカカシが笑みを返してくれた。情けないことに失神してしまった男一人、運ぶのは楽では無かったはずだ。
「勝手に布団出しちゃってごめんね。マットレスまで濡れていたから」
明日晴れると良いんだけどねぇ、なんて言いながらカカシの指がイルカの髪へ絡められた。耳を澄ませば、まだ雨の音が聞こえてくる。いったい何時なのだろう、と見た時計の針はもう夜半を差そうとしていた。
「俺、ずいぶん寝ちゃってたんじゃないですか」
「そうかな?ずっと寝顔見てたから、気にならなかったけど」
当たり前のようにカカシが言う。その言葉が裸でいることよりずっと恥ずかしい気がして、イルカは頬に血が上るのを感じた。
初めて他人と肌を合わせたのに、わけも分からず感じまくってしまった気がする。挙句の果てに気をやってしまうなんて我ながら情けない。
呆れられても良いと思うのに、カカシはそんな自分の世話をして、なおかつ寝顔を眺めていたなんて言葉をかけてくれる。一方的に焦がれていたはずが、こんなことになるなんて数時間前には思いもしなかった。
そもそも今日は久しぶりに二人きりで会えることになって、勝手に舞い上がっていたのだ。最近は数人で卓を囲むことが多かったから、イルカからの軽い誘いに、彼がわざわざ店を予約してまで時間を作ってくれたのが嬉しくてたまらなかった。
しかしいつの間にか募らせた片想いは肉欲を伴うようになっていて、それを彼に気取らせるわけにはいかなかった。明るいうちに一人で処理をしていたのだが、まさかそのまま寝てしまうとは自分にほとほと呆れてしまう。けれど、そのおかげで今この状況になっているのも事実だった。
どこか夢を見ているような気持ちで、カカシの整った顔面を見つめる。ん?と柔らかく微笑む様までもが絵になっていて、こんな色男が自分と同衾していて良いものだろうかと思ってしまう。こんな、ごつい身体をした普通の中忍と。
それでも。
もう、この気持ちを、この恋を手放すことはできない。
「カカシさん」
「なあに」
「俺、あなたのことが好きです」
カカシが唯一開いた片目を見張った、ように見えた。そうしてふっと笑みを崩して、イルカの頬へ手のひらが添えられる。目を覚ますときに感じたのと同じ、暖かな感触だった。
ふふ、と彼が喉を震わせる。「さっきも言ってくれたのに」そう嬉しそうに言いながら、イルカを真っすぐ見つめた。
「何度聞いても良いものですね。俺も、イルカ先生が好きですよ」
低く、耳の底を指先でなぞるような声。カカシの口から紡がれたその言葉に、イルカは彼の手にそっと、自分の手のひらを重ねた。
「信じてもらえるかわかりませんが、こんなつもりじゃなかったんです……その、身体から先に重ねてしまう、なんて。俺、初めてだったし」
「それを言うなら俺こそ、段階を踏めたら良かったんだけどね。あなたがあんまり可愛かったから、つい先走っちゃって」
身体、つらくない?なんて言いながら、カカシがイルカの下肢へその長い足を絡ませてくる。生々しさにびくりと震えたイルカは、小さく首を振った。
「ねぇ、イルカ先生」
俯いたイルカの、耳元に囁きが落ちた。
「俺と、付き合ってくれますか」
肌が粟立つ。耳まで赤くする様をつぶさに見られているのが分かったけれど、とても顔を上げられなかった。
イルカはやっとの思いで「はい」と短く答え、それと同時に強く抱き寄せられた。
鍛え上げられた身体に包まれ、まだ熱の残る肌が密着する。奥深くからちりちりと情欲が湧いてきて、イルカは吐息と共に彼の背へと腕を回した。
雨が窓を叩く。とても明日は晴れると思えなかったけれど、夜が明けるまで二人、シーツを濡らしていよう。初めての恋が、手の内から零れてしまわないように。










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