はあ、と熱っぽい吐息が口から漏れた。
ひく、ひくと揺れる腰は汗で湿っている。
うつぶせで頬を枕へ押し付けたまま、イルカは霞む目をしばたかせた。
時刻は夜中の二時。隣の布団は空っぽだ。もうひと月、そこが埋まったことは無い。
里長を引退した日に結婚を申し込んできた彼――六代目火影、はたけカカシに、まだ待ってくれと言って二年。自身が校長へ就任し、さらにそこから一年経ったところでようやくその申し出を受け入れることができた。
二人で何度も話し合い、姓を変えることはせず、同居を選んだ。
これでようやくイルカ先生とゆっくりできる、と彼が笑っていたのはいつだったか。
最初こそ縁側で日向ぼっこを楽しんでいたカカシだったが、季節が一巡りした今となっては三日と続けて家に留まってはいない。
七代目からの相談を受けたり、不穏分子への対応をしたりとあちこち動き回っているのだ。根っからの忍びであるカカシにとって、ゆっくりするというのは一番難しい任務かもしれない。
教え子たちに手伝ってもらいながら二人分の荷物を運びこんだ平屋はそう広くもないはずだが、一人で過ごすには少し、寒々しい。
これなら互いの家を行き来していた若い頃の方がまだ顔を見られていたな、とイルカは布団の中で苦笑した。
齢四十。彼はその四つ上だ。
大恋愛、だとイルカは思っている。それを乗り越え、一緒になれたのだ。これ以上、望むことは無い。
今も衰えを知らないカカシは共に夜を過ごせば積極的に求めて来てくれるし、背中がかゆくなるような愛の言葉も口にしてくれる。
それなのに、まだ何か足りないなどと言ったら罰が当たりそうだ。
緊張の残る身体からふっと力が抜けていく。イルカはくたりと布団へ寝そべり、濡れた指を枕もとのタオルで拭った。
***
低い生垣の向こうに自宅を見て、カカシは知らず細い息を吐いた。
窓ガラスの向こうは暗い。
日付が変わる前とはいえ、深夜に近い時間だ。同居人はとっくに眠りについているはずで、起こさないよう慎重に鍵を差し込む。
ひと月と少しぶりに帰宅した自宅は、まだ少し慣れない匂いがした。
そうっと引き戸を開け隙間に身体を滑り込ませると、奥の部屋で人の動く気配がした。そうして、カカシが脚絆を解く前に廊下の向こうからぱたぱたとスリッパの音がやって来る。
「おかえりなさい、カカシさん」
「ごめーんね。起こしちゃった」
上目に肩を竦めると、暖かそうな毛糸のカーディガンを肩に引っかけた同居人、うみのイルカが小さな笑みを返してくれた。彼が着ているチェックの寝間着は揃いで買ったもので、淡いブルーの色味が今夜もよく似合っている。
「いいえ、何だか眠れなくて……。それより、お疲れでしょう。早く上がって下さい。食事はされましたか? 風呂も暖め直しますね」
「先生は何もしなくて良いよ。腹は減ってないし、風呂も自分でしますから」
「でも……」
「俺もいい年したおじさんだから、大丈夫。ね?」
俯き加減のイルカの頬に、髪が流れた。
普段は頭のてっぺんで束ねている髪が肩まで落ちている姿にぐっとくる。
年を重ね、イルカはますます魅力的になっていた。若い頃のようながむしゃらさは成りを潜めているが、その分落ち着きと寛容さが前面に出て、実際の年齢よりも上に見られることもあるらしい。その彼がたまに見せる無邪気な一面に若い教師が視線を奪われているのを、一度や二度でなく見てきた。
校長などという立場についてからは一層顕著だ。彼をその場所に押し上げる一助を担ったのはまぎれもなくカカシなのだが、あまりに目立つのも考えものだと思わないでもない。
久しぶりに会った伴侶に見惚れていたカカシは、じろじろ見過ぎても不審かと脱ぎ終えたサンダルを揃えて自宅へ上がった。
口布を下ろすと、冷えた空気を頬に感じる。スリッパを履くイルカの足が素足なのが心配だ。氷の上だろうが裸足にサンダルでいるのが木の葉の忍びとはいえ、何だかイルカにはぬくぬくとしていて欲しい。
足元から背中までを視線で撫で上げる。肩にかかる髪を見たところで急に我慢できなくなって、先導して居間のガラス戸に手をかけたイルカの腕を掴み、振り向いた拍子に唇へちゅ、と口づけた。
結婚を申し込み、やっとのことで一緒になるのを了解してくれただけでもこれ以上ないほど幸せだと思っていたが、こうして遅く帰宅した身を出迎えてくれるなど、幸せすぎておかしくなりそうだ。
久しぶりのキスに彼は一瞬目を見張っていたが、すぐに照れたように「もう」とカカシの腕を小突いてきた。
そんな甘いやりとりに、溜まった疲れが吹っ飛ぶ。
居間はしんと冷えていて、イルカが早い時間に床についていたことを伺わせた。それにしては寝ぼけ眼でなかったが、横になって本でも読んでいたのだろう。
小難しい仕事は一区切りついて、しばらくは落ち着くことができそうだ。明日の夜はたっぷり甘やかしてもらおうとほくそ笑み、順に装備を解いていく。
お茶だけでも、とイルカが淹れてくれた熱い茶を口に含むと、じわりと身体が温もった。
「じゃあ、お言葉に甘えて俺はこれで」
「うん、風呂使ったら俺も寝ますね。イルカ先生明日も早いでしょ? こっちは休みだから、家の事全部任せてね」
「休み、なんですか? そうなんだ……良かったです。じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみ」
がらりと擦りガラスの戸が閉まる。ぱたぱたと廊下を進む足音が消えるまで待って、カカシは残りの茶を飲み干した。
寒い季節とはいえ、実は数日風呂に入っていない。体臭には人一倍気を遣っているつもりだが、イルカには気付かれなかっただろうか。
さっさと済ませてイルカの寝顔を見にいこうと、カカシは脱衣所へと向かった。
***
そっと、襖を開ける。
六畳間に二組並んで敷かれた布団は、一つだけ膨らんでいた。
この家に越してきて一年が経とうとしているが、寝室にはまだ新しい畳の匂いがする。久しぶりに足を踏み入れたからそう思うのだろうか。
イルカを起こさないよう足音を消して枕もとまで進む。ふと見れば、本や雑誌の類は置かれていなかった。ふうん、と思いながら顔を覗き込めば、ぱちりと開いた瞳とかち合った。
「なんだ、起きてたの」
静かに言うと、イルカが目を細めた。
「せっかくカカシさんが帰ってきたのに、寝るなんて勿体なくて」
「なにそれ。期待しちゃうな」
冗談のつもりで言いながら布団に潜る。ふわふわとしたそこからは、太陽の匂いがした。いつ帰るかわからないカカシのために、布団の手入れをしてくれていたのだ。胸がじんとする。
ありがとう、と言おうとして、カカシは自分の手に暖かいものが触れるのに気付いた。
イルカの指だ。
「……その期待、俺もしちゃって良いんでしょうか」
少し掠れた声が、吐息と共に耳へ届いた。
イルカの指先から発せられた熱が、じわじわとカカシを侵していく。
「え? え、そんなの、良いに決まってるじゃない」
しどろもどろになりながらようやく返事をする。どちらかというと奥手なはずのイルカの、思いがけない誘いにカカシは彼の指をぎゅうと握り返した。
よかった、と言ってイルカが恥ずかしそうに笑う。
その笑みに吸い寄せられるように、カカシは隣の布団へ身を移した。
***
「身体、熱いね」
耳元で囁かれ、イルカは肩を竦めた。
互いに寝間着の前をはだけ、もつれるようにして口づけを交わした後のことだ。
「あなたこそ……」
言って、イルカは手のひらを彼の背に回した。シャツの裾から潜り込ませた手で引き締まった肉体を撫で上げる。年を重ねても一切の贅肉の付かない見事な身体。少し、ほんの少しだが緩んできた自分との違いに思わず息が漏れる。
「あ……」
耳朶を食んだカカシが、唇を首筋へと滑らせた。官能の予感にぞくりと震えが走る。
この男の帰りを待って、何度となく一人慰めた身体が喜びに湧いているのが分かった。
布団が大きく膨らむ。中に潜ったカカシがイルカの衣服を脱がしにかかっていた。照れくささを堪えながら協力し、自ら寝間着を脱ぎ捨てる。
下着をどうするか一瞬悩んだけれど、後始末を考えて腰を浮かせた。思いを汲み取ったように、カカシがゴムに指をかけてするすると脱がしてくれた。
むわりと熱気の籠った布団の中、イルカだけが全裸だ。
恥ずかしい、という思いと、この状況に対する被虐的な喜びとがせめぎ合う。
脱がせたきり触れてこないカカシに焦れて髪を撫でれば、くく、という小さな笑い声と共に彼が顔を出した。
乱れた髪を片手で掻き分け、イルカの顔の横に彼が手を置く。
「興奮しちゃった?」
目を細め、口の端を上げる彼から視線を逸らす。普段の飄々とした姿からは想像もつかないようないやらしい笑い方に、身体の芯がじんと疼いた。
「言わなくても、分かるでしょうが」
布団の中、イルカの雄は姿を変え始めている。
自分ばかり昂っているのが恥ずかしくて尖らせた唇の、先端をカカシにちゅうと吸われる。
「どうしていくつになっても可愛らしいんだろうね、イルカ先生は」
「どうしていつまでも先生って呼ぶんですかね、六代目は」
「おっ、嬉しいね。そういうプレイする?」
「しませんよ」
「ざーんねん」
カカシが火影在任中に一度だけ執務室で盛り上がったことがある。互いに正装で先生、六代目、と呼び合うあれは大層燃えたが、今夜は気分じゃなかった。
布団の中で交わす冗談は何だか甘い。
イルカはふふ、と小さく笑うと、目の前の白い頬を両手で包んだ。引き寄せ、薄い唇へ口づける。
剃らなかったのか、生えかけた髭が顎にじょりじょりと当たる。イルカは昔の癖で就寝前と起床後の二度手入れをするが、カカシはあまり頓着しないらしい。覆面忍者はそういうものだろうか。
頬を撫で、顎を親指ですりすりと擦る。口づけたまま、カカシが笑ったのが分かった。
彼の足がイルカの膝を割る。左右に大きく開き、その間に彼の身体を迎え入れれば、兆した局部を自然とカカシに擦り付ける格好になった。
先端から滲み出ているだろう先走りで彼の服を汚してはいけないと、片手を伸ばして自分の雄を握り込む。案の定、手のひらがくちゅりと濡れた。
じん、と走る性感に、目尻へ涙が浮かぶ。薄く開いた瞼の間、濃灰色の瞳が自分を見つめているのを知った。こんな緩んだ顔を見られるなんて恥ずかしいのに、見られていると思うとますます興奮が高まっていく。
カカシがもぞもぞと動くものだから、浮き上がった布団の隙間から冷たい風が入り込む。剥き出しの肌に当たる冷気が段々と心地よいものに変わっていくのを、イルカは知っていた。
口の中で舌を擦り合わせ、混ざり合った唾液を飲み込む。カカシがぐ、ぐ、と腰を押し付けてくるから、はしたなく開いた股の奥、人に言えない場所がじくじくと疼いた。
早く触って欲しいと思う一方で、それを強請ることにためらいがある。
イルカはカカシの肩をぐ、と手の平で押した。片眉を上げた彼が、イルカの狙い通り背を支え、ぐるりと上下を入れ替えてくれる。乱れた布団がずり落ちてしまいそうだが、もう寒さなんて気にしていられない。
カカシに跨り、至近距離で鼻と鼻とを擦り合わせる。
「舐めてもいいですか……?」
小声で聞きながら彼の股間へ尻を押し付ける。
カカシは唇の間から熱っぽい吐息を漏らし、イルカの髪を片手で梳いた。
「じゃあ、俺も舐めてあげたいな。一緒に」
色男が間近で囁く。カカシのものを舐めている間に自分で後ろを解してしまおうと思っていたのに、これでは逆効果だ。
しかし、イルカはカカシのおねだりに滅法弱かった。だめ、と一言言えば彼は引いただろうが、拒み切れずにこくりと頷く。
交互の姿勢は何度となく経験した体位だが、慣れることは無い。
イルカは恥ずかしさと、少しのいたたまれなさを抱えながらカカシの上から一度降り、彼の顔へ尻を向ける形でまたその身体に跨った。
「ふふ、いい眺め」
「余計なこと言わんで下さい」
精いっぱいの強がりは、掠れた笑い声にかわされた。
青年期に比べ丸みの出てきた尻たぶにカカシの手がかかる。数度肌を撫でたあと、左右にぐいと割り開かれ、イルカの口から短い声が漏れた。
薄明りしか灯していないとはいえ、カカシからはすべて見えるはずだ。
長年の行為で熟れたイルカの窄まりは形を変え、縦に割れたその縁はふっくらと盛り上がっている。しかも、今夜は――
「ああ、やっぱり」
カカシの下着を脱がしにかかっていたイルカの耳に、妙に浮かれた彼の声が届く。
思わず力の入ったその場所を、カカシの指が縦にそろりとなぞった。
「せんせ、お楽しみだったの」
濡れてる、とカカシが窄まりから垂れた粘液を会陰へ擦り付ける。
「あっ」
立派な性感帯である会陰への刺激に腰が揺れる。
ひくつく孔から潤滑剤がこぷりと零れるのが自分でも分かった。隠しておきたかったのに、無駄なあがきすらさせてもらえない。
「ご、めんなさ……」
「謝ることないでしょ。悪いのは俺なんだから、寂しい思いさせたこっちが謝らなきゃ」
「そんな、カカシさんは悪くなんて」
心苦しさにカカシを振り返る。
ちら、と視線が合うと、カカシはその切れ長の目を細めて指を上下に動かした。
「あ、あ……っ」
「いーや、俺が悪いの。こんなやらしい身体、ほっとかれて平気なわけ無いのにねぇ」
「ちょ、ちょっと待って……あっ、んんっ」
会陰を擽っていた指が、ずぶりと孔に挿入された。
中指だろうそれは、肉の感触を楽しむように襞を撫でながら奥まで侵入してくる。
ほんの一時前まで一人で楽しんでいた孔は喜んでカカシを迎え入れ、きゅうきゅうと締め付けてさえいた。
「やっ、あ、あ、そんな、急に……」
「あー、暖かいなイルカ先生の中は。ねぇ、ぬるっぬるなんだけど。どんだけ一人で遊んでたの」
「ばかっ」
ほんの少し指で弄っていただけなのに、と堪らず顔を伏せた先で、膨らんだカカシの股間に頬が触れた。
「は……」
布越しにもわかる、ごりごりとした固い感触に思わず吐息が漏れる。
年を重ねてもなお勢いの衰えない雄軸を手のひらで撫でれば、ひくん、とそこが反応した。
「やらしい触り方」
揶揄する声には太ももをぺしゃりと叩いて応戦する。
くく、と笑ったカカシが、謝罪のつもりか尻たぶをちゅ、ちゅ、と啄んできた。
くすぐったいのに、その中に確かな快感を見つけ、背筋が震える。
中に埋められたままの指は緩慢に抜き差しされるだけで、決定的な刺激は与えてもらえない。カカシの意図を汲み取ったイルカは、震えそうな指を彼のウエストへ引っかけた。
腰を浮かせた彼からズボンと、下着を一緒に脱がしてしまう。膝まで下ろしてしまえば、あとはカカシが器用に足を動かして脱ぎ捨てていた。
ぶるんっと飛び出した性器は予想通り雄々しく勃ち上がっていて、むわりとした淫猥な熱気がイルカの鼻腔を満たした。
太く固い幹に唇を寄せる。つるつるとした表面に浮き出た血管、張り出した裏筋は怖いほどで、指を咥えた場所が浅ましくひくつく。
他の男のものは知らないが、里のどこを探してもこんな立派な魔羅には巡り合えないんじゃないかと思う。本人に言ったら面倒な解釈をして臍を曲げそうなので言わないが、イルカはそれくらいカカシの物に惚れ込んでいた。
れろりと出した舌で幹を舐め上げる。血管のぷにぷにとした感触にすら興奮して息が上がる。
張り出した傘を一周するように舐め回し、なめらかな先端にちゅうと吸い付いた。じゅわりと染み出した先走りの何とも言えない塩辛さに、咥内へ涎が湧き出る。
久しぶりの男の味を楽しみながら、イルカはそのままずぶずぶと雄を飲み込んでいった。
若い頃より角度こそ落ち着いたかもしれないが、硬さ、太さ、持続力のどれを取ってもカカシのものは立派だ。
「ん……」
カカシの腿に両手をついて身体を支え、歯を当てないように雄を愛撫する。頭を上下に揺らすと彼も腰を動かしてついてこようとするから、喉奥を突かれて思わず呻いた。
いったん口を離し、ずび、と鼻を啜ってから今度は布団に片手をつく。空いた手で陰嚢をやわやわと揉むと、カカシが色っぽい息を吐いたのが分かった。
精のたっぷり詰まった双球を優しく揉みながら、竿を再び咥内へ迎え入れていく。
唾液をまぶして雁首を舐め回していると、後ろに埋まったままだった指がにゅるりと引き抜かれた。ぞわりとした刺激に背中が震える。
しかし、少しの間もなく今度は二本に増えた指が挿入された。
「うあ、あ……!」
ずぶずぶと遠慮なく押し入って来る指が嬉しくて、少し苦しい。イルカはカカシの雄の根元をきゅうと握り、びきびきと筋を浮かせるそれにしゃぶりつくことでどうにか、みっともない声が上がるのを堪えた。
咥内に唾液が溢れる。上顎に先端を擦り付けるように舐めしゃぶれば、頭がぼうっとするような快感に包まれた。時間をかけてカカシに仕込まれた身体は、口の中ですら性感帯に変わっている。
この雄がこれから自分を突き上げてくれるのだと思うと愛しくて堪らない。先端を喉の入り口に招きながら茎に舌を絡める。頬をすぼめた顔は端から見ればひどい有様だろう。
火影を退いたカカシがいくら不要と言っても、少なからず護衛がついているのをイルカは知っている。現役の頃から彼は寝室に護衛が潜むことを許していないと言っていたが、万一にでも誰かに見られたらと思うと、どこか震えるような興奮に包まれるのも確かだった。
「イルカせんせ、気持ちいいね。後ろ、すっごいよ。俺の指おいしそうにしゃぶっちゃって」
「……っは、あ、だって……」
「ふふ、一人でするイルカ先生も可愛いけど、俺とやってる時はもっと可愛いよ」
見てきたようにカカシが言う。
実際、昔は何度か自慰を覗かれたこともあったのだ。その時に感じた羞恥を思い出し、あらぬところがぞくぞくと疼く。
「ん、ん……う、ふぅ……っ」
たっぷりとした陰嚢を揉み、茎を扱き、先端から溢れる蜜をじゅうじゅうと吸い上げる。
喉を開いて深く呑み込むと、苦しさに比例して痺れるような法悦が走った。思わず腰を振り、きつく勃起したものをカカシの胸に擦り付ける。それはすぐさま伸びてきた彼の手に捉えられ、巧みな手つきで摩擦を与えられた。
同時に孔の中をぐちぐちと掻き混ぜられる。感じる場所を遠慮なくぐりぐりと押され、目の前に星が散る。
このままでは射精してしまう、と思ったとき、陰茎の根元をきつく圧迫された。それまで放置されていたのに、いきなり、だ。
「んーっ! んっ、んんっ!」
びくびくと腰が跳ねる。咄嗟に開いた口から飛び出した雄が、跳ね返ってイルカの鼻をしたたか打った。
つんとした痛みの後、いやらしい匂いに鼻腔が満たされ、身体の力が抜けていく。イルカはべしゃりとカカシの上に伏せ、自分の身を襲った快感の渦をやり過ごそうと息を荒げた。
けれど、カカシの指は達したばかりのイルカの中に未だ居座り、敏感な粘膜をねっとりと撫で上げている。それどころか広がった孔のふちをちろちろと舐められ、びくんっと大げさに身体が跳ねた。指と孔の隙間からぐにぐにと入り込んでさえくるそれに、イルカは身も世も無く喘いだ。恥ずかしい、でも、感じて堪らない。
目の前の彼の幹はもう育ち切っていて限界も近いはずなのに、イルカを嬲る手は止まらない。
いつのまにか解放されたイルカの陰茎は、腹の間に挟まれ気付かないうちに吐精してしまったようだった。カカシが指を動かして中の膨らみを擦るたび、とぷ、とぷと吐き出している気がする。
「う、うぅ……も、いじら、ないで……うあっ、ひ、ひっ……」
「うーん、まだいけそうじゃない?」
じゅじゅ、と大げさな音を立てて舌を引き抜いたカカシが、とぼけたように言う。ふ、と尻の間に息を吹きかけられ、イルカの鼻から子猫のような高い声が抜けていった。
「や、あ、ら、らめれす、こ、これ、入れて」
目の前の雄を手のひらで掴む。どく、どくと脈打つそれをぺろりと舐め、力を振り絞って身体を起こした。
カカシの上から降り、倒れ込むようにして仰向けに転がる。背中に当たるシーツが冷たい。
のそりと起き上がった彼に向って、曲げた膝を大きく左右に開いた。急所を晒し、情けを請う格好だ。
カカシの顔には薄く笑みが浮かんでいる。二つ揃った濃灰色の瞳に鋭い光が宿り、イルカをじっと見下ろしていた。
恐怖にも似た快感に比例してイルカの口角は上がっていく。
結ばれて何年経ってもなお、彼が自分を求めてくれることが嬉しい。自分に足りない何かが満たされていくような、そんなイメージが頭に浮かぶ。
実力は折り紙付きな上に、一度は火影に上り詰めた男だ。その遺伝子を求めて見合いの声が数多かかっていたことも嫌と言う程知っている。女だろうが男だろうが、本気になればどんな相手も手に入れられただろう。
それなのに、カカシは自分を選んだ。
初めて身体を繋げた夜から、互いに他の人間とは関係していない。
二十年近く、互いだけなのだ。
「――カカシさん」
「ん?」
イルカの痴態を見下ろしていた男が、眉を上げて視線を合わせる。
イルカは股の間、深いところへ両手を伸ばし、先ほどまでカカシに可愛がられていた孔に手を添えた。揃えた指先で左右にぐにぃ、と割り開く。くぱりと開いた孔が彼によく見えるように。
「俺の中、カカシさんでいっぱいにしてください」
すう、と冷たい空気があらぬ場所を掠める。はしたなく蠢くその場所に痛いほどの視線を感じた。
「まったく」
カカシがイルカの腿を掴む。手のひらが、熱い。
「悪い先生だ」
窄まりに彼の雄が擦り付けられる。
先走りをなすりつけるように孔の上を二度、三度を擦ったカカシは、イルカの腰を支えずぶりと矛を突き立ててきた。
「あっ、あ……!」
熱い塊に身体を開かれる。
ぐぐぐ、と体重をかけてイルカの中に入り込んできた熱は、浅い場所で一度止まった。
先端が良い場所を掠め、くいっと軽く突き上げられるたびにびくびくと脚が震える。
「っ、あー、最高……」
呟いたカカシに真っ直ぐ見下ろされる。逞しい男に組み敷かれているという背徳感は、何年経ってもイルカを燃え上がらせた。
カカシもそれが分かっていてわざと夜は傲慢に、意地悪に振る舞っているのだと感じることがある。昼間の彼はイルカに対し献身的で、驚くほど優しいというのに。
そんなことを思いながらうっとりとカカシを見上げていると、彼が薄く笑ってイルカの腹を撫で擦った。
「そんな物欲しそうな顔しちゃって。ここまで入れてほしいの」
ここ、と言いながら指で押された場所が、かっと熱を持つ。
人より長いらしい彼の逸物が深いところまで入り込むことを想像し、イルカの口から細い喘ぎが漏れた。一緒に、後ろをきゅうと締め付けてしまう。
「あぁっ、はぁ……あ、んっ……ほ、欲しい、です」
「そーう? どうしようかな」
「あっ、あっ! やっ、あんっ、あ、あ、そ、そこぉ……んんっ」
小刻みに揺さぶられる。カカシの切っ先が前立腺を裏側からとんとんと叩き、イルカは陰茎を揺らしながら頭を振った。下腹の奥が燃えるようで、とてもじっとしてはいられない。
カカシの腕を掴んでやめさせようとしても効果は無く、むしろがっちりと下半身を押さえつけられ逃げ場を失う。
気持ちが良すぎて耳までじんじんとしてきた。目の端からは涙が零れ、もしかしたら鼻水も出ているかもしれない。
「あ、あーっ、すごい、だめだ、いく、いっちまう」
「いいよ、見ててあげる」
「やっ、あっ、だめですって、ほんと、あ、あ、あー……っ!」
ぎゅうとつま先に力が入る。尻の筋肉が締まり、カカシを咥えたまま腰がびくびくと跳ねるのが分かった。
イルカは顎を引いて強く目を瞑り、彼の腕を握り締めたまま絶頂を迎えた。射精を伴わないそれは快感が深く、勝手に足がぴくぴくと動いてしまう。
ふー、ふーと息を荒げたまま薄目を開けば、自分を見下ろしているカカシと目が合った。
銀の前髪の下から、眠そう、と揶揄される双眸がじっとイルカを見つめている。
「カ、カシ、さん……」
どうにか言えたのは彼の名だけだ。
イルカが手を伸ばすと、彼は心得たようにそれをぎゅうと握ってくれた。指の間に指を絡め、汗までもが混ざり合う。
「イルカ、俺の可愛いイルカ」
指にカカシの唇が触れる。跡が残りそうなほど強く吸われたのは薬指だった。ロマンチストな恋人に、達したばかりの身体が甘く反応する。
手を引き、気だるい足を大きく開いてカカシの身体を引き寄せる。
いつの間にか、互いの額には汗が滲んでいた。体臭などほとんど無い彼の、性交時にだけ僅かに香るスパイシーな匂いを深く吸い込む。
広い背中をぎゅうぎゅうと抱きしめればそれだけ挿入が深くなる。汗ばんだ背に指を食い込ませ、肩に歯型を残す。
俺のものだ、この男は俺だけのものだ。
決して口には出せない思いを心の中で繰り返し、言葉の代わりに彼の腰へ足を絡めた。
「っ、う……」
息を詰めるカカシが愛しい。
深い場所をずぐりと突かれ、イルカもまた高く喘いだ。背骨が溶けていくような甘い官能に、二人の腹の間でイルカの雄が弾ける。
「あっ、はぁ、あ……んっ、あ、カカシさん、カカシさん、好き、好きいっ」
「イルカ、好きだよ、愛してる」
「俺も、愛してる、あっ、ああ、うぁあ……っ」
カカシが腰を動かすたび、長いストロークで肉壁を擦り上げられる。小さい絶頂を何度迎えたかも分からず、一突きごとにびゅくびゅくと薄い精液が噴き出した。
「ん、ん、あ、もうだめ、だめ、いく、いってる、う……あっ、あ……んぅっ」
「うん、イルカの中すごくうねってる。気持ちいいよ、ねえ、俺ももう出そう」
「あっ、だして、なか、あ、んっ、おねが、い」
「ん、いっぱい飲んでね」
ずん、と深い場所を突き上げられ、喉を晒して仰け反る。無防備な首筋へがぶりと歯を立てられたのを感じ、びくびくと身体が震えた。
自分がカカシを抱きしめ離さないでいたはずなのに、いつの間にかイルカの方が身動きもとれないほど押さえつけられている。
身体の奥、それ以上進んではならない場所をしつこく突かれ、こじあけられそうになってもイルカは逃げることもできなかった。
何度となく受け入れてきた場所が、久しぶりの刺激に悦び降りてくる。
「あっ、あっ、だめ、そこ、そこで出しちゃ、あ、あぁ……っ」
制止も空しく深く突き上げられ、ぐぽ、と腹の奥で何かが開いた感覚があった。
目を開けているはずなのに何も見えない。ひぃ、と聞こえたのは己の声だろうか。
耐えきれないほどの法悦に、全身がこれ以上ないほど熱くなる。
「っあー、すご、最っ高……痛くない?」
艶っぽい声を耳に流し込まれても、イルカは返事をすることもできなかった。カカシの手が髪を撫で、唇をじゅうじゅうと吸われる。そこでやっと、自分の腹が熱いものでひどく濡れていることに気付いた。漏らしたのだ。少し遅れて、独特のツンとした匂いが鼻をついた。
「あ、お、おれ、ごめんなさ……」
「ん? いーよ、後で全部舐めてあげる」
「へっ、へんなこといわないで、あ、や、うごいちゃ、あっ、うひぃっ」
行き止まりだった場所を突き破ったカカシは、小刻みにそこで抜き差しを始めた。灼けるような快感が腹の奥から湧いてきて、喉からは潰れた、ひどい声が漏れる。
涙か汗か鼻水かわからない液体で顔もぐちゃぐちゃだ。カカシがべろべろと舐めるから、涎も混ざっているはずだ。
余裕のない濃灰色の瞳が間近でイルカを見下ろしている。開きすぎた足は痛いし腰は明日使い物にならないはずだが、それでもこの切羽詰まった表情が見られるなら嬉しかった。
ストロークが深くなる。
ぱん、ぱんと肌のぶつかる音が大きく、速く響き、終わりが近いことを教えていた。
イルカはどうにかカカシの腕に縋り、あああ、と揺さぶられるままに声を上げる。
四十をとうに越えたと思えない体力で腰を打ち付けてきたカカシが、最奥でぐぅ、と低く唸った。ぎゅうぎゅうと抱きしめられながら、そのまま二度、三度と腰を打ち付けられる。
「あっ、あっ、あー……は……ぁう、ん……」
か細い女性なら気を失うのではないかと思うほどの力で締め付けられ、身体の奥が白く侵されていく。男の身体では何も生まず排出されるだけのそれが、ひどく愛しい。
やがて、カカシが長く息を吐き出す。あわせて拘束が緩んだのを見計らい、イルカは自分から彼の唇に吸い付いた。
薄い上唇を吸い、咥内に舌を差し入れる。彼の長い舌に迎えられ、ねっとりと絡め合い、流し込まれる唾液を飲み込む。
上も、下もひとつになって、充足感に心が震えた。
長い口づけが終わる頃には、互いの呼吸も落ち着いてくる。名残惜しく思いながら顔を離すと、カカシの両目が優しくイルカを見つめていた。
「せんせ、好きだよ」
「俺も、愛してます」
言葉を返せば、カカシの瞳が見開かれる。そうして、くしゃりと相貌が崩れた。
「それは反則」と言いながらくっくっと笑う彼に、小さな意趣返しが成功したと嬉しい。けれどその反面、カカシが笑うたびに繋がったままの下肢が刺激されてしまう。
このままではまずいな、と思ったところで、カカシがイルカの額に小さな口づけを落とした。抜くよ、の合図だ。
「ん、んっ」
ずるずると、ゆっくりと中のものが引きずり出されていく。
数えきれないほど身体を重ねてきたが、この感覚だけはどうしても慣れない。
先端まで抜かれた時にはカカシの腕を強く掴んでしまった。それでも、びりびりと痺れるような快感が指先まで走り抜ける。
カカシが身を起こし、先ほどまで自分が収まっていた場所をじいっと見つめていた。恥ずかしくて足を閉じようとしても、どうにも力が入らない。
どうせ、最中に漏らした身だ。今さら取り繕っても仕方がないと開き直る。
だらりと両足を開いたまま、イルカは額に流れる汗を乱暴に拭った。
漏らしたうえに中に出されたとあっては風呂場で掻き出さなければいけないが、行動に移す気力が残っていない。
イルカが足だけでなく両手もシーツに投げ出して寝転がっている間に、素早く起き上がったカカシは一度寝室から出て、タオルとペットボトルを携えて戻ってきていた。
「素っ裸で歩き回らないでくださいよ」
「なに、興奮しちゃう?」
股の間に凶悪なものをぶら下げて、カカシがにやりと笑う。
襖を開け閉めした時に入り込んだ冷気が気持ち良くて、どれだけ汗をかいていたのかと思い知った。
イルカは寝転んだまま、先代火影による甲斐甲斐しい世話を受ける。
温かいタオルで身体を拭い、性器すら持ち上げて拭いてもらう。ぬかるんだ孔周りは言うまでも無く、イルカは黙ってローションや精液、そして尿が拭き取られていく様から目を背けるのみだ。
自分でやると言って断られるのは分かっているから、もう申し出る気もしない。
「落ち着いたら一緒にシャワー浴びようね、先生」
嬉し気にカカシが言う。顔をそむけたまま、こくりと頷いてみせた。
足腰が立たないのは目に見えているから、いつものようにカカシに抱えられて行くのだろう。
初めは、冷たい人なのだと思っていた。こんな風に、事後の恋人を甲斐甲斐しく世話する男だなんて、思いもしなかったのだ。
カカシに背を支えられ、大人しく体重を預けて水をひとくち口に含む。常温のそれが優しく胃に流れていった。
身体の熱が冷めてきたからか、肩がぶるりと震える。
「そろそろ行こっか」
背と両膝の裏を支えられ、カカシに抱き上げられる。その拍子に尻の合間から精液が零れそうになり、きゅうと力を入れねばならなかった。
彼の首に手を回す。
器用に片足で襖を開け閉めするカカシの、目尻には加齢による皺が刻まれていた。二人で重ねた年月が胸に去来する。
ごくごく浅いその皺が両目揃って見られる幸福に、鼻の奥がつんと痛んだ。
久しぶりに会えたからだろうか、感傷的になっている自分に苦笑する。
「なーに笑ってんの」
目の前でカカシが微笑む。
イルカは小さく首を振り、愛しい伴侶にしっかりと抱き着いた。
「ところで、イルカ先生」
「はい?」
「俺が帰ってくるまで一人で何してたのか、後でゆっくり聞かせてもらいますからね」
「えっ、いや、それはもういいじゃないですか」
「だーめ」
「え、えぇ……」
終
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